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夏花  作者: 八花月
2.赤歯寺・回向
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05

 南二名市。合併により広大な土地を市域にした四国の一地方である。斧馬町はその中にかつて存在した旧町名であった。


 昔はこの辺りの中心地であり交通の要衝だったこともあり、住人たちの中には今だに〝最早自分たちは市民であり町民ではない〟という意識が芽生えていない者が少なくない数存在している。


 この斧馬の地に、赤歯寺という仏閣がある。さほど有名ではないが、遍路が来るのでわりと賑わっており、財政状態も悪くなかった。


 夜の帳が下り、深々と静けさが寺域を包む。


 袈裟に身を包んだ歳若い住職は、これまたひっそりと音を立てぬように、古木の廊下を歩み庫裏に向かっていた。


 今日は特別な日とされている。年に一度の大切なお勤めの日であった。先代も先先代も決して忘れたことはなかったというが、住職は怪しいものだと思っている。


 先先代はともかく、先代は酒癖も悪く評判の悪い坊さんだったのだ。


 大切なお勤めには違いないが、今日のこれは正式な仏事ではない。


 これは……なんというのだろう? 民俗行事というのだろうか。知っている人間は『ご招来の日』と呼んでいる。


 この地方の、というか、この赤歯寺に伝わっている行事というか儀式だった。


 簡潔にいうと、何かが赤歯寺に来るという日である。仏であるとか、その眷属とかそういうものではないらしい。


 何かよくわからないモノがこの寺に訪ねてくるのだ。


 ただ来るのではなく、住職はその来るモノのお相手をしなければならない。


 この地方の言葉でいうと、遍路にするように、お接待をしなければいけないのだ。


 現住職はこの儀式の意味や由来など何も聞かされていない。誰にも続けろとも言われてないのでやめてもよいのだが、なんとなく続けている。


『まぁ、大三島のほうでは神様を相手に、とかいう話で一人で相撲するらしいし……。それに類するもんやろな』 


 住職は、聞きかじった知識でなんとなくそんな風に理解していた。

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