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秋音、化ける

舞妓さんって綺麗ですよねー

見る専ですが、服を着て気分は味わってみたいです

《うおぉぉぉぉぉおおぉぉおぉぉっ!紺野秋音に、なれえぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇええぇ!!!!》

「あんばれ、あーねっ!」

「頑張って下さい、アキネ様!!」

日暮れの近づく森にある小さな家の外で、何やら叫んでいる秋音と、その応援をする二人。

秋音に至っては、歯を食いしばって凄い形相になっている。

二人と一匹で必死に何をしているのか。

それは、少し前に遡る。


「あれ、そう言えば、どうやって九尾の姿で舞をするのですか?」

《、、、、あ》

一番大事なことを忘れていた。

この姿では、舞うどころか二足歩行すらままならない。

あからさまに気を落とす秋音を見て、メイカもなんとなくわかったのだろう。「やっぱりそうですか、、、、」と肩を落としている。

「あーね、だめ?」と、キキラにまで言われている。

「うーん、できないのなら仕方ないですね。でも、その手足だと家事も難しいでしょうし、、、。」

うーんと唸るメイカ。働かざる者食うべからずだが、その「働く」自体が難しいのだ。

「あーね、やくたちゃじゅ?まにゅけ?あほうぅ?」

幼子ならではの、純粋で混じり気のないシンプルな言葉だからこそ、ダメージも大きい。

秋音の鋼の心にも、流石にこの一言は刺さった。

そりゃあもう見事にぐさりと刺さり、ふらりと倒れた秋音は蹲ってピクピクし始めた。

「ちょっ、こら、キキラ!言っていいことと悪いことがあるでしょうがぁっ!!!」

メイカが慌てて窘め、叱りつけたが、時すでに遅し。ついに秋音が動かなくなった。

「ひゃぁっ、ひ、ひぐぅっ、あぁぁぁあぁぁああん!」

「あぁぁっ、大丈夫ですかっ、アキネ様!!キキラも、悪気があったわけじゃないんですっ!ただ、覚えたての言葉を使ってみただけであって、ほんとに、悪気があったわけじゃ、、、!キキラも、ちゃんと謝りなさい!!てか、どこでそんな言葉覚えてきたんですかぁっ!」

