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夏花  作者: 八花月
21.鵺
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83

「誰か寄こすとは思ってたけど……あなたとはね」

 新早薬子は、三人を見下ろしながら言った。


「あー……悪ぃな。なんかやってたんだろ?邪魔しちゃって」

 武音乙女は、気軽に丘の上の薬子に向かって呼びかける。


「別に……かまわない……けどね」

 薬子は、堪え切れなくなったように、くぐもった声で笑い始めた。


「あの方、こんな場所でもコスプレしてますのね」

 雅樂は自分のことは棚に上げ、半ば感心したように呟いた。


「何してんの?」 


「何をしているように見える?」


 薬子は両手を広げ、からかうように言う。手に持っている棒のようなものが、不吉な影のように宙を踊った。


「いや、わかんねえ」

「見てなさいよ」 


 言い残して、薬子は背中を向ける。


「待てっ!」


 乙女が強く呼びかたが、特に反応はない。


「何してんのか教えろ。ここの古墳壊そうとしてんのか?」


「……まあ、結果としては壊れるかも」

 薬子は、初めて応答らしい応答をした。



(いった)いっ!」



 バチンッと何かが弾けるような音と同時に、ミラの悲鳴が響く。その後丘の上、文字通り上空からミラの肢体がゴロゴロと転がり落ちてきた。


「な、何やってんだミラ。大丈夫か?」


 乙女が声をかけると、ミラはバネのように身体を跳躍させ、すぐさま起き上がる。


「めんどいから、アタマの後ろを蹴り飛ばして終わりにしようと思ったんだけど……」


「お前勝手なことすんな! ケンカしにきたんじゃねえっつって何回言やあわかるんだよ!」


「何かに跳ね返された。魔法円(マジックサークル)みたいなの作ってる」



「正直こんなものが来るなんて想定してなかったんだけど……まあ結果オーライね」

 薬子は口の端を薄く曲げて笑った。


「これに阻まれたということは、あなたの連れてるチャーミングなお嬢ちゃんは魔性のモノということよ。わかってるの?」


「いや、それはまあ、結構わかってはいるんだけど……」


「えっ?! なんですのそれ! 初耳なのですが!」


 雅樂が仰天している。


「それは後で話すからさ……」



「可愛いペットみたいに思ってるとヤケドするわよ」

 乙女が薬子の言葉に反論しようとした矢先、怒りに燃えたミラが一歩前に出た。



「わ・た・し・がっ! 飼い主なんだから!」



 止めようとする雅樂の手も間に合わず、ミラは弾丸のような勢いで薬子に突っ込んでいく。



「奥津鏡」



 ぼそりと何か呟き、薬子が手を微妙に動かすと何かがキラリと光った。


 瞬間、目前まで薬子に迫っていたミラが、遥か後方に吹き飛ばされる。先程よりも強烈な勢いで、山の麓まで行くかと思われる程の飛距離であった。


「ミ、ミラちゃん!」


「あー、お願いね。暗いから気をつけて」 


 ミラを追って慌てて駆け出す雅樂の背中に、乙女が声をかけると〝心得ました~!〟と、やっとのことで絞り出したような声が返ってくる。


『あいつ多分、あれぐらいなら大丈夫なんだけどな』 


 乙女はミラのことは心配してなかったが、むしろ雅樂にこの場から離れていて欲しかったので、そのまま行かせたのである。

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