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秋音と家族

題名ミスってたので直しましたー

秋音ちゃん可愛いっ

森から帰って来て、六日程経った。

その間、薬の調薬や読書、魔術の自主練、庭で遊ぶ、ひたすらに家事など、各々が気ままに過ごしていた。

そんな毎日がいきなり動いたのは、朝食後のメイカの一言がきっかけだった。


「、、、あ、あの、二人の戸籍登録と、私達の家族登録しませんか?」

朝食を片付けようと秋音が立った瞬間、顔を赤らめていたメイカがもじもじしながらそう言った。

「こ、戸籍登録、は、ええとして。わっちと二人が、家族登録、、、かい?」

突拍子もない話に驚きで固まりかけつつも、何とか声を絞り出す秋音。

「は、はい。そうです。、、、その、秋音様がこれから森の中で他の魔物や獣と混じって自由気ままに暮らすと言うのなら、別に戸籍も家族もいらないですよ?でも、これからも私達と一緒に居て下さると言うのなら、人間、いやどちらかというと獣人の子供として戸籍を持っていた方が良いと思うんですよ。いや、あの、嫌でしたらいいんですよ?で、でも、その、、、、」

いきなり饒舌になったと思いきや、しどろもどろになる。

よく分からない喋り方をするメイカだが、言いたい事はしっかりと伝わってきて、秋音は心がほっこりと温まった気がした。

「うーん、てことはー、あたちとあーねとおねえちゃがかじょくになって、それで、こせき?ってのをもらう、てことぉ?じゃ、あたちなるー!」

「ひゃ、はいっ!そういう事です!え!?あ、ありがとうございまぁすっ!」

首を傾げるキキラに、テンションが可笑しくなっているメイカが返事を返した。

その様子を見て、思わず笑みを零す秋音。

端から見れば、「もう既に家族では?」と思う程仲の良い微笑ましい光景。

だが、秋音は決断出来なかった。

「、、、おおきに。え、えらい嬉しいし、ありがたいし、、、。で、も、かんにん。家族にはなりたない。あっ、えっと、そら二人好かんやらじゃ無おして、その、せやから、、、。ほんまに、かんにん。」

思わず、そっぽを向いて俯いた。

何で?