「ごめんちゃぁあぁぁいぃぃぃ!」

忙しなく怒ったり慰めたりするメイカと、わんわん泣き叫ぶキキラ。

《あ、あぁ、、、わかってるよぅ。わっちが、なんもできひん役立たずで間抜けで阿呆なことくらいねぇ、、、、》

顔を少しだけ上げてぶつぶつと言う秋音。何と言っているか分からずとも、ひどく落ち込んでいることが物凄く伝わってくる。周りの空気が真っ暗に見える。

そんななか、おろおろして見ていたメイカが、ピコーンとアホ毛を立てた。

「あ、あのぉー、アキネ様、、、、。私、すごいこと思いついたのですが、聞いていただいてもよろしいでしょうか、、、、?」

《ん、ええよ。こないな役立たずのわっちでよかったらねぇ》

恐る恐る聞いてみたメイカに、地面に突っ伏しつつ頷く秋音。

それを見て、メイカはとあることを言った。

「アキネ様が、人型に化ければ良いのではないでしょうか?」


そして、冒頭に戻る。

《うぐぐぐぐ、、、、、化けろぉ、、、、化けるんだよぉ、わっちぃ〜!》

「あんばれ、あーね、あんばれっ!」

段々と秋音の周りに赤っぽくてぼんやりと光る陽炎のようなものが集まり始めた。

暗くなり始めた森に、陽炎はよく映える。

それは、秋音や二人、周囲の木々や草花から出てきたもの、地面から立ち昇るものなど、様々なところから出てきた。

「頑張って下さーい!!化けられたら、本日分の働きは撤去して差し上げまーす!」

《ほんまかいっ!?そら頑張るしかあらへんなぁ!》

「「《、、、、、あ》」」

集中力が切れて、陽炎はふっと霧散した。

《ああぁぁぁっ!!折角それっぽなっとったのにっ!》

「あぁ、、、。私が話しかけたせいですよね、すみません。」

《いや、あんたのせいじゃないよ。それくらいで集中力を切らしたわっちが悪いんや。気にしなさんな》

しおらしくなってしまったメイカにひらひらと肉球をふる秋音。

《よぅし、もう一頑張りやなっ!》

「うんっ!あーね、あんばれーっ!!」

「は、はいっ!頑張って下さいっ!!!」

目を閉じて、ぐぬぬぬぬー、と力を入れる秋音。

秋音の脳内では、昔の舞妓姿の艶めかしい秋音の舞が何度も再生されていた。

手の動きから表情、顔の角度など、何度も魅せ方を研究した日々。

お客さんの前で舞い、「綺麗だねぇ」と言って貰えたときのあの嬉しさ。

何度思い出しても褪せることのない、かけがえのない時間を思い出していた。

思わず、口元が緩んだその時。

ふわぁ、と体が浮くような感覚があった。

「う、うわぁっ!?」

「アキネ様っ!?」

「あーね、ふわぁっ!?」

恐る恐る目を開けてみた。

だが、目の前の景色は何も変わっていなかった。

あんぐりと口を開け、間抜け面を晒すメイカと、キャッキャと跳び跳ねるキキラ、夕日の中で生い茂る熱帯雨林。

いや、少しだけ違う。

視線が、少し高くなっていた。

「あーねぇえぇっ!」

とてとてと駆け寄り、抱きついてくるキキラ。

秋音は、そのキキラと同じ位の目線の高さだった。

取り敢えず抱き返そうと、腕をキキラの背中に回す。

だが、背中に回したその手は、雅やかな大振袖に身を包んだ幼子のものだった。

「、、、、ん???」

キキラにどいてもらい、自分の体を眺める。

秋音は、しっかり二足歩行をした、着物姿の幼女になっていた。

「うえぇぇぇぇえぇええぇぇぇっっっ!?」

「、、、、す、すごいっ!やりましたね、アキネ様!!」

ようやく自我を取り戻したメイカが、手を叩きながら喜ぶ。

何度目を擦っても、目の前にあるのは、ちゃんと人間の姿である。

「え、、!せ、成功したぁぁあぁっ!やったぁぁああぁあっ!!!!!!!」

二人と一匹、いや、三人はみんなで跳び跳ねた。

「それにしても、すごいですねぇ、アキネ様!私はてっきり、何も着ていない女の子が出てくるものだと思っていました!」

「あ、あぁ、、、確かに言われてみたらそうやなぁ。舞妓姿のわっちを思い浮かべといてよかったわぁ」

驚くところはそこなのか、と思いつつ、確かにと頷く。

「あーね、かぁいい!ふく、きれー!」

くいくいと服を引っ張りながらにっこりと笑うキキラ。

「ん、大振袖のことかい?、、、、ほんまや、えらい上等で綺麗なもんだなあ。」

言われてみれば、秋音の着ている大振袖はとても見事なもので、乳白色の地に赤や橙の紅葉が散らされており、右下には斜めに大輪の黄色い菊が咲いていた。

所々に金糸も縫い込まれ、きらきらと光っている。

そしてその上に、巫女が羽織るような菊の青摺の千早を羽織っていた。

少しちぐはぐだが、まさに絢爛豪華で雅やかな美しい着物は、秋音にとてもよく似合っていた。

「そうですよね!私もこれほど見事なものは、本国でしか、、、はっ!何でもありません!」

すごくわかりやすく口籠るメイカ。

どうやら、どこかに二人の母国があり、そこは秋音の故郷と同じように着物があるらしい。

