秋音、森へ行く
ひゃっほう(*゜∀゜)
「いえぇぇぇぇぇーーーーーい!森だぁぁぁぁっ!ひゃっほう!ひゃぁーーーー!」
腕と尻尾をブンブンと振り回しながら、奇声を上げて走り回る。
ついに、秋音が壊れた。
というのは冗談で、秋音というのは元からこういう人、いや九尾である。
「あ、アキネ様、、、、。こんなに可笑しくなってしまわれて、、、、!」
メイカが涙目で秋音を見つめているが、心配する必要は無い。元からである。
「あーね、たのしそー!あたちも、、、、いえぇぇぇーーーーーい!」
キキラが真似て走り出した。プチカオス。
ちなみに、今日は三人とも変装はしておらず、秋音とキキラは襟元に花の刺繍がされた長袖に長ズボン、メイカは服装のみ前と同じ短剣使いで、三人共髪を頭の上で一つに束ねるという、動きやすい格好をしている。
このプチカオスが許されたのは、特訓開始から二月程経った昨日の事。
特訓の成果が実を結び、二人で力を合わせればAランクでも倒せるようになったため、ようやくお許しが出たのだ。
狂喜乱舞し、殆ど眠れなかった秋音は、それも相まって異常なテンションだ。
「で、この森だけの薬草ってのはどこや?なぁ?なぁ?なぁ?この前言うとったよなぁ?」
すっと止まった秋音の背中にキキラがドスッとぶつかるが、構わずメイカに聞いている。
先程まで恐ろしい位にっこにこだった秋音の顔が、凄みのある冷たい顔になった。
「ひっ!え、えーっと、この先の森の奥に、お、大きな岩があって、そこの割れ目から生えていますぅっ」
この場で唯一まともなメイカは、秋音のドスのきいた声に怯えながらも、しっかり説明しきった。
「そうかい!なら今すぐ行くで!」
途端に笑顔になって走り出す秋音。キキラもそれに続いている。
「あっ、ちょっと、待って下さい!勝手に行くなって何度も言ったでしょぉぉぉっ!」
焦って叫びながら走るメイカ。
いきなり走り出した二人に少し遅れを取ったものの、物凄い速さで追いかけている。
「あはははー!おねーちゃんはやーい!」
キキラが後ろを向いて楽しそうに走っていたが、前に生えていた木に気付かず、その勢いのままぶつかった。
「キキラ!大丈夫ですか?」
尻餅を付き、そのまま座り込んでしまったキキラに、急いでメイカが駆け寄る。
「ん、、、え?き、ききら!?平気かいな!?」
先に行っていた秋音も気が付き、走って戻ってくる。
キキラは顔全体を手で覆っていたが、急にぱっと手を離した。
額が赤く、目を潤ませていたが、表情は笑っていた。
「いたくないよ、だいじょぶ!あたちは、だいじょぶ、だから、いこ?」
にこりと笑ってそう言うキキラ。
「え?ドスーンってぶつかっとったやん、ほんまにだいじょぶなん?」
「んーん、だいじょぶ!だいじょぶなの!」
怒ったような顔をしてキキラが言う。
「、、、。ちょっと立って下さいねー」
メイカが立ち上がらせ、砂埃を叩いて払っている。
「よし。、、、分かった、じゃあ行こうか。でも、痛い時は痛いって、ちゃんと言ってね?」
「うんっ!いこ!」
ふと、メイカが笑みを作ってそう言うと、キキラは満面の笑みを浮かべて元気に歩き出した。
「ききらは痛みに強いんか?未だ三歳やのに、あれで泣かへんなんて。」
疑問に思い、秋音が二人に問い掛ける。
「えー?えへへー、あたちつよいよ!へへへー」
キキラは凄く嬉しそうにへへへと笑っているが、メイカは何も言わなかった。
「そうやな、強いわぁ」
「えっへへー!」
もっと言ってやると、胸を張って誇らしげにしている。
「、、、はいはい、もうこの話はお終い!もうちょっと向こうに行けば薬草の生えた岩ですよ!」
メイカがパンパンと手を叩いた後、正面を指差す。
