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秋音と本の虫 前編

「いってきまーす!」

「行って来ます、めいか」

「はーい、気を付けて下さいねー!」

図書館に行ってから一月。

二人は読書にどっぷりとハマり、ほぼ毎日図書館通いとなっていた。

今日もまた、二人は新たな本と謎の男の子との出会いを求めて、図書館へと走っていた。


「あら、今日もかい?最近よく来るねぇ。こんなに本を読むなんて偉い!手帳あげちゃう!」

すっかり顔馴染になったラパータ。ここ数日で他にも何人かの清掃員のおば様と知り合いになった。

そんなおば様方が、最近は来る度に真っ白な表紙の手帳をくれるようになった。

「あ、ありがとうございます、、、」

受け取った秋音だが、正直もう十分すぎる量が家に積まれている。

「もういっぱい、んぐっ!?」

「あはははは、助かりますー」

だが、それをこの強かで強気なおばちゃん様に言うのは良くない。

秋音は急いでキキラの口を塞いで取り繕った。

「ふふふ、そうかい?よかったよかった」

「ぷはっ、あーね、なにしゅる、にょっ!?、、、なんでもないです」

抗議しようとするキキラだが、秋音の無言の圧力で直ぐ様黙った。

「所で、この手帳って何で配ってるんですか?」

話を変えようと、前々から気になっていた事を聞いてみた。

「あー、それねぇ。実はね、それここに大量に届くのよ」

顔に手を当て、困った風に眉を下げるラパータ。

「えー、しょうなの?なんでだろー?」

キキラも同じように手を当てて首を傾げている。

「あら、手帳の話?それ、ほんと何なのかしらねぇ」

知り合い第二号のおば様、ピチカが受付の向こうから出て来た。

「あ、ぴちかしゃん、こんちは!」

「こんにちは」

「キキラちゃん、秋音ちゃん、こんにちは。にしても、誰が送ってきてるのかしらねぇ」

「そうよね!誰かの配送ミスで届いてるのかと思ったけど、こうも続くとねぇ」

「ほんとほんと!ぶっちゃけ迷惑だし」

「そうなのよねぇ、配るにしろ寄付するにしろ、ちょっと面倒だもの」

「あ、あのー、、、」

「お金に変えられるのならいいけど、可愛げの無い上に大きさとかもバラバラなのよ?売る訳にはいかないわよねぇ」

怖ず怖ずと話しかけ、話を止めようとするものの、盛り上がっていて聞こえないらしい。

仕方が無いので二人は図書館に入る事にした。


「あれぇー?」

キキラが本棚をガサゴソしながら声を上げた。

「ん、どうしたんだい?」

近くの椅子に腰掛けて頁を捲っていた手を止め、秋音が話しかける。

「あのねぇ、きのうよんでたほんがねぇ、なくなっちゃったにょ」

悲壮感を漂わせ、キキラがそう言った。

「え、そうなのかい?仕舞ったのはここなんだよね?」

「うん、、、、。」

ささっと秋音が本を探しに動く。The・出来る女。というか幼女。

「うーん、大きさは?あと、何の本かと、色も」

本棚を漁りつつ、秋音が聞く。

「えーっとねー、、、。こーんくらいで、しろっぽくてー、『もりのいきもの』ってやつだったとおもう!」

キキラの顔サイズの正方形を指で作りながら、一生懸命説明している。

「んー、、、。これかな、、、ん?」

真剣に探していた秋音が、いきなり顔を上げた。

その手には、表紙も中身も真っ白い本が握られている。

「あれ?それってあのたくしゃんあるやちゅじゃないのぉ?」

「うん、その筈なんやけど、、、。ここに入ってた」

むむむ?と首を傾げて白い本とにらめっこするキキラ。

だが、全く分かっていないようだ。

「取り敢えず、ラパータさん達に渡そうか。あと、他にも無いか探さないとかな」

「あーい!」

恐らく誰かの悪戯だろうと思い、二人は本棚を駆け回って白い本を探した。

今までは気付かなかったが、白い本は一つの本棚につき六〜十冊程入っており、想像以上にその量は多かった。

秋音が座っていた椅子に、白い本をどんどんと積んでいく。

それだけでは足りなくなり、側にあった机にも積み上げていく。

最終的には、一階だけで七十冊近く白い本が見つかり、机と椅子に白の山が出来上がった。

「ふぅ、ちゅかれた!いっぱいだねー!」

やってやったぜ、という風に腰に手を当てて額の汗を拭う仕草をするキキラ。

「はぁ、はぁ、、、。三歳児にこの作業は、、、、。」

対する秋音はヘロヘロ。何とか椅子に辿り着き、すとんと座った。

「あらまぁ、二人共。そんなに本を読むの?凄いねぇ」

偶々塔に入って来たピチカが白い山をしげしげと眺めている。

「あのねーこれねー、これといっしょなの!」

キキラが得意気に手帳を見せると、ピチカも手帳と白い山を交互に見た。

「、、、え?、、、あら、ほんとだ、手帳の山じゃない!これ、何処にあったの?」

ようやく気付いたらしいピチカが、まぁ、と口に手を当てて驚いている。

「本棚に沢山ありました」

「うん!いりょんなたなにねー、はいってたよ!」

「そうなの?なら、皆さんに連絡しないとねぇ。誰かが悪戯で入れたのかしら、、、。」

それを聞いたピチカが、うーん、と悩んでいる。

やはり、秋音と同じく悪戯と考えたようだ。