「うーん、着物だけでこない見事なんなら、簪なんかも見てみたいねぇ。めいか、どっかに鏡はあらへんかい?」

敢えて触れずに、秋音は聞いてみた。

「あっ、はい!姿見が家にありますので、中へお入り下さい!」

そう言って、玄関へと向かわせるメイカ。

そのまま走って行ってしまうのかと思いきや、長い袖と裾を持ち上げてくれた。

「あら、ありがとさん」

「いえ、慣れておりますので」

ぽろっと国のことを漏らすメイカ。聞かれたくなさそうにしていたというのに。

「へぇ、慣れてるのかい?」

「、、、あっ!忘れて下さい!」

秋音にわざとらしく聞かれて、慌てて訂正する。まぁ、もう遅いのだが。

あたふたするメイカと楽しそうなキキラを横目に、久々に履く木履(ぽっくり)によろける様子など微塵も見せず、秋音はスタスタと歩いていった。


家の中の姿見で見た自分は、美しい大振袖と紅葉の簪を身につけたとても愛らしい幼女で、幼い頃の秋音にそっくりだった。顔だけだが。

というのも、秋音の自慢でもあった艶のある黒髪はさらさらの絹のような白髪に変わり、割れしのぶを結っている。頭と尻からは九尾の耳と尻尾が生えていた。

ご丁寧に、着物と同じ黄色い菊柄のだらり帯で丁度隠れる辺りに穴があり、そこから尻尾が出ていた。

変わっていないのは目鼻立ちと透き通るように白い肌くらいで、綺麗な黒曜石の瞳も、紅葉に染まっている。

紅玉のようで美しいのだが、見慣れない自分の姿は違和感でしかない。

「こらまた、見事なおべべやなぁ」

感心しつつも、苦笑いを浮かべる秋音。

「本当に!綺麗ですよ、アキネ様!とても似合っていますし」

「あーね、かぁいい!」

褒めちぎる二人に、初めて舞を披露したときの光景が重なり、少しこそばゆくなった。

それを振り払うかのように、

「よぅし、ほな、わっちの舞を見したるでぇっ!」

と意気込んだ。

「おぉっ!九尾の舞、見せて下さーい!」

「まーい、まーいっ!」

わぁっと盛り上がる二人のお客様。

周りに物がないことを確認し、秋音は舞を始めた。


化けたときから帯に挿されていた扇子を、振り袖で隠しつつ抜いて用意をする。

膝をついて扇子を置き、振り袖を払って綺麗に揃えた指を地面につけて頭を垂れる。

シャラン、と、銀びら簪が揺れた。

それだけの動きでも分かるほど、秋音の動きは洗練されていた。

指の角度、払った後の振り袖の広がり方や形に至るまで、どこか艶めかしく、美しい。

頭を上げた可愛らしい幼子の顔に、さっきまであった明るく幼い雰囲気はない。むしろとても大人びた表情で、蠱惑的にすら見える笑みを湛えていた。

思わず息を呑む二人。

鼻歌を交えて歌いながら立ち上がり、扇子をゆっくり開いた秋音は、袖や帯をひらひらとさせながら、たおやかに四肢を動かす。

時折、止まって顔を見せるが、その時も自分が一番美しく見える角度と表情になっている。

ゆったりと滑らかに動く指先に、目が釘付けになる。

ひらりと動く扇子にも黄色い菊が描かれており、それが光を反射してきらきらと光っている。

どの瞬間を切り取っても絵になる美しい舞を、二人は食い入るように見つめていた。

そして、また膝をつき、扇子を置いてから頭を垂れた。

「、、、、どうでござんしたか、わっちの舞は?」

頭を上げた秋音が、扇子をばっと開いて口元を隠しながら微笑んで聞く。

「す、すごかった、です!すごかったです、アキネ様!!もう、滅茶苦茶綺麗で、妖艶って感じで、、、!ほんとすごかったです!」

「あーね、きれー!!ひらひらー、きらきらーって!にこにこも、かぁいかったにょ!」

興奮した様子で、秋音の真似をしてくるくると回るキキラ。

口々に感想を述べる二人に、秋音は満足気に笑った。

「ふふふ、お眼鏡に叶って、ようござんした!」

そう言う秋音の顔には、もうさっきのような妖艶さはなく、無邪気な少女に見えた。

「こんなに見事な舞を舞えるだなんて、市井の中でも人気間違いなしですよ!」

「そうかい?わっちはまだ舞妓やし、もっと上のものもぎょうさんいはる思うんやけどねぇ」

いつか見た憧れを思い浮かべながら、秋音は言ったが、

「そんな、そんな人見たことありませんよ!今まで私が生きてきた二十八年間、そんな人一度もいませんでしたもの!」

と言われた。

「あーね、きれぇ、しゅごい!」

「、、、ふふ、そう言うてくれるんなら、悪い気はしいひんよ。おおきにな」

秋音の表情はあまりころころ変わる方ではないが、それでも十分に分かる、はにかんだ笑顔を浮かべた。

ほんのり赤く染まった頬が、とても可愛らしかった。木履(ぽっくり)

見てくださった方、ありがとうございます

次回、「秋音、初めての夜の森 * キキラの幻」です。

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