秋音、勉強する
「カロス!」
秋音達が巣の空間に入り込んでから一月ほど後のこと。
それ以来二、三日に一度は秋音とキキラが来ていた巣の空間に小さな子供の鈴を転がす様な声が響く。
「何じゃ?おぉ、秋音、久しいの。今日は一人かの?」
声の主は秋音だった。巣から出てきたカロスが悠然と微笑む。
「久しい言うても四日振りやろ。やのうて、その、今日は頼みがあって来たんや」
「ほほう、頼みとな?あのちょっとツンデレな秋音たんが儂に頼みとは、こそばゆいが悪い気はしないのぅ」
「ほんま?おおきに!で、頼みっちゅうんは、、、」
カロスが快諾すると、珍しく笑顔で話し出す秋音。カロスもふんふんと聞き、にんまりと笑った。
「勿論協力するぞい。その代わりしっかり取り組むんじゃぞ」
「勿論やわぁ!おおきにカロス!」
珍しく、然も嬉しげに笑った秋音は、年相応の幼子に見えた。
「それじゃ、カロスの役に立つかも☆お勉強大会を始めるぞ!」
「「おー!」」
拳を突き上げて盛り上がっている三人は、現代日本の学校の教室そのものに様変わりした巣の空間にいた。
カロス曰く、「この空間は文字を吸われた古本を元に出来てるからの、人の考えたものを自動的に自らに記し、実現させる事が出来ると言う術を掛けられるんじゃよ☆見た目だけじゃがの」とのこと。
要するに、誰かが林檎を思い浮かべれば、それを紙が吸収し、見てくれだけのハリボテの様な実体を作り出すらしい。
秋音が初めてここに来た際沼が現れたのはこの作用によるものだし、沈んだのに汚れなかったのは見てくれだけの実体だからだそうだ。
因みに、沈む事自体は卵、もといカロスの家の防衛手段の一つとして掛けた術らしい。
閑話休題。ネーミングセンスは置いといて、これから三人が始めるのは、勉強会である。
冒頭で秋音がカロスに頼み込んだのは、「これからこの世界で生きて行くために、強く博識になりたいから協力してくれ」という内容であった。
その為、カロスが「先ずは勉強じゃ!」と意気込み、今の状況が出来た。
「これから、二人がこれから生きて行く上で必要な事から専門的な事まで幅広〜く教えていくから、しっかり覚えるんじゃぞ!」
「「はい!」」
腕を組み、教師然と声を上げるカロスに元気良く返す二人。
それを見て満足気にむふー、とドヤ顔をしながら、カロスは授業を始めた。
「ぴゅへぁあ、、、、」
「ふぅ、ほっこりしたねぇ、、、、」
思わずなんとも気が抜ける声を出すキキラ。秋音も若干ぐでぇっとして椅子に凭れている。
これまであまり市井に触れて来なかった二人、特に秋音はお金の単位すらも知らなかった。その為、先ずは売買などお金に関する事を学ぼう!となり、一刻(二時間)程みっちりカロスに教わっていた。
二人共、特に勉強や何かを教わる機会の無かったキキラは「頭を使う」という普段の運動とは違う疲れにぐったりしていた。
「最初からちょっとペース上げすぎたかの?すまぬ、儂そういうのよう分からんくて。今度はもっと休憩とか取るし、疲れたら教えてくれるかの?」
二人とは打って変わって普通に元気そうなカロス。流石は本の虫(種族)だが、二人はまだまだやる気があるらしく、
「おおきに、そやけどわっちは休憩挟んだらまだまだいけんで!」
「あっ、う、うん!あたちもいける、けど、おかしたべりゅじかんがほちいかな?」
と笑って言った。
「ふぉふぉ、そうか。まだまだ行けるか。ま、キキラの言う通り、取り敢えずお菓子を食べるのも良いかもしれんの」
「爺様達、お疲れ様ぁ〜」
仮面の尖った口吻(蚊の口の部分ぽい)を撫でながら朗らかに笑うカロスの言葉に続いて、間延びした子供の声と共に人影が現れた。
「おぉ、大して世話を焼かずとも元気に生きとる強かな我が倅よ、どうしたのじゃ?」
「その通りだけどそこだけ聞くとなかなか酷いよねぇ爺様。まぁ僕達はそういう種族だけどぉ。お菓子のお裾分けだよぉ〜」
声の主は小さい方の本の虫。何故か、何処にでもいそうな、だけどどこか人形の様な印象を受ける七歳程の子供の肩に乗っていた。
「あ、えーと、本の虫(小)一号でええか、そのお菓子貰うてええの?ちゅうか、その子ぉここに入れて良かったん?」
秋音が男の子とその手に握られている籠に入った沢山のクッキーを指差す。
「わぁぁっ、おいしそぉ!どーぶつのかたちで、かあいいねぇ!」
「はい、あげるぅ。えっとねぇ、ここの空間の紙に掛けてある、具現化の術って知ってるぅ?あれで作った男の子だからぁ、偽物だし大丈夫だよぉ」
途端に元気になって目をキラキラさせながら駆け寄るキキラに説明する本の虫(小)一号。
言われてみれば、男の子の目も口もピクリとも動かない。胸が上下するのも見られない事からも、生きてはいないと分かる。
