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「こ、こんにちにゃ~。いい日和ですにゃ」
「頼もう」
突然の声で、乙女の思考は中断される。
「いやもう、なんちゅうか、本当にお日柄もよく……お邪魔でなければいいんですけどにゃ……」
「我らのことは知っているな? 突然で申し訳ないが、あまり驚かんでもらいたい」
「お、おお」
乙女はまったく状況が掴めないながら、辛うじて反射的に返事だけは出来た。が、目は点になっている。
目前に居る来客(らしき者達)が虚無僧と巨大な猫だからである。
『あ……ホントこれ、近くで見ても熊くらいあんな……』
以前この化け猫を目撃した時も思ったのだが、今回更にその印象を強くした。
「あの~、あんまり時間もないもんにゃで、呆けんで貰えると……」
大猫が申し訳なさそうに言う。
「しゃ、喋れるんだね」
「うむ。これは猫に見えるが猫ではない。だから喋れる。ついでに言うと私も人間ではない」
横の男が簡潔に言った。
「私は回向。この猫みたいなものは上古という。さて、本題に入るが……」
「待て待て待て待て」
大猫が割って入る。
「本題はわしが話すにゃ」
「何故?」
「そのー、お前さんは話し方が直截すぎるし……あれ見にゃ」
上古と呼称するらしい猫は、まねき猫のような手の形で乙女を指した。
「あれ女の子にゃ。しかもまだ戸惑っとるにゃ」
「それが?」
「女の子はそのー……お前みたいなんより、わしみたいなモフモフしとる可愛げがある見た目のモンのほうが好きにゃ」
「お前、常夜衛士の娘にえらく嫌われていたじゃないか?」
途端に上古は渋い顔になる。
「あれは嫌いというか……怖がっとったんにゃ」
「大差無いと思うが」
回向が答えたのち一拍置いて〝キャアアア!〟という、雅樂の絹を裂くような絶叫が屋敷の中から聞こえてきた。
「どうしたの?」
大体察しているが、一応乙女は屋敷のドアを開けて中に向かって呼びかけてみる。
「きゃあっ!」
突進してきた雅樂が、乙女にぶつかり声を上げた。
「大丈夫?」
乙女は可能な限り優しく、柔らかく受け止め呼びかける。
自分に力の加減が出来るかどうか不安だったので、こういう仕草になったのだが、あらぬ誤解を与えてしまったようで雅樂は顔を真っ赤にしている。
「ああああ、あのあのあの、乙女様……」
「なんかいた?」
「あ、あああ、ああ、はいっ」
使命感からか、雅樂は何とか自分を取り戻した。
「あの、あの、お化けがいました。まさに小さい女の子の……2階に怪しげな長持がありましたので、調べておりましたら……」
やっぱり、と乙女は心中でため息をつく。
『なんで気付かなかったかなあ……』




