表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/18

秋音、街へ行く 前編

「、、、ききら、何やってんだい」

頭から落ちつつも、図太く寝ているキキラ。

秋音は呆れたように声を掛けるが、誰かを起こしに行くことが新鮮で嬉しく感じていた。

「んぅ、、、お、やすみ、、、」

ついにもう一度寝ようとしている。正に図太さ(極)である。

「こらぁ、寝んといて!」

なんとか頑張ってキキラの体を起き上がらせ、ゆさゆさと揺らす。

「、、、、、んがっ!?あれぇ、あーね?どうちたの?」

頭ががくんがくんと揺れる程揺らして、やっと起きた。

「どうちたの、とちゃうわ。何でこないに起きひんのよ?図太いなぁ」

「んー?えへへー」

褒められるどころか貶されているのに、何故か嬉しそうに頭を掻いている。

「はぁー、、、。まぁええわ。それより、朝餉食べに行きまひょ」

やれやれ、とでも言うように頭を振りつつ、秋音は笑顔で言った。

「うんっ!ごはんー、ごはんー!」

朝餉と言った途端、ぱぁっと笑顔になり、立ち上がってビューンと下へと走っていってしまった。

「凄い速さやったなぁ。、、、、ふふっ」

キキラの張りすぎた食い意地も、朝から賑やかなのも楽しくて、思わず笑みを零す秋音であった。


「おはよぅさん、めいか」

開けられた窓掛けから光が降り注ぎ、明るくなっている台所と居間は、何だか清々しくて元気が出た。

「あっ!おはようございます、アキネ様!昨晩はよく眠れましたか?」

こちらに気が付いたメイカが、元気よく話し掛けてきた。

「あぁ、勿論やわぁ。えらいよう眠れた。あ、あと花やら蝋燭やらおおきになぁ。ええ匂いで嬉しかったわぁ」

「え、えへへ、、、。そう言って貰えると、嬉しいです!」

はにかんだ笑顔で、然も嬉しそうに言う。こちらまで嬉しくなってくる。

「う〜、おねえちゃん、、、、」

恨みがましそうな声が聞こえた。

振り向くと、キキラが両手に匙と突き匙を構えながら、メイカをじぃっと見ていた。

「あー、はいはい、御飯ですねー。ちょっと待ってて下さいねー」

少し呆れ気味にメイカが言った。いつもこうなのだろうか。

「ふふっ、お腹空いたやんなぁ」

思わず笑ってしまった。キキラは未だご機嫌斜めで、「むぅ〜」と言っている。

「ほら、もう出来ましたよー。キキラには玉子焼き多めにしてありますから、機嫌直して下さい」

「むむ〜、、、。たまごやきは、ちーじゅいり?」

「はい、入ってますってば」

「やったー!ちーず、ちーじゅっ!」

流石はメイカ、飴の使い方が上手い。だが、秋音にはそこより気になることがある。

「所で、ちーずってなんや?」

「ちーず」とやら秋音が聞いたことも見たことも無い、知らない単語だ。知らないものは、完璧に理解したい、というのがどうにも研究者気質な秋音の性である。

「えー?あーねぇ、ちーじゅしらないのぉー?」

「ぅ、し、知らへんものはしゃあないやろ」

キキラに煽るように聞かれて、少し悔しい秋音だが、開き直った。

「チーズっていうのはですねー、、、、あっ!」

「ん、どうしたんや?」

説明しようとしたメイカの言葉が止まる。

「えっと、さっき使ったのでチーズ最後みたいでして、、、。」

「えぇー!?ちーず、もうないのぉ?」

キキラが悲壮感溢れる顔でメイカを見つめている。あまりにもショックだったのか、手に持っていた匙をボトンと落としてしまった。

「えぇ、わっち気になっとったのに、、、」

秋音も悲しげな表情を浮かべる。

「う、うぅ、、、。そんな顔で見つめられても、、、、。」

メイカが幼子二人の悲しい顔に揺れている。

「ちーず、食べたいなぁ、、、」

お?と思った秋音が、目を潤ませながら、更に揺さぶりをかける。

「う、、、、もう!分かりましたよ、今日は久々に街で買い物しますか?」

「え、いいの!?やったー!おかいもにょ、たのちみー!」

嬉しそうにキキラが拳を振り上げる。

「ほんまかい!?おおきにねぇ、めいか!」

秋音もぱぁっと笑顔になる。

「喜んでくれるならいいですよ。でも、その代わり、荷物はしっかり持ってもらいますからね!」

「うっ、、、、分かったよぅ」

「あーい、、、、」

メイカは鞭の使い方も上手いようだ。

「じゃ、まずは御飯にしましょうね!」

そう言ってメイカが持ってきたのは、秋音にとっては見慣れない洋食だった。

チーズ入玉子焼き、黒パン、サラダに牛乳。少しだけだが、ジャムもついている。

「おいししょう!いただきまーしゅっ!」

「ちゃんと噛んで食べて下さいね!それじゃ、私も、いただきます!」

見慣れない料理に戸惑っているうちに、二人はどんどん食べていく。

「、、、いただきます」

その様子を見て、秋音も料理に手をつけた。

「あむ、んぐ、、、、美味しい!」

とりあえずよく食べる玉子焼きを食べてみた秋音。チーズの少し独特な匂いがしたが、今までの御飯よりもずっと美味しい。

「美味しいですか?へへ、よかったです!」

「おねちゃんにょたまごやき、おいちいでしょ!」

嬉しそうなメイカと何故か自慢気なキキラ。

「うん、えらい美味しいよぅ」

秋音も笑みを返した。

「こっちは、蒸餅、、、かな?」

小さい声で呟きながら、黒パンを手に取る。

