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秋音と本の虫 後編

どざぁっ。

《痛っ、眩しっ、、、、。、、、!》

尻餅をつきながらも到着した出口の先に広がっていたのは、真っ白な紙屑で作られた、巨大な鳥の巣の様な空間だった。

その巣の中心には、これまた真っ白な紙で出来た巨大な卵の様な物が堂々と鎮座している。

一歩踏み出す毎にインクの匂いがふわりと漂うふわふわの紙屑を踏み締め、秋音はその卵の元へ行った。

《うわぁっ、、、、!?》

卵の側まで来た瞬間、突然足元の紙屑が沈み出した。

卵は何とも無いのに、秋音の足だけが沈んでいく。

ゆっくりと、だが確実に秋音を呑み込もうとする紙屑は宛ら底無し沼の様で、何か掴まる物は無いかと秋音は必死に探した。

すると、周囲の風景が変わった。

それは、正に秋音が思い浮かべた底無し沼と掴まれそうな古くて痩せた細い木だった。

秋音は心底驚いたが、沈みたくない一心でその木に縋る様に掴まった。

《はぁっ、はぁっ、、、。なんなんや、ここ、、、。めいかとききらは、はぁ、平気かいな、、、?》

息切れしつつも木に登った秋音は、泥塗れになったであろう手足を拭おうとしたが、全く汚れていない。

泥沼に入った筈なのに、秋音の毛はいつも通りふさふさで、湿り気すら感じなかった。

《はぁ、え、、、?どういう、こと、、、?》

木の上で呆けていた秋音だが、視界に紙の卵が入り、我に返った。

《そうや、二人を探さな。わっちは何とかなったけど、ききらは沼に沈んだら、、、。それに、めいかだって絶対平気っちゅう訳とちがうんやさかい》

取り敢えず、秋音は木の枝から唯一ある地面、紙の卵周辺に飛び移る事にした。

《えいっ!、、、どわぁぁぁっ!?》

どごー、、、、、ん。

助走をつけ、枝から卵へと跳んだ瞬間、沼が元の紙屑の巣に戻った。

それに驚いてしまい、秋音は卵の上に着地するつもりが、卵の真ん中に激突してしまった。

《い、痛ぁ、、、、。》

秋音は、ぶつかり、跳ね返った頭を前足で擦っていたが、すぐにはっとした。

何故なら、声が聞こえたからだ。

「あー、なんかでかい音がしたのぅ。儂の眠りの邪魔をするなと、彼奴等には何時も言い聞かせておるというのに、、、。ん?」

卵の中から聞こえる声は若い男の様だったが、その口調は好々爺然としたものだ。

ちぐはぐだが悪意は見受けられないその声に、秋音は緊張感が抜けるのを感じた。

《あ、あの、睡眠の邪魔をしてしまい、申し訳ありません。誰かいらっしゃるのですか?》

二人の居場所を知っているかもしれないと、一縷の望みをかけて秋音は話し掛けた。

「おう、ここにおるわい。して、そなたは何者じゃ?」

爺臭い青年の声は、軽い雰囲気のまま答えてくれた。

《わっ、んん、私は秋音と申します。夜の図書館にて、家族と人を待っていたのですが、いつの間にか穴に吸い込まれてここに来ておりました。》

口調に気を付けながらも、秋音は事情を説明する。

《一緒に吸い込まれた、黒髪と紅の瞳をした女の童と、双剣を持った茶髪の妙齢の女人の居場所を知っておりませんか?》

半ば縋る様にそう言った秋音に、青年の声は全く動じずに答えた。

「えーっと、此奴等かの?うむ、知っておるぞい。秋音、それともアキネ、、、ええい、どちらでもいいわい。秋音よ、そなたが探しているのはこの元気系ぷにぷにロリっ子か?双剣使い風可愛い系美女か?そ・れ・と・も、超絶イケメンインテリ系美男子のこの儂か?」

「わぁっ、なんかひかってりゅよ、おねえちゃ!あーねいるかもっ、あぁぁぁ!」

「、、、え?あっ、え、わぁっ!?ぎゃー!!!痛ぁっ!あっ、アキネ様っ!」

どすっ。

言い終わると同時に、メイカとキキラが空中から突然飛び出てきて尻餅をついた。

更に、紙の卵をすり抜ける様にして、にゅっと誰かが出て来た。

「き、ききら!めいかも!良かった!平気?痛ない?」

「あ、アキネ様、、、。すみません、本当に、、、。無事で良かった、、、。」

「あーね!よ、よかった、よぉ〜。うわぁ〜ん」

ダッと駆け寄り、二人を心配しつつも心からの安堵の表情を浮かべる秋音。

メイカとキキラも安堵したり泣き出したりで忙しない。

ぎゅっと、メイカが二人を抱き締めた。

「ごめん、ごめんね、、、。二人共、すみませんでした、、、。」

顔を伏せ、謝りながら抱き締めるメイカ。

「何でめいかが謝るん?、、、もう、ほんまに良かった、無事で。」

「わぁ〜ん!な、かな、いでぇ〜」

キキラが泣きながら泣くなと説得力の無い事を言う。

秋音も抱き締め返そうと腕を回した所で、手足が人間のものに戻っている事に気付いた。

「あっ、て、手足が!服も!良かった、、、。」

「うんうん、良かったのぉ、ぐすっ。儂も涙が出てしまうわい。感動の再会じゃのぉ。それに免じて、無効化は解いてやったぞい。、、、でも、ちょっと忘れすぎじゃないかの?」