「えっ、ほんま?やった、後ちょいやぁっ!ふーーーーー!!!」
秋音がまた奇声を上げて走って行った。
「あーねはやーい!」
キキラが楽しげにきゃっきゃと笑う。だが、今度はメイカと一緒にゆっくり歩いている。
そのため、どんどん距離が開いていってしまった。
「キキラ、アキネ様の姿が見えなくなっちゃうので、走りますよ!」
「えっ?あ、あーい!」
一瞬きょとんとした顔をしたキキラだったが、すぐににこりと笑って返事をした。
「、、、あ、速く走るので抱っこさせていただきますね」
「う、わぁっ!」
そう言ってメイカがひょいっとキキラを抱き上げ、急いで秋音の後を追いかけた。
キキラはびっくりしたのか目をまん丸にしたが、すぐに安心したようにメイカに凭れた。
「うーん、、、、ここら辺や言うとったはずなんやけどなぁ、、、、。あっ、あれかいな?」
キョロキョロしながら一人突っ走っている秋音は、それらしき大きな岩を見つけた。
周囲に木が無いため光が射し込んでいて、草丈の低い植物が岩からわさわさと生えている。
秋音は茂みをかき分けて急いで近づき、よじ登ろうと岩に手をかけたが、すぐにその手を引っ込めた。
「、、、亀の、甲羅?」
岩は半球になっていて、表面には少しゴツゴツとした亀甲模様があった。
「アキネ様〜!ちょっと、先に行かないで下さいよぉー!」
後ろから、キキラを抱っこしたメイカが走って来た。
「め、めいか。これって、、、。甲羅なのかい?」
少し指先を震わせながら、秋音が岩を指差す。
「あれ、アキネ様知っていらしたんですか?タートルの種は全体的に珍しいので、てっきり知らないものかと思ってたんですが」
少し驚いたような素振りを見せながら、メイカがキキラを地面に下ろした。
「数年前ですかね。ここで一匹の幼体のザラタンが息絶えている、とトトロボの冒険者が騒いだことがあったんですよ。」
ぽつりとメイカが話し始めた。その口調は穏やかだが暗い響きに聞こえた。
「本来なら海のどこかにいる筈の伝説上の生き物であるザラタンの、しかも幼体がいる訳無い。きっと、群れから逸れたドラゴンタートルの子供が死んでしまったのだろう、と判断されました。それからずっと、亡骸は仲間のいないここに、ぽつんと佇み続けています」
仲間と逸れ、誰にも看取られる事無く、一人で死んだ幼体の亀。
秋音は、メイカの声が少し暗いのも分かる気がした。
「、、、そうかい。」
顔を悲しげに少し歪ませ、秋音はぼそりと言った。
「かめさんは、しんじゃったのかぁ、、、。じゃあ、うめてあげないとだよね?」
下を向いて話を聞いていたキキラが、顔を上げてそう言った。
「、、、そうですね、埋めてあげた方が、亀さんも嬉しいかもしれませんね。でも、ほら、見て下さい」
メイカが、元は手足を中に入れる場所だったのであろう穴を指差した。
なんだ、と見ると、そこから角と長い耳が見え隠れしているのが見えた。
「、、、ホーンラビットかいな?」
浅葱色の短い角が特徴的な、野兎そっくりの魔物。
にしては少し角が太くて鋭いような気もするが。
「そうです。一年程前から、ここを巣穴にしているようです」
誰かの死は無でも終わりでも無く、他の生き物の命に繋がっていく。
大きな自然の中にまた溶け込み、一部になって続いていく。
そう思うだけで、先程の寂れた雰囲気が和らいだ気がした。
「逞しいなぁ。、、、なら、埋めるんは止めにして、花でも供える事にしよか」
「うん!そーだね!あたちきれいなはにゃ、さがちてくる!」
「ふふっ、そうしましょうか!」
秋音の一言で、その場の空気が明るくなった。三人はそれぞれ花を探しに散り、数分後には素朴だが可愛らしい色とりどりの花を手に持って戻って来た。
