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「だからさ~、やっぱこっちから心を開かないとな~。なんつーかさー、壁を作っちゃってるんだと思うよ? キミ達は」
「ですかね」
「言われてみると……」
待宵屋敷の前面には、どこかで貰ってきた真っ白なテーブルや椅子を置き、テラスのような場所が出来ている。萩森と雅樂は、休憩時間にこの場所で乙女のご高説を伺っている形だった。
もっとも、萩森の方はそれほど熱心に聞いていない。
「そう言われても新早さん、やっぱりちょっと近寄り難いとこあるんですよね。あの人こう、殺気……みたいなの放ってるじゃないですか。いつも」
「話したら普通だったけどなー。先入観があるんじゃない?」
「今の乙女様のお話、少しわかる気がしますわ」
雅樂が熟考しながら、語り始める。
「あの方とお話した事、数える程しかございませんが……何かあの人柄の奥に、わたくしと似たものを感じるのです」
「えー? 全然似てないよ」
「それはないでしょう」
「しかし……」
即座に二人に否定され、雅樂は多少戸惑ったが自説を曲げる様子は無い。
「おそらく境遇か環境か……新早さんとは共鳴する何かがあるような気がいたします」
じゃあまた今度話してみたらどうです? と萩森に言われ乙女は〝いえ、それはもう少しその、落ち着いてから……〟などとモゴモゴ言っている。
「あの、武音さん。それよりこれ」
萩森はスマートフォンの画面を乙女に見えるように突き出した。
「おっ! おお~。また閲覧数増えてる。良かったじゃん」
画面には、乙女の作った学生達のYOUTUBEのチャンネルが映っている。
「良くありませんよ!」
「宣伝になるからいいでしょ」
乙女はあっけらかんと答えた。
「学生さん達の動画を見た方々が、リンクから乙女様と一姫様のチャンネルにも流れているようですし……ファン達が徐々に乙女様の存在に気付いているようですわね」
雅樂が横から口を容れる。
「問い合わせも増えてますし、この流れなら今稼働している乙女様のものとは別個に、市の公式チャンネルを作れるかもしれませんわ」
「こっちの固定電話もジャンジャンきてるよ、問い合わせ。あたし一人しかいないから、出られない時は留守電にしてるけど」
「ど、どう答えてるんです?」
恐る恐る萩森が訊ねた。
「ん~……。宿泊出来るか? って問い合わせには〝NO〟。開業してるのか? って質問にも〝NO〟見学出来るか? って質問には〝昼間ならYES〟……」
意味ありげに一拍置いた乙女を、萩森は固唾を呑んで見守っている。
「屋敷の幽霊は実在するのか? って質問には〝あたしは見たことある〟」
「ちょっと~! もう~!」
萩森は悲鳴のような声を上げ、真っ白い清潔なテーブルに突っ伏した。




