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夏花  作者: 八花月
16.激突
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『どうすりゃいいんだ……? うーん、まあ子供だしな』


 少し考えて、

「わかった。今日はもう一姫とは話さねーよ」

と、乙女は言ってみる。


「今日だけ?」

「しょうがないじゃん。用事がある時はさ」


 まだ納得いってないミラに、乙女はチラッと視線を向けた。


「なぁ、そんなとこ浮かんでないで、ちょっとこっち来いよ」

「……なによ?」


 暫しの逡巡の末、近くに降り立ったミラを乙女は手を取って自分の隣に座らせる。


「なに?」

「いや、もうやることねーから寝ようと思って」

「そ、そう……」


 ミラは、途端におとなしくなり、見た目よりももっと幼い、幼児のような仕草で俯いてしまった。 


 寝床を用意し、

「一緒に寝るか?」

と声をかけると、ミラは素直に従いゴソゴソと寝袋に入ってくる。


『……気になってたこともあるし、ちょうどいいかな』


 乙女は、神経を尖らせ全身の感覚を鋭敏にしつつ瞼を閉じた。


『うーん……まさかとは思うんだけどなあ……』


 横にいるミラの、ひんやりとした身体を感じながら乙女は考えている。


『どうも最近寝付きが悪いんだよなあ』 

 

 不眠症というわけでもないのだが、段々寝る時間が遅くなっている気がするのだ。乙女はだいたい今まで、いつでもどこでも眠れなくて困った、という体験はない。枕が変わったから眠れない、というような神経の持ち主ではなかった。


『考えすぎだったらいいんだけど……』


 あれこれ思索に耽っていた乙女が、さすがに少しうとうとし始めた頃、脇腹の辺りに何か違和感を感じる。


『おっ』


 ミラが指でつついているらしい。続けてミラが〝ねえ〟と呼びかける声が聞こえる。


 無視して寝たふりをしていると、腰の辺りにあったミラの身体が、もぞもぞと頭の方に上がってきた。


『マジか……』


 ざわつく胸の動悸を、懸命に抑制しながら乙女は寝たフリを続ける。


 やがて、ミラの吐息を肌に感じるようになった。


 きた、と思った次の瞬間、キュッと何かがノドの肉に喰い込んだのを感じる。


 乙女は跳ね起きて、首に齧りついているミラをひっぺがした。


「てめえ! やっぱりそうか!」


 首根っ子を掴まれたミラは、きゃっ、と一声上げて子猫のように手足をバタバタさせている。


「幽霊だなんてウソつきやがって! お前吸血鬼だろ!」


「は、放してよ!」


 ミラは暴れて、乙女の顎を正確に素足で蹴り上げた。乙女の頭は素っ飛びそうになるくらいの勢いで後方に曲がる。反動で手を放してしまい、ミラは急いで空中へと退避した。


「痛ってえ……」

「嘘なんてついてない!」

「ああ?」


 乙女は顎をさすりながら、問い返す。


「私自分のこと幽霊だなんて言ってないもん! そっちが勝手に勘違いしたんでしょ!」


『そういやそうだったかな……』


 言われてみれば、最初から様々な現象も幽霊だと決めつけていた気がする。


「でもそっちも、吸血鬼だって言わなかっただろ」


「な、なんでそんなこと言わなきゃいけないの?! 聞かれてもないのに!」


 ミラは甲高いキンキン声で、がなりたてた。

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