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「さっきはぎもっちゃんに触ったじゃん。生きてるよ。幽霊なら触れないでしょ?」
「そういうことを言ってるんじゃないんですけど……」
「こ、この子は遠い親戚ではある乙女様を頼って、遠路はるばる日本文化の勉強をしに来たのですわ。なんでも今日到着したばかりとか……。ですわよね?」
「ウン。ワタシニホンノブンカ、トテモキョウミアルノ」
ミラは素直に頷いた。
「まあもういいですけど……あーあ……」
萩森は嘆息しながら、車を走らせる。
既に、車道は国道では無くなっていた。駅の横を抜けスピードを落とし、しばらく細い田舎道を走って、目的地のかささぎ峠登り口に着いた。
「よっしゃ行くか!」
乙女は無理やり勢いをつけ、車外に出る。何か空気がピリピリしているのを感じた。
「ぞわぞわしますわね……あっ」
「どしたの?」
「これ……」
雅樂は袖を捲って乙女に自らの肌を触らせる。
「あら。鳥肌立ってるね」
「わたくし、その霊的にマズい場所に来ますと昔からこうなりますの。久々ですわ」
「あのデカい猫は大丈夫なわけ?」
「上古様ですか? ……あの方は一応ウチの守り神のような存在らしいので……」
「嫌なら帰んなさいよ」
ブスっとした顔で、ミラが言った。
「こっ、ここまで来たからにはそういうわけには行きませんわ」
「あのー、何するのか知りませんが、さっさと終わらせて帰りましょうよ」
萩森が声を出すと、皆一斉にそちらを向く。
「あ……言ってなくて悪ぃんだけど、萩森さんは車で待機しててくれる?」
乙女が言うと、
「何言ってるんですか。こんな夜の山道を女性だけで登らせるなんて出来ませんよ。小さい女の子だっているのに」
と、萩森は憮然とした様子で反論する。
「あの、萩森さん。今回は本当に、その申し訳ないのですがここで待っていていただけると……」
「ダメですよ。ここは譲れません。そもそも……」
萩森は喋っている途中で〝うっ〟と呻き膝から崩れ落ちた。
「お、お前何してんだよ!」
慌てて乙女が駆け寄り、萩森の身体を支える。魂が抜けたようにぐったりとしていた。ミラが何かしたらしい。
「気絶してるだけよ。一、二時間で覚めるわ。急いでるんでしょ? さっさと行きましょ」
ミラは何でもないように言った。
「だ、大丈夫なんですの?」
「クルマの中に入れておけばいいわ」
「しょーがねーな……」
乙女はまだ何か言いたそうだったが、おとなしくミラの言う通り、運転席に萩森を乗せる。
念の為確かめてみると、呼吸もしていたし心臓も動いているようだった。
「そんじゃま、行くか……」
乙女が言うと、それが号令だったかのように皆静々と歩き始めた。