ふにゃりと力が抜けた様に笑う秋音に、誰かが後ろから話し掛けてきた。

「ひゃっ、すっ、すみませっ、、、、ぎゃぁっ!だ、だだ誰ですか、、、?」

「ぎゃぁっ、誰?は酷くない?」

反射的に謝りながら振り向くと、見た事の無い男が立っていた。

艶のある白髪をオールバックにし、灰紫の渋いベストとズボンを纏った、紳士的な装いのひょろりと長い若い男。

服装や髪色はお爺ちゃんと言われても可笑しく無いが、全く皺の無い綺麗な長い指や口元、伸びた背筋などは二十代位の青年にしか見えない。

だが、秋音が驚いたのはそこでは無い。

「あ!あのときのおとこのこ!、、、、の、おとうちゃん?」

そう、男は、図書館で会った小さな男の子と同じ仮面とローブを身に付けていた。

「うむ、まぁ大体正解じゃよ〜。流石、おひいさんじゃな」

感心して何故か苛つく仕草で拍手する男。だが、感情が薄いというか、ぼやけているというか、違和感がある。

「どちら様ですか?」

メイカがにこりと笑って話し掛ける。が、その目の奥に深い猜疑心や警戒心が上手く隠れているのを秋音は見逃さなかった。

「おぉ怖い。そう怖い顔をするでない。儂ぁただの人畜無害なイケメンじゃよぉ」

見逃さないのは男も同じらしい。然も面白そうな、それでいてどこか作り物めいた仕草と声で男は怯えてみせた。

「怖い顔、ですか?私、にっこり笑ってただけなのに、怖いだなんて酷いですぅ、、、。」

「わお、自分の武器を最大限に使えるとは恐れ入ったわい。儂もトゥンクしてしまうぞい」

メイカがうるうるお目々と上目遣いを同時に展開した。

元々整った可愛らしい顔立ちのメイカがこんなきゅるきゅるしたら、並大抵の男は落ちそうなものだが、この爺臭い男はさらっと躱しやがった。

「うふふ、武器?私ただの可愛くてか弱い女の子だから分かりませーん」

にこりとそう言うメイカだが、極寒のブリザードも同時に感じるのは何故だろう。

「ふぉふぉ、よく言うのぅ」

「あ”?」

遠い目をしてそう言う男に向けて、メイカの可愛らしい口から低くドスの効いた声が出た。

「何でもございません」

「ふふふ、そうですよね〜」

「、、、はい(不味い此奴は手強いタイプの女じゃ!逃げたい!!!)」

短時間で何か強そうな男を口だけで倒したメイカ、恐るべし。

「あっ、しょうだ、おなまえおしえてくだしゃい!」

ほんわかと笑って見守っていたキキラだったが、思い出した様に言った。

「あぁ、まだ名乗っておらんかったの。失敬、儂の名前は、、、、うーむ。メティーカロスとでも名乗ろうかの」

仮面の嘴の様な部分を撫でながら、男はそう名乗った。

「めてぃ、かろしゅ?、、、ながーい」

「ちょっ、ききら!長いは失礼やろ!」

「良い良い。確かに長いしの。なら、特別にカロスで良いぞ」

言い辛そうに文句を言うキキラを慌てて秋音が嗜めるが、メティーカロスは笑って承諾してくれた。

「やた!よろちくね、かろしゅ!」

「よろしゅうおたのもうします」

「よろしくお願いします」

「ふぉふぉ、宜しく」

三人が揃って言うと、メティーカロスも優雅にお辞儀をしながら返した。

「所で、そなた等は何故ここに来たんじゃ?秋音は先程人を待っていたと言っておったが、本当の目的はそうではなかろう?」

秋音は、仮面の下から鋭い視線が送られてきたのを肌で感じた。

「は、はい。実は最近、図書館に沢山の真っ白な手帳が送られてくるんです。で、送り主が分からないので困っていたのですが、同じ手帳が本棚に大量に仕舞われているのを見つけて、、、。清掃員の方は何もしていないし、必ず居る朝から夕には犯人を見ていないと言ったので、夜の内に誰かが勝手にやっているのでは、と、、、。」

「それで、張り込みをしてみたと。ふぉふぉ、若いのぅ。じゃが、そなた等は幼い。夜更かしも程々にせんと、すぐに体を壊すぞい」

小さい子供に言い聞かせる様に言うメティーカロス。

その言葉にうんうんと激しく頷くメイカを尻目に、秋音は犯人の事を知っているのかもしれないと期待を込めた眼差しを送った。

「、、、やはり、あやつ等かの。ほれ、出て来い」

メティーカロスがパンパンと手を叩くと、そこら中で気配が動き始めた。

二人は兎も角、メイカさえ今まで全く気が付かなかった事に驚きつつも、三人はその気配の在処をじっと見つめた。

「はぁい、爺様」

「分かりましたぁ」

口々に喋りながら紙屑の隙間から出て来たのは、図書館で秋音とキキラを注意してきた小さな男の子、それも大勢だった。

「あー!こにょまえの!」

キキラが驚いて指を差すが、メイカがそっと下ろさせた。

「もー、爺様と呼ぶでない!儂は長生きなだけで年寄りじゃないんじゃ!何回言えば分かるんじゃ。てか、増えとらん?、、、まぁ良い。二人は此奴等に会うた事があるのじゃな?」

