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秋音、著の塔に行く

ふはははははははは

はっ、ははっはははっはははは

(訳:本日二回目ありがとうございまぁすっ!)

「あ〜、、、。暇やわぁ」

居間のちゃぶ台に突っ伏したまま、秋音が心から呟いた。

「ねー、ひまだねー」

キキラもだらーんと真似をする。

国民登録をしてからというもの、これといってやることが無く、庭で只管草を摘んだり、水魔法で作り出した水の球の中で水遊びをしているのが見つかってお叱りを受けたりと、だらだらと過ごしていた。

「私としては、これ位ゆるゆると過ごすのも嫌いじゃ無いですが、また水浸し一歩手前になるのも困りますしねぇ、、、。あ!」

椅子に凭れて裁縫をしていたメイカが、何か思いついたように起き上がった。

「なんや?おもろい事かいな?」

「なーにー?きになるー!」

キラキラと期待に満ちた目で二人が見つめる。

「ふっふっふ、、、、。街の図書館に行くのはどうでしょう!」


ということで、やって参りましたトトロボ街。

例に漏れず、長蛇の列に並んだ後にようやく入れた防壁の中は、呼び込みの声が飛び交い、活気に満ち溢れていた。

「にぎやかー!たのちー!」

「そうですね!でも勝手にどこかへ行くのは駄目ですよ???」

燥いで路地裏へと走っていくキキラの首根っこをしっかりと捕まえて、メイカが歩き出す。

門の前には、逆さのT字の、屋台や店が立ち並ぶ大通りがあり、そこから幾つもの道が分岐している。

その大通りの内、門の正面の道を真っ直ぐに突っ切って、三人は進んでいった。

周りの商店街が、段々と繁華街のような雰囲気から閑静な印象へと移り変わっていく。

そして、右に曲がってしばらく歩くと、小規模な畑の広がる、農村と街が混ざったような景色に変わった。

「このじゅーしゅ、すっぱーい、、、、」

「下に沈殿している蜜を掻き混ぜれば甘いですよ!」

それを聞いて、キキラが熱心に掻き混ぜ始めた。

「この先に図書館があるん?」

道中で買った果実水を片手に、木陰で少し休憩しながら、秋音が質問する。

「はい。もっとずっと静かだけど、同じ位温かい所にありますよ」

どこか嬉しそうに言うメイカの顔に、木漏れ日がちらちらと揺れる。

爽やかな風になぶられた、メイカのさらさらと流れるように舞う長い髪は、木漏れ日で所々輝いていた。

「よし、休憩も済みましたし、行きましょう!」

「「おー!」」

「、、、あと、アキネ様は口調」

「、、、あ、はい」

小さな子供が走り回る家々の間を、三人は意気揚々と歩き出した。

いきなり家が途切れたかと思ったら、装飾の施された立派な鉄の柵に囲われた大きな屋敷が現れた。

「わー!でっかーい!」

「ここはこの辺り一帯を治めているヒャッターニャ侯爵家の別荘です。身分の高い人なので、心強くはありますが、あまり近づかないようにした方が良いですよ」

「ふ、ふぅーん、、、」

お上りさんとなったキキラが楽しげに跳び跳ねるのを、メイカが笑って見ている。

秋音も驚いたように目を見開いたが、それを見て気恥ずかしくなってやめた。

「この先ですよ!もうすぐ見えてくる筈です!」

メイカに引っ張られ、キキラが渋々移動し始めたが、その言葉を聞いてルンルンで歩いていった。

木々の隙間から、少しずつ細い棒状のものが見えるようになってくる。

屋敷を通り過ぎると、その真横には林が広がっていた。

林は防壁を突き抜けて続き、森と繋がっている。

その大きく広い林の中を、メイカはずんずんと進んでいく。

林道に沿って歩くと、突然視界が開け、ぽつんと建物が建っていた。

黒に近い焦げ茶の石造りで、少し小ぶりの一軒家。

扉や壁面にはただの窓は勿論、鳥を模したステンドグラスが嵌め込まれている。

その建物は、古めだが小洒落た雰囲気の一軒家だ。

だが、それはあくまでそこだけ見た場合の話。

全体を見れば、その建物はとてもアンバランスで奇妙な形だった。

一軒家の後ろ半分からは、煙突のように同じく焦げ茶の石造りの太く巨大な塔が建っており、その塔を覆うようにしてこれまた巨大な木が絡み付いている。