こんなに優しい人達なのに。

姉以外で、初めて楽しいと思える時をくれた人達なのに。

でも、それでも、『家族』にはなりたくなかった。

そんな自分と過去に、秋音は吐き気を覚えた。

それと同時に、過去に、今に、それでも消えない温かさを感じた。

「うんうん、そうですよね!今までのなんちゃって家族とは違って、本当に国に申請するんですもん、そりゃ怖いですよね!」

想像とは裏腹に、明るい声でメイカが話しかけてきた。

それだけで、拭いきれない罪悪感と嫌悪感が、ほんの少し和らいだ気がする。

「、、、大丈夫ですよ。申請していないからといって、私達が赤の他人になるわけでも、嫌うわけでもありませんよ。だから、顔を上げて下さい。大丈夫です、ね?」

先程とは打って変わった、優しくて落ち着いた声音で、大丈夫と繰り返すメイカ。

どこかで聞いたことのあるその声は、姉とあの人にそっくりな響きだった。

そして、それを今の今まで忘れていた事にも気が付いた。

「ご、めん。ごめん、なさ。ほんとに、ごめんなさい、、、。」

誰に言う訳でも無く、歪む視界を上に向け、秋音は震える声で何度も謝った。

ぎゅっと、温かい二つの何かに秋音の体が包まれた。視界が少し狭くなった。

「大丈夫、大丈夫ですよ。泣くのも謝るのも苦しむのも、もう十二分にしたんですから、これからは必要無いです。前を向くだけで良いんです。」

「あーね、だいじょぶだよぉ。あたちもおねえちゃんもいるよぉ。ずぅっといっしょ。ひぐ、だから、な、なか、ないで、ふ、ふぇぇ〜〜〜〜〜ん」

キキラの方が泣き出した。

温もりに安心したのか、キキラの涙に吊られてなのか、より秋音の視界がぼやけていく。

それを感じてか、メイカの腕により力が入った。

力強くも繊細な抱擁は、あの人にそっくりで、ついに涙腺が崩壊した。

抱き締め返す秋音の力は、幼子とは思えない程強かったが、メイカは何も言わず、只々背中を撫でていた。

「それでは、国民登録は全員、家族登録は私とキキラだけ、という事で良いですか?」

「うん、ええで。、、、でも、その、、、」

ばつが悪そうな顔でチラチラとメイカを見る秋音に、メイカはぽんっと胸を叩いてみせた。

「分かってますよ。心変わりしたら、すぐにアキネ様も登録しましょう!その時は、私の胸に飛び込んできて下さいねー!」

「そ、それはちょっと、、、、」

「あーいっ!ぎゅー!」

「あはは、キキラもですか?ぎゅー!」

もじもじする秋音とは真逆に、キキラが飛び込んだ。

可愛らしい行動に、三人は同時に笑い出した。

あはは、と一頻り笑った後、今度は変装せずに三人は街へ向かった。


「登録するのはここですよ!じゃじゃーん!」

そう言ってメイカが手でキラキラを送るのは、門の真横に聳え立つ石造りの大きな建物だった。

灰色っぽいその建物は、門番と同じ甲冑(プレートアーマー)を着ている人が出入口付近に六人程いる。

彼等は人々を監視しているようだが、「粗を見つけて脅してやる」といったような嫌な感じはせず、守りたいという確固たる意思を感じるため、好感を持てる。

寧ろ往来の人と談笑している人もいる。

「ここは、マリョウ王国騎士団のトトロボ街本部です!街の壁際の所々に支部もありますが、それらは魔物などの敵に対する防衛の為のものなので、こういった役場の書類仕事は本部でやるんですよー。それと、あの銀色の人達は騎士で、門番さんのお仲間です」

メイカがつらつらと説明している内に、騎士団本部の目の前まで来た。

「こんにちは。あれ、見ない顔だな。ここは初めてか?」

気さくに話しかけてくる野太い声は、出入口の側の騎士から聞こえてくる。

「はい、旅の者ですので!本日はこの子達の戸籍登録をしに来たんですー」

メイカがちょこっと嘘を混ぜて返す。

すると、甲冑の隙間から覗く目が、鋭く光った気がした。

「旅の者か。、、、所で、ここまで女子供だけで来たのか?旦那は?大丈夫だったか?」

少し不安げにキョロキョロしつつ、質問をしてくる騎士。

「あぁ、私はこの子達の母親じゃないですし、夫もいません。、、、その、仕事の関係で小国群のジジヴァナ帝国に行った時、崩壊しかけの村にいた浮浪児で、、、、。あ、本人からも村長からも、しっかり許可を貰っていますよ、ほら」

声を潜めて、ぼそぼそと話していたかと思いきや、証明書らしき紙を二枚ガサゴソと取り出して見せた。

「ふむ、アキネとキキラか。本物の様だが、恐らく検査が入ると思うぞ。なあに、心配は要らないさ。で、お嬢ちゃんの方は?」

「私ですか?、、、その、ちょっと良いですか?ごにょごにょごにょ、、、。」

そう言って耳元でメイカが何かを騎士に伝える。

「ふん、ふん、、、。そうだったのか。ま、大丈夫そうだな!」

よく分からないが納得したらしい騎士は、鋭い視線を少し和らげ、にかっと笑って頭をわしゃわしゃと撫でてきた。

あの硬い甲冑の手でどうして柔らかい撫で方が出来るのかは不思議だが、髪はボサボサになった。

「おっと、引き止めすぎちまったな。じゃ、また出る時にな」

ぱっと撫でていた手を離し、軽く手を振ってきたので、三人は笑顔で手を振り返し、本部へと入った。

「わぁ、、、ひとがいっぱーい!ぎんぎらのきてるひともいっぱーい!」

キキラが跳び跳ねながら目をキラキラさせている。

確かに、本部の中には人が沢山いた。

壁際に置かれた机と椅子では、騎士や住民が談笑したり、何かの遊びをしていたりする。

出入口の正面にある受付には、何人もの受付嬢がおり、それぞれの前にずらっと人が並んでいた。

二人は、メイカの後を追ってその中でも一番人が少ない列に並んだ。

「こんにちは、こちらはトトロボ街本部受付です。私は担当のルニーゼと申します。本日はどのようなご要件でしょうか?」

すらすらと慣れた口調で、青灰色の長い髪を後ろで束ねた無表情の受付嬢ルニーゼが言う。

「全員の国民登録と、私とこっちの子の家族登録をお願いします」

メイカもキキラを手で差しながら同じ位すらすらと言った。

「承知致しました。では、身元を証明出来るものはお持ちですか?」

「私はこのギルドカード、二人は浮浪児だったので発見したリゴーヴァ村の引取証明書があります」

そう言って、ギルドカードと一緒に先程騎士に見せていたのと同じ紙を差し出す。

受け取ったルニーゼは、さっと目を通した後、門番が使っていたのと同じ白い箱に翳した。

「はい、本物のようですね。こちら、先にお返し致します。Cランク冒険者のメイカ様、元カンナーヴァ帝国リゴーヴァ村住人のキキラ様、アキネ様でお間違い無いでしょうか?」