なるほど、だから生気の無い、人形の様な印象を受けたのかと納得しながら、秋音も立ち上がり、礼を言ってクッキーを受け取った。
「おおきにな、一号。わっち、くっきぃみたいな甘過ぎひん甘味好きやわぁ」
「うんっ、あたちもくっきーしゅき!ありがとぉ!」
「そぉ?良かった〜。じゃ、勉強頑張ってねぇ〜」
手をひらひらと振りながら、見えない影(それぞれの部屋である空間に繋がる扉らしい)へと帰る一号を見送りつつクッキーをもしゃもしゃ食べる。
素朴なクッキーにはジャムが入っており、甘酸っぱくて美味しくて、どこか暖かかった。
「よち、もうちょっとがんばりゅぞ!」
「ふふ、わっちももう一頑張りしまひょ」
美味しさに緩んだ口元をキュッと引き締め、今度はやる気に満ちた笑顔を浮かべて二人は再び席に着いた。
「お帰りなさい、二人共!勉強会はどうでしたか、、、お疲れみたいですし、先ずはご飯にしましょうか!」
仄暗い森を抜け、笑顔で出迎えてくれたメイカにただいまと返しながら、二人は若干ふらふらとした足取りで家に入っていく。
結局あの後また一刻近くみっちり勉強してきた為、家に着く頃には二人共へとへとになっていた。
「う〜、あたちべんきょうきらい〜、しゅきじゃない〜」
「わっちも久々やったしほっこりしたけど、やっぱし図鑑を眺めるだけよりも誰かに教えて貰うた方が楽しいわぁ」
ぐでんと机に突っ伏すキキラとにこにこだが少し疲れの色もある秋音。
「まーまー、そう言わずに。勉強は大事ですからねー。キキラは魔物の図鑑とかよく見てますし、勉強好きだと思ってたんですけどね。はい、ご飯ですよー」
「おおきにな、めいか」
大量の夜御飯を一度に持って来ながらそう言うメイカだが、キキラは不服そうに頬を膨らます。
「まものはさー、おもしろいけどね、でもかろしゅのべんきょうはちゅまんない!」
ぶー、と口を前に突き出しながら文句を言うキキラの頭を笑って撫でるメイカを見ながら、秋音は二人より一足先に美味しそうに湯気を立てるご飯に手を伸ばした。
*****
「かひゅっ、げほげほげほっ、げほっ」
暗闇に包まれた森の中、二振りの剣を振っている女が一人。
だが、呼吸が出来なくなったかと思えばいきなり咳が止まらなくなる苦しさに思わず地面に座り込む。
魔物に、あの子達にばれない様にと口元を押さえたたこのある手には、血がべっとりと張り付いていた。
、、、なんで、こうなった?
私は何を間違えた?国の命、ひいては神の命に従って、これまでずっと従順に、されど真っ直ぐに生きてきた筈なのに。
それとも、これは運命だと言うの?
まだ、まだまだまだまだまだまだ、いっっっっぱいやる事があるのに。大人になるのを見届けたいのに。
人知れず絶望に囚われそうになるその瞳には、涙は浮かばない。否、浮かばせられない。
それどころか、希望に満ちた強い光すら見える。
見様によってはちぐはぐな印象を受けるその女―――メイカは、一人呟く。
「きっと、、、。加護が、貴方達には加護があるから。だから、いいえ。だからこそ、」
私が永遠に守り続けるの。
優しさと愛情と妄執、そして慈悲の混ざったその目は、母親の様で、姉の様で、神に心酔する定めだった老婆の様でもあって。
だからこそなのか、立ち上がり口元を乱雑に拭うメイカは、それでも拭いきれていないへばり付く血には気づかない。
もう一度、と剣を握りなおすその小さくも大きな背中を、誰かが見ていた。
お久しぶりです、はい。
なんか「隔週投稿するぞー!」とか意気込んだくせにどういうことやねん、って感じなんですが、もうリアルが安定しないことこの上なくてですね、書き溜めの時間も取れない、つーかそもそも書く時間が無い上にスマホ自体をなかなか使えないんですね(私パソコン持ってないのでスマホ民です)。
なので、もうほんとまじ申し訳ないんですが不定期投稿にさせていただこうと思います。
有言実行とは程遠くて大変申し訳ないです。
ただ、これからはちょっと余裕が出てくるかな?って感じではあります。
不定期投稿の拙作というなかなかな作品ではあるのですが、付き合って頂けると幸いです。
それから補足。
ほっこりした→疲れたです。
秋音ちゃんの台詞は花街言葉、京言葉が基本でやってる事が多いのでちょっと「んん?」となるとは思います。私も思いました(変換使ってます)(文明の利器)。
分かりにくいのにはルビ振るようにしますので、許して下さいm(_ _)m
長文失礼しました。
見てくださった方、ありがとうございます。
次回、「秋音のノート 其の一」です。
秋音ちゃんの勉強した事とか一日の振り返りとか書いてあるノートの内容の回になると思います
そして其の一と書いてあるという事は、、、?
だって最近設定ばら撒き回めちゃくちゃ作りたいんだもん、、、