「う、うわ、、、、!でっかいきが、うねうねでついてるー!」

興奮したキキラが腕をブンブン振り回している。地味に痛い。

「ききら、ちょっ、痛いから!やめて!、、、でもあれは凄い。わっ、ん”んっ、私もあんなの見た事無い。あれって何、めいか?」

腕から頭を守りつつ、目をまん丸にして感嘆の声を上げる秋音。

メイカは何故か得意気に頷いている。

「そうでしょうそうでしょう。あれはですね、トトロボ街の隠れ名物なのですよ!」

てってれー、と謎すぎる建物に手でキラキラを送る。

「名物の、何?」

それだけでは分からない、と秋音が首を傾げる。

「入ってみれば分かりますよ!てことで、行きましょー!」

「いえーい!いくじょー!」

「えっ、えぇぇぇぇぇっ、待って!?」

そのままメイカに手を引っ張られ、二人は建物に連れて行かれた。


カラカラ、と軽やかな澄んだ音と同時に、三人は建物に入った。

建物の中は見た目に反して広々としており、大きな机が幾つも置かれている。

「おやまぁ、お若い人が来たよ」

中を見渡しているといきなり声を掛けられた為、キキラと秋音が思わず飛び跳ねた。

「はっはは、元気が良いねぇ。ただの図書館の掃除のおばちゃんだよ、怖がる事無いよ」

然も愉快そうに笑うのは、建物の奥から出てきた中年女性。

皺の刻まれた口元に、おおらかで優しい笑みを浮かべながら近づいて来る女性はラパータと名乗った。

「こんにちは、図書館使ってもよろしいですか?」

「勿論。入ったらお静かにね」

物怖じせずにメイカが言うと、にかっと笑って通してくれた。

「ねぇねぇあーね、とちょかん?ってこにょさきなのかなぁ?」

「うーん、多分?どんな所なんだろうね」

キキラがぼそぼそと耳元で言うので、秋音もこしょこしょと返した。

そうこうしている内に、ラパータが入ってきた観音開きの扉の目の前に来た。

「あ、忘れてた。本は貸出禁止だよ!もしどうしても欲しかったらあそこの受付に行きな」

手を振りながら教えてくれるラパータにお礼を言いつつ、三人は扉を開いた。

扉の先には、塔の天井までぐるっと壁に本棚が置かれており、それら全てに本がびっちりと仕舞ってあるという、見た事も無いような光景が広がっていた。

壁面から生えるようにくっついている、出っ張った分厚い木の板が足場となり、本棚の本が取れるようになっているらしい。

「わ、わぁ、、、!ほんいっぱーい!」

「こら、キキラ!静かにして!」

「そう言うめいかも煩いと思う、、、」

そんなやり取りを、塔の中心に幾つも置かれている机で読書をしていた先客が微笑ましげに見守っている。

やれやれ、と思いつつも、声を漏らさずにはいられないような圧巻だ、と秋音も思った。

深く息を吸うと、インクと古い紙の少し独特だが落ち着く匂いが鼻を抜ける。

それが心地良くて、秋音が深呼吸を数回している内に、キキラとメイカが既に本棚へと向かっていた。

「二人は好きな本を探して、読んでいて下さい。私も探して来ますので。でも、危ない事は駄目ですよ!上へ登るのも駄目です」

「はぁい」

「うん」

ひそひそと言うメイカに返事をして、三人は各々の読みたい本を探しに行った。

本棚に仕舞ってある本には規則性が無く、目当ての本はぐるぐると回って探すしか無い為、とても時間がかかる。

だが、それもまた楽しく、三人はのめり込んだ。

秋音は、この世界について何か分かる事が無いかと思い、手当たり次第に本を読む事にした。

だが、大抵の本が勇者の冒険譚や妖精の話のような、明らかに架空の物であろうお伽話ばかりで、面白くはあるが秋音の求めているような本では無かった。

「どわっ!?」

ぽん、といきなり肩を叩かれ、思わず声が出てしまった。

「えっ!?あ、ごめん。あーね、うえにいかなーい?」

それに驚きつつも話しかけてきたのは、キキラだった。

「なんや、びっくりしたぁ。上に行くの?」

「うん。おねえちゃんといこーとおもったんだけど、みちゅからなくて、、、。だめ?」

「うっ、、、!いいよ!」