「あっ、パンにはジャムをつけて下さいねー」

「あ、あぁ、うん」

差し出された瓶の中に入っているジャムを、メイカの見様見真似で掬い取り、パンにつける。

「あーんっ、んっ、甘い!美味しいねぇ」

少し硬めで噛み応えのある素朴なパンに、ジャムがよく合う。

食べたことがない甘酸っぱさに、秋音が目をパチパチさせている。

「果物みたいな味やなぁ、美味しいわぁ」

「お口に合ってよかったです!私が作ったんですよ!」

にこっと笑って言うメイカ。

「へぇ、手作りなのかい?凄いなぁ。どないして作るん?」

「えーっとですね、果物と水、蜂蜜を鍋に入れて、煮詰めるんですよ!」

「へぇ!」

これなら、あの家でも作れたではないか。無知だった自分が恨めしくて、秋音がぐぬぬ、と唸った。

「あたちもね、おてちゅだいしたよ!」

褒めて!というように、キキラが言った。

「ききらも作ったのかい?ほんまに美味しいわぁ。おおきにねぇ」

キキラがえへへ、と満足気に笑っている。

「蒸餅《パン》?やんな、これも二人が作ったのかい?」

「あぁ、それは買った物ですよ。石窯があれば作れるんですけど、面倒く、、、ん”ん”っ、お金がかかりますからねぇ」

「そうなんや」

「あ、折角ですしパンも後で買いましょうか!」

「パン!ふわふわパンー!」

買う、という言葉に反応して、キキラが足をパタパタさせだした。

「ふわふわのパンはちょっと高いので、少しだけですよ!」

「いえーい!」

にっこにこのキキラに、二人もつられて笑ってしまった。

その後も、美味しい御飯を食べつつ、楽しく談笑した。

牛乳とサラダのような生野菜はたまに食べていたので抵抗はなかったが、サラダがそういう料理だということには少し驚いた。


美味しい御飯も、誰かと食卓を囲むことも、秋音にとっては滅多にないことだ。

その滅多にない楽しい時間が、昨日、今日と続いていることが嬉しくて、少し目頭が熱くなった。


「よぅし、それでは買い物の準備をしますよ!キキラは自分で出来ますね?」

「うんっ!できりゅよ!」

キキラがぐっと親指を立てて見せる。

「わっちも自分で出来んで?」

秋音もそう言ったが、メイカは悩んでいる。

「うーん、でも、それって九尾の準備ですよね?」

「、、、え?いやいやいや、ちゃうで!ちゃんと外出するときの女子としてやわぁ!」

変な誤解をされている。そもそも、九尾の準備って何だ。

「あ、そうなんですか?すみません!、、、でも、女の子としての身支度だとちょっと、、、。」

「え?、、、あぁ」

初めて会ったとき、キキラは男物の服を着ていた。

そりゃそうだ。一人でとことこ歩いている小さな幼女。人攫いの格好の餌食だ。

それを避けるため、秋音も男装をするのだろう。

「男子の服装をしたらええの?」

「あっ、はい。出来ますか?」

「、、、、お願いします」

着たことがない服を着ようとして、ぐしゃぐしゃにしてしまうのは嫌だと、潔く諦めた。

「分かりました!」


「「おぉ〜!」」

出来上がった秋音男の子verは、思いの外似合っていた。

男物の服とポンチョを着て、長い髪は頭の天辺で結び、上から帽子を被って少しだけ髪をはみ出させれば、どこからどう見ても男の子だ。

「できたよー!」

丁度いいタイミングで、キキラも着替えてきた。

「わぁ、あーね、あたちといっしょ!そっくりだねぇ!」

「ほんまやねぇ」

同じ服と帽子で、更に瞳の色と背格好まで似ているため、まるで双子のようだった。

「二人とも、よく似合っていますよ!」

「えへへー」

メイカに褒められ、満更でもない二人。

「それでは、私も着替えてきますねー」

そう言いながら、メイカは秋音の服が入っていた籠を持って別の部屋へ行った。

「はぁい」

「あい!」

「着替えてきました!」

二人が返事を返してすぐに、メイカが戻ってきた。

戻ってきたメイカは、短剣使いのような身なりの全くの別人になっていた。

髪は栗色から赤茶色に、瞳は黒曜石から紅色に変わり、低めの背も三寸程高くなっている。

「うぇっ、え?速すぎひんかい?それに誰だか分からへんくなっとるよぅ?」

「あはは、私の特技なんですよ!」

「へぇ、すごいねぇ!」

あまりにも特出しすぎた特技のような気がするが、素直に感心することにした。

「それと、もう一つ。折角男の子の格好なのに、名前が女の子では意味がないので、偽名を使いましょう!」

「あぁ、確かに。わっちは何て名前や?」

「アキネ様はシュウ、キキラはラウ、私はメーナです。」

「ぼく、らう?」

思ったより飲み込みが早いキキラ、ではなくラウ。なんとなく、慣れているように感じる。

「わかった。しゅうだね?」

「はい。あと、シュウは口調変えられますか?私も変えますので」

「う、うん。頑張る」

秋音はともかく、メイカまで変えるのか、と思いつつも了解する。

「よし、ありがとう!それじゃ行こ!」

「おー!」

「お、おー」

本当に口調を変えて、メイカが元気に歩き出した。

後編はまた今度になります。

一気に書くほどの時間がなくて、、、。


見てくださった方、ありがとうございます。

次回、「秋音、街へ行く 後編」です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