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「オトメは、私のこと攻撃出来ないんだと思ってた……子供の格好してるから」
しばらくして、ミラは呟いた。
「あれは攻撃なんて大層なもんじゃねーよ。その、悪い子への躾だ。お前風に言えばな」
〝なにが躾よ〟と、ミラは吐き出すように言う。
「人間だったら、頭潰れたトマトみたいになってるわ。あんなの」
「ははは。いいじゃん。ミラはなってないんだから」
ミラは、恨みがましそうな目で乙女を見ながら立ちあがった。服についてしまった埃を払っている。
「……で、これから私どうすればいいの? ここを出て行けばいいわけ?」
「何言ってんだよ。ダチにはなってやるって言っただろ? 一緒に住めばいいじゃん」
乙女は快活に言ったが、ミラはまだ納得いってない、というジェスチャーなのか、顔をぷいっと横に向けてしまった。
「血ぃ吸わねーんなら、一緒に寝てやってもいいぞ? どうする?」
ミラはふくれっ面のまま、こくんと頷き、おとなしく管理人室についてくる。
「あーあ。ひでえなこりゃ」
部屋の中は、戦いの傷跡がそこかしこに残っていた。また補修が必要だろう。
「なぁミラ。ダチにはなるけどさ、結局人間ってのは……まぁ人間じゃなくても、生き物はみーんな一人で生きてかなきゃいけないんだからな。それは覚えとけよ」
寝床に入りながら、言い聞かせるように乙女が言うと、ミラはその幼い目をキッと吊り上げた。
「嘘よ! オトメは昔アイドルとかやってて、友達もファンもいっぱいいるし……家族もいるんでしょ? 全然一人じゃない!」
『ちょっと難しいか……』
乙女は、ここでこれ以上ミラに自分の感じていることを説明するのは、不可能だと判断した。
「まあ、最後に頼れんのは自分だけってことさ」
へへっ、と笑いながら言うと、乙女は寝返り打ってミラに背を向ける。
「……ねぇ、どうして私のこと吸血鬼だって気付いたの?」
背中ごしに、囁くようなミラの声が聞こえてきた。
「まあ色々あんだけど……一番はあれだな。あの学生二人にお前が色々やってた時さ、鏡に映ってなかったんだよ。あの、玄関ホールの階段の踊り場にさ、デカい鏡あんじゃん」
以前、オカルト好きのアイドル仲間に〝吸血鬼は鏡に映らない〟という話を雑談中に聞いていたのだ。
乙女の答えを聞き、ミラはチッと大きな舌打ちをした。
「あんなの外しとけばよかった……」
あはは、と笑いながら乙女は内心、
『あたしはまだ鏡に映るよな?』
と、少し不安になっている。
明日早速試してみよう、と思った。