上目遣いでお願いしてくるキキラVSメイカとの約束。

勝者は圧倒的な差を付けてキキラ。秋音は上の階に行く事にした。

「所で、何処から上に上がれるのかな?」

秋音がキョロキョロと階段を探すが、無い。

「えっへへー、あたちしってりゅよ!あのねー、あそこのねー、あれのやつでいくの!」

そう言ってキキラが指差したのは、本棚と同じ焦げ茶の木製の梯子だった。

それがずっと上まで一直線に続いており、上の階へ行く手段と思われた。

「へー、あれか!高いけど、ききら大丈夫?」

「う、うん。あたち、あああんなにょきょわくない、みょん!(うん。あたし、あんなのこわくないもん!)」

変な噛み方をして、少し尻込みしているものの、威勢よく言い切った。

「じゃ、行こ」

そんなキキラを見て、秋音はにこっと笑って梯子に向かった。


「ん、しょ、ん、しょ!、、、はぁー。ちゅかれた!もー、ながいー!おわらにゃいー!」

只管梯子を登り続けて早四半刻。

十階程上に上がったものの、天井はまだまだ遠く、遂にキキラが音を上げた。

「は、はぁ、長い、、、。もう、一回休憩しない?」

秋音も登り疲れて、息が荒くなってきている。

「!うん!するしゅる!えっとねー、あたちおかしもってりゅんだよー!」

大喜びで食い付いたキキラが、早くも座って小さな肩掛け鞄を漁っている。

「ははは、美味しそうだね」

秋音も乗り気でお揃いの鞄を漁り、水を取り出した。

「著の塔の中での飲食は禁止だよぉ」

ふと、軽い雰囲気の幼い声がした。

ばっと二人が振り向くと、本と本の隙間に掌に乗る程小さい男の子が顔を出していた。

それだけでも随分と不思議だが、その男の子にはそれ以上に奇異な所があった。

それは、顔に付けている仮面だ。

全体的に灰紺の暗い色合いの仮面。

額には一つの大きな青い球が埋め込まれており、下半分は嘴の様に鋭く前に尖っている。

それでいて服装は灰紺のローブの下に貴族の息子の様な質の良い子供服という、奇異と言わずして何と言う、といった見た目であった。

「禁止だよぉって言ってるんだけどぉ、聞こえてるぅ?」

二人が思わず呆けていると、もう一度話しかけてきた。

「あっ、ご、ごめん!知らんくて、、、」

「あ、えっと、ごめ!」

「えー、知らなかったのぉ?受付も清掃も、なーんも言わなかったのかぁ。それはよくないなぁ」

はっとして二人が謝ると、怒りの矛先はこの塔の従業員に向いたようだ。

もっとも、怒っているようには聞こえないのだが。

「ち、違うよ!?その、私達がちゃんと規則を読まなかったからで、ラパータさんは悪く無いよ!」

「しょ、しょうだよー!」

必死で弁明しようとすると、男の子が仮面の下で笑った気がした。

「ふーん、そっかぁ。じゃ、しょうがないかぁ。次は気を付けてねぇ。じゃあねぇ。、、、君達なら、良いかもね」

「じゃーねー!」

「え、な、何て?」

最後にぼそっと一言言って、男の子は本の隙間に戻って行った。

「、、、何だったんだろ、、、。」

「とりあえじゅ、もどろ」

よく分からないものは置いといて、二人は下へ戻る事にした。


ひいひい言いながら一階に戻ると、メイカが探していた。

「あっ、いた!もー、何処に行ってたんですか!危ない事はしてないでしょうね!?」

「うん、してない」

「いや、上行きましたよね???」

「うっ」

その後、二人はこっぴどく叱られましたとさ。

流石にキキラ噛み過ぎなので、横に本来の台詞書いときました。


魔物は基本ただのカラフルな動物なので秋音としても受け入れやすかったのですが、流石に精霊や妖精のような存在は江戸時代の京、というか地球にはいませんし、架空だと思いますよねー

逆にそれを読むだけで「へー、こんなのがいるんだー」と鵜呑みにするのは危ないと思いますね、はい。(((秋音擁護しすぎじゃね?


見てくださった方、ありがとうございます。

次回、「秋音と生態系」です。

多分恐らくきっと前後編に分けます。

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