「あれ、三人揃って難しい顔して。どうしたんだい?、、、って、その本の山は何だい?凄い量だね」

噂をすれば何とやら。少し汚れた掃除用らしい前垂れを付けたラパータがこちらに向かってきた。

「あっ、ラパータさん。あのねぇ、二人が本棚に沢山手帳が仕舞われてたのを見つけてくれたのよ」

三人の顔と白い山を交互に見ていたラパータも、それを聞いて納得したように頷いた。

「あぁ、これは手帳の山だったの!こんなに大量に、、、。教えてくれてありがとうね」

お礼を言われ、キキラは嬉しそうに、秋音ははにかんだ笑顔を見せた。

「なんでてちょうをほんだにゃにいれりゅの?」

「うーん、、、、。白紙の本ばっかりの図書館だって噂が流れれば、ここの評判が落ちるから、とか?」

こっそりとキキラが聞いてきたので、秋音はそう言った。

「にしても、この量は不味いね。もし悪戯だとしても、単独犯じゃあ無いかもしれないよ」

「そうですよね。来る度に一冊貰っていたとして、一人の場合は少なくとも七十回以上来ている人が犯人となりますが、まだ配り始めて一月程ですものね。それに、一階だけでこの量ですし」

眉間に少し皺を寄せるラパータに、秋音も苦虫を噛み潰したような顔で続ける。

「そうよね。有り得ない、、、ん?一階だけ?」

うんうん、と同意していたピチカの動きが止まった。

「しょうだよ!」

「え、、、!?そ、それは、、、。」

「二階も探さないと、よね、、、。」

「「はぁ、、、、、」」

思わず頭を抱える大人組は、深い深い溜息を吐くのであった。


大人組が他の清掃のおば様を集め、重い空気を漂わせながら二階へ続く梯子を登っていくのを眺めながら、キキラが秋音の服をちょいちょいと引っ張った。

「ん、なんや?」

キキラの方を秋音が向くと、キキラは悪戯を仕掛ける子供の様な無邪気で楽しげな顔をしていた。

「えっへへー、あたち、いいこちょかんがえたよ!きいて、あーね!」

「良い事?気になるなぁ」

然も嬉しげにそう言うので、秋音も思わず身を乗り出して聞いた。

「あのねー、ごにょごにょごにょ、、、。ね、どぉ?」

「確かに、それは良いかもしれないねぇ。、、、よし、やったるか!」

「やったるかー!」

ひそひそと耳元で話した後、二人はふふふふふ、、、と悪巧みをしたような顔で笑った。


その日の夜。

月が真上に昇る頃。

二人はメイカと共に塔の中で身を潜めていた。

「にしても、手帳を本棚に隠した下手人を探し出す為に深夜に待ち伏せをするだなんて、体に悪いですねー」

秘密で抜け出そうとした二人は、一階に降りた所でメイカに見つかり、「付いて行きますからね?」と言われ、そのまま一緒にここまで来たのである。

「だ、だってぇ、、、。らぱーたしゃんたち、こまってたから、あたちもなにかできにゃいかなって、、、。」

「、、、(コクコク)」

何とか弁明しようと頑張る二人だが、メイカの凍った微笑みは一向に溶けない。

寧ろどんどん冷たくなっていっている気がする。

「だからと言って、こんな時間に起きるのが体に悪い事は変わりませんけどねー」

にこぉっと、一層笑みが深まる。墓穴を掘ったようだ。

「「ひ、ひえぇっ」」

氷点下の空気と微笑に凍えつつも、二人は何とか説得を試みた。


「お、お世話になってるんやさかいさ、少し位恩を返そう思うやん?そやさかい、今日だけは許してや、なぁ?」

「しょうだよ、ね?」

「それはそうですけど、体を壊したら本末転倒ですよ???」

「で、でもぉ、、、。」

「後一時間経ったら何が何でも帰りますからね?」

「えっ!?そ、それは、、、」

「異論は認めませんけど、何か?」

「「、、、はい」」

やはり二人はメイカに勝てなかった。

「そうと決まれば、帰る支度をしましょう!」

「いやいやいや、それは流石に早いんとちがうか?」

「うんうん、まだかえりゃないよ!」

机の下で光魔法を駆使して隠れたまま、小声でわちゃわちゃし出す三人。

隠れられていない三人だが、それに気付いてか気付かずか、下手人は既に動き出していた。

頭上でかさこそと蠢く何かが落とす影に、三人は未だ気が付いていない。


*****


ぺら、ざくっ。

しゅる、しゅる。ちゅぅ、ちゅぅ。

「ねぇねぇ、これ美味しいよぉ」

ざくっ。

「これ〜?あ、ほんとだぁ、美味しい。今日のは当たりだねぇ」

ぺら、ざくっ。ざくっ。

「美味しいなぁ、、、。でもぉ、もう見つかっちゃうかもぉ。帰るぅ?」

「えぇ〜、もうちょっとだけぇ」

「う〜ん、そうだね。まだいっかぁ」

しゅる、しゅる。ちゅぅ、ちゅぅ。

今回はちょこっと短めとなってしまいましたね、はい。

もう一話、中編の方も投稿したので、許して下さいm(_ _;)m


それからですね、ここは勘違いしてほしくないんですけどね。

秋音はコミュ障じゃ無くて、人に心を許さないだけです。

なので、知らない人でも意外とすらすら話します。

私の書き方が悪かったかもです。勘違いしてしまった方いましたらすみません。

まぁ、そうは言っても、秋音ちゃん愛想笑いなんですけどね。


見てくださった方、ありがとうございます。

次回、「秋音と生態系 中編」です。

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