それを甲羅の天辺に置き、ついでにちょこっと生えている草を頂戴して、三人は家路についた。
「そういえば、アキネ様はどうして森に行きたいと言い出したんですか?」
「、、、あぁ、昔の癖みたいなもんだね」
ふと疑問に思い、メイカが聞くと、秋音はどこか遠い目をして答えた。
「くせー?」
「せや。、、、なんや、わっちの昔話に付き合うてくれるってんのかい?」
儚くて切ないような、胸がきゅっとなる笑みを浮かべ、秋音は言った。
「、、、はい、いくらでも聞きますよ。それで、アキネ様が、、、。たっぷり聞かせて下さい!」
にこっと笑ってメイカがそう言った。秋音は驚いたらしく、目を見開いたが、すぐにふわっと笑った。
この人達なら、話しても良いかな、と思った。
「わっちの周りにはね。怪我をしても病気に罹ってもなんかしてくれる町医者がいーひんかったんやわぁ」
そう言う秋音の頭に、ここに来る前の記憶が浮かんだ。
大勢の人が行き交う大通り。活気に溢れた城下町。秋音が住んでいたのは、一見明るいそんな場所。
だが、明るく見えるのは気のせいだ。特に、子供にとっては。
病気や些細な怪我が発端で、呆気なく亡くなる子供が沢山いた。
それどころか、自分の子を育てられないから、子が気にくわないからと、恐ろしい事をする人だっていた。
そんな事が当たり前のあの場所で、秋音もまたそう生きていた。
そんなある日。
大切な家族がいなくなった。
「きっと、出かけたまんま、病気かなんかで死んでもうたんや思た。数日前から、様子可怪しかったしな。、、、ほんで、思うたんよ。力のあらへんわっちには、なんも出来ひん。やったら、わっちが薬を作れるようになったら、ええんとちがうか思てな」
それから、調薬の仕方を学んだ。効果的な処方の仕方、新たな薬効などの研究に日夜勤しんだ。
誰かに聞いたり、書物屋に入り浸ったり、自分で試したり。
勿論大変な事が多々あった。でも、そんな事どうでも良かった。
死にたくない、死なせたくない。
壊れたように、必死に、ずっと、ずっと、ずっとーーー
「、、、せやから、今も薬や治療がわっちの唯一の心の拠り所であり、楽しみであり、姉への償いなんや。あほらしいやろ?」
そう言って笑った秋音の顔に、木々の影が落ちた。
「、、、そうですか。だから、森に薬草を求めて、、、。」
メイカが目線を落とす。キキラも、珍しく黙ったまま下を向いている。
「阿呆らしくなんて、ないですよ。寧ろ、誰かの為に動ける、アキネ様は、凄いですし、羨ましいとも思います。、、、償いたいなら、自分を許せるまで、いくらでも、償えばいいじゃないですか」
メイカが言葉を絞り出すように言った。
「あーねが、だいじにしてくれてるんだから、あーねのおねーちゃんもうれちいよ!だから、なかないで?」
キキラも必死に励まそうとしている。
「、、、せやな。おおきに」
今度は秋音が下を向いた。
俯いて少し丸まった背中は、細くて小さくて、切なかった。
今回はちょこぉっとだけ短めです。
秋音が抱えてきたものは沢山あって、どれも心の奥深くまで突き刺さっています。
それは皆同じで、楽しい毎日の裏側に涙があります。
でも、私の作品のモットーは「頑張る人にはハッピーエンドを」なので、何があっても幸せにします!(((結婚前のご両親への挨拶かよ
ま、そんなこと経験したこと無いっすけどね〜
それから、もうすぐ新シリーズを追加しようと思っています。
今の所追加するのは二つのシリーズで、もしかしたらその他に番外編まとめや他の世界などのシリーズを足すかもしれません。
追加した時は後書きと活動報告に上げようと思うので、待ってくれてたら超絶嬉しいです。
見てくださった方、ありがとうございます。
次回、「秋音と家族」です。