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『どうすりゃいいんだ……? うーん、まあ子供だしな』
少し考えて、
「わかった。今日はもう一姫とは話さねーよ」
と、乙女は言ってみる。
「今日だけ?」
「しょうがないじゃん。用事がある時はさ」
まだ納得いってないミラに、乙女はチラッと視線を向けた。
「なぁ、そんなとこ浮かんでないで、ちょっとこっち来いよ」
「……なによ?」
暫しの逡巡の末、近くに降り立ったミラを乙女は手を取って自分の隣に座らせる。
「なに?」
「いや、もうやることねーから寝ようと思って」
「そ、そう……」
ミラは、途端におとなしくなり、見た目よりももっと幼い、幼児のような仕草で俯いてしまった。
寝床を用意し、
「一緒に寝るか?」
と声をかけると、ミラは素直に従いゴソゴソと寝袋に入ってくる。
『……気になってたこともあるし、ちょうどいいかな』
乙女は、神経を尖らせ全身の感覚を鋭敏にしつつ瞼を閉じた。
『うーん……まさかとは思うんだけどなあ……』
横にいるミラの、ひんやりとした身体を感じながら乙女は考えている。
『どうも最近寝付きが悪いんだよなあ』
不眠症というわけでもないのだが、段々寝る時間が遅くなっている気がするのだ。乙女はだいたい今まで、いつでもどこでも眠れなくて困った、という体験はない。枕が変わったから眠れない、というような神経の持ち主ではなかった。
『考えすぎだったらいいんだけど……』
あれこれ思索に耽っていた乙女が、さすがに少しうとうとし始めた頃、脇腹の辺りに何か違和感を感じる。
『おっ』
ミラが指でつついているらしい。続けてミラが〝ねえ〟と呼びかける声が聞こえる。
無視して寝たふりをしていると、腰の辺りにあったミラの身体が、もぞもぞと頭の方に上がってきた。
『マジか……』
ざわつく胸の動悸を、懸命に抑制しながら乙女は寝たフリを続ける。
やがて、ミラの吐息を肌に感じるようになった。
きた、と思った次の瞬間、キュッと何かがノドの肉に喰い込んだのを感じる。
乙女は跳ね起きて、首に齧りついているミラをひっぺがした。
「てめえ! やっぱりそうか!」
首根っ子を掴まれたミラは、きゃっ、と一声上げて子猫のように手足をバタバタさせている。
「幽霊だなんてウソつきやがって! お前吸血鬼だろ!」
「は、放してよ!」
ミラは暴れて、乙女の顎を正確に素足で蹴り上げた。乙女の頭は素っ飛びそうになるくらいの勢いで後方に曲がる。反動で手を放してしまい、ミラは急いで空中へと退避した。
「痛ってえ……」
「嘘なんてついてない!」
「ああ?」
乙女は顎をさすりながら、問い返す。
「私自分のこと幽霊だなんて言ってないもん! そっちが勝手に勘違いしたんでしょ!」
『そういやそうだったかな……』
言われてみれば、最初から様々な現象も幽霊だと決めつけていた気がする。
「でもそっちも、吸血鬼だって言わなかっただろ」
「な、なんでそんなこと言わなきゃいけないの?! 聞かれてもないのに!」
ミラは甲高いキンキン声で、がなりたてた。