「「はい「あーい!」」」

二人の引取証明書のみ返しながらの問い掛けに三人が同時に返事をするのに、ルニーゼが微笑ましそうに和らいだ目線を向けた。

「次に、こちらの国民登録の同意書と家族登録の同意書にサインをして下さい。メイカ様が代筆して頂いて構いません」

「分かりました。アキネ、キキラ、説明しますか?」

「んーん」

「大丈夫」

「そうですか」

同意書を読み、二人分のサインを書く。

「ありがとうございます。それでは、国民登録、と同時に家族登録を致しますので、こちらの瓶の縁に指を置いて下さい」

そう言うのと同時に二人に差し出されたのは、秋音の小指の半分程しかない小さな瓶で、一本のとても細い針が少しだけ頭を出して口から生えていた。

「さ、刺すの?」

「えぇー、いたい、、、?」

怖ず怖ずと秋音とキキラがメイカに聞くと、当たり前のような顔をした後、笑い出した。

「ぷ、ふふっ、そ、そうですよ。大丈夫ですよ、痛くありませんから、ぷふっ」

ガハハッと、後ろの騎士や住民の間でも笑いが起こった。よく見るとルニーゼも少しだけ口元が緩んでいる。

どうやら、彼等の目には、極細の針に怯える可愛らしい二人に映ったらしい。

二人揃って顔を赤くするが、その仕草もまた可愛らしい。

「痛くありませんので、プスッとやっちゃって下さい。」

「は、はい!」

「やってやるー!」

「ふふ、頑張りましょう!」

笑い声に交じる声援を背に、三人が指を瓶に押し付けた。

プチッと何とも言えない感触と少しの痛みを感じると、ぽとぽとと血が二滴小瓶に入った。

「ご協力ありがとうございます。戸籍を作成しますので、少々お待ち下さい。」

ルニーゼが少しの微笑を浮かべつつ、小瓶を回収して受付の奥の部屋に入っていった。

「よくやったぞ、嬢ちゃん達ー!」

ほっとした所で後ろからまた拍手が起きる。

二人はまた顔を真っ赤にし、メイカのスカートの蔭に隠れた。

「国民登録、家族登録共に完了致しました。なお、出身地は不明の記載になります。また、こちらは国内では身元を証明出来ますが、国外の場合は通用致しませんのでご注意下さい」

戻って来たルニーぜの手には、赤と白の固く丈夫そうなカードが三枚握られていた。

見た目はメイカの冒険者ギルドカードと似ていて、下半分が綺麗な紅色の真っ白の硬い紙に、『アキネ 出身地:不明 登録場所:トトロボ街 家族:無し』と書かれていた。

秋音は少し胸がキュッとなったが、すぐに笑顔を浮かべた。

「ありがとうございました。では、これで」

ぺこりとルニーゼにお辞儀をするメイカを見て、慌ててお辞儀をする二人。

「いえ。またお会い出来る事を楽しみにしております。ご利用ありがとうございました」

そんな三人に綺麗な所作でお辞儀を返し、ルニーゼが少し口角を上げた。

「わぁ、びじんー」

思わず漏れたキキラの本音に、秋音達だけでなく後ろの騎士達も笑った。


*****


「あれまぁ、また手帳の贈り物だよ、皆さん」

「またかい?最近多いねぇ。ま、院長先生にあげるなり子供達に配るなりすりゃ、役に立つからいいけどさ」

「そうだけどねぇ。こうも無償で沢山貰うのは、ちょいと気が引けるじゃない?」

「そうそう。しかも、全部真っ白なだけで可愛く無いのよねぇ。だから売るのも微妙だし」

「本当よね!あ、それより聞いた?この前、、、、」

次回予告を本文の最後にも入れました。

おばさま方ってほんと強いというか強かというか。

勝てる気がしないわー、はい


秋音はリッカドスの言語で言うと、アキネ(↑↓↓)のイントネーションになります。

キキラも一緒ですが、メイカは若干メイーカっぽい響きになるので、完全日本語のノリの秋音は訛ってる判定ですねー


見てくださった方、ありがとうございます。

次回、「秋音、著の塔に行く」です。

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