正にプンプンという風に小さな男の子達を叱り付けた後、三人の方を向いた。

「はい、この前」

「あったよー!」

二人が頷くのを見て、メティーカロスは質問をした。

「此奴等はの、儂の倅みたいなもんじゃよ。厳密に言えば違うがの。それから、その白い手帳とやらは、大きさや紙の古さがバラバラではなかったか?」

「はい。違いました」

「ならば、それはこのちび共の仕業じゃの。すまん、儂もそこまで迷惑を掛けておったとは思わなんだ。とは言え、儂が見ていれば防げたの。申し訳無い」

秋音が肯定すると、メティーカロスは申し訳無さそうに謝った。

「ごめんねぇ、御飯はばれないようにって言われてたから、隠してたのぉ。もうしないねぇ」

小さな男の子達も、口々に謝罪した。

「次からしないのなら良いですよ!それにしても、御飯ってどういう事なのですか?」

ふわりと笑ったメイカが、メティーカロスに不思議そうに聞く。

「あぁ、それはの。儂等は『本の虫』の様な者での、本の内容を吸い取る事で生命維持に必要なエネルギーを得るんじゃ。じゃが、その吸い取り方がの、本にここを刺して吸うと言うものでの。その際に書いてある内容を丸ごと吸う為、色も文字も消え白紙になってしまうのじゃ。普段は壊れる直前の古本しか食べとらんのじゃが、ここ最近は異様に増えてしもうてそれでは足りず、下の新たな本まで食ろうてしもうたのじゃろう。すまなかった」

仮面の嘴の様な尖った部分を指差しながら説明するメティーカロス。

それを聞いた三人はそういう事だったのかと納得した。

「うーん、ごはんがないとこまりゅもんね。しょうがないよ!でも、かくしゅのとか、たべすぎりゅのとかはやめてね!」

にこっとしながら言うキキラに本の虫達も笑って頷いた。

「にしても、急に増える事があるんですね。よくある事なんですか?」

今度は秋音が首を傾げて質問した。

「いや、無いの。儂は兎も角ちび共は、すぐ側に生えておる胡桃に住み着いた梟に捕食されるのでの。一定数生まれては食われ続ける為そうそう増えたり減ったりはしないんじゃよ」

「そうなんですね」

メティーカロスがまた説明してくれた。秋音もふむふむと頷く。

「ま、そんな感じじゃの。この塔自体を守る儂等と、この塔の書物を守る梟が居る事によって、ここは人々に知識を与え続けられるのじゃよ」

優しく言ったメティーカロスの言葉には堂々とした響きがあった。

それはきっと誇りがあるからなのだろうなと思いつつ、秋音はちょっと格好いいと思った。

「あーそうじゃ、迷惑を掛けた代わりと言ってはあれじゃが、三人はここへの出入りを自由にしてやるぞ。たまに遊びに来て欲しいしの」

仮面から覗く口元が楽しげに笑ったのを見て、三人もにっこりと笑った。

「もちろん!あたち、またくりゅね!」

「わっ、、、ちも、行く。ききら一人も心配やしな」

「はい、また来ます!但し、絶対に日が暮れる前には家に帰らせて下さいね???」

「う、うむ」

途中から凍えそうになったが、最後は皆で笑って別れた。

「、、、ふむ、そうか。ここまで、、、。」

誰も居なくなった巣の中でぼそりと言ったメティーカロスの呟きは、誰にも拾われずに埋もれていった。

秋音ちゃん!!!

家族って言った、家族って言ったぁぁぁ!

取り乱しました、すんません。

はい。

あの、読んでると秋音ちゃんの言動、主に「家族」「ペット」とかそこら辺のワードに関するものに違和感や矛盾があるように感じる方も居ると思うのですが。

それはですね、

「ペット?なってやるぜ!」

→取り敢えず家が欲しい+居候の合法だ!(家族になるとは言ってない)

「ごめん、家族にはなれない」

→家族になるのは素敵、でも「家族」は怖いものだから、二人がそうなるのは嫌。てかそもそも家族って何ぞや?

「家族と人を待ってて、、、」

→秋音の中では、「家族=怖い・痛い・辛い」と「家族=一緒に過ごす大切な人」の二つの認識があって、二人は後者として秋音の無自覚の内に言われたぜ!

って感じで、秋音ちゃんに植え付けられたものが邪魔してる為、こうなっちゃうんですね。

なので、表現の仕方は合ってるんですが、分かりにくいかもです。すみません。


見てくださった方、ありがとうございます。

次回、「秋音、勉強する」です。

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