46
「ねえ君たち、今幽霊がどうとかって聞こえたんだけど」
萩森は敏感に、何やら不穏な空気を感じ取り、峻たちに声をかけた。
「はい。僕たち幽霊を撮影しに来たんです」
「なんか結構有名ですよね~。ここ。松良屋の女将さんにもたくさん待宵屋敷の怪談聞きましたよ~」
「武音さん!」
萩森は血相を変えて乙女のほうに、身体を一回転させた。
「えっ、えっ?」
「ぼ、僕たちちゃんとその事伝えてますよね?」
「ちょっ、ちょっと待っててね」
不安そうな峻と冬絹を宥め、萩森は乙女と雅樂の間に割って入った。
「武音さん! 彼ら、幽霊を撮影するとか言ってますけども!」
「うん。宣伝になるからいいかと思って」
乙女はいともたやすく答える。
「いいわけがないでしょうっ!」
「萩森さん、お客様の前ですので声を荒げるのは遠慮していただけると」
雅樂に言われ、萩森は声を落とした。
「何を考えてるんですか? ……撮影って彼ら、動画撮る気ですよ」
着々と撮影準備している学生たちをチラ見しながら、萩森が言う。
「ちょうどいいじゃん。どうせ動画撮ってYOUTUBEかなんかにUPするんだろうし、ここで親切にしとけば、口コミで良い評判だって広がるよ。……なあ、それ撮った動画どうせネットに上げるんでしょ?」
乙女に声をかけられた学生たちは、両人ともえもいわれぬ表情を見せた。
「いやあ……そういうのは別に考えてないんですよ~。あくまでも資料的な意味合いで」
「そうそう。僕たちはあくまで文化的な活動としてやってるんで。ただの物見遊山とか動画配信者とは一線を画してるんです」
「えっ? 電話で文芸部の宿題とか言ってなかった? ダメだったらクビになるとかいう。いいじゃん、よくわかんないけど、どうせ動画も撮るんだから、宿題とは別口でネット配信しちまえよ。有名になれるかもしんないぜ」
乙女が言うと、峻が一歩前に出た。
「いえ、まあ、あくまでキッカケは部の宿題だったんですが、目的意識自体は常に高く持っていたいというか……。俗に流れたくないんですよね」
「僕たちわりと高尚なんです~」
乙女は学生二人組を遠慮なしに、ジロジロと上から下まで眺め回した。
「……その、文芸部の宿題なんだから、文章でなんか表現すんだよね? どんな感じのモン書いてんの?」
「あ、見ます~?」
「旅館で夜ヒマだからぼちぼち形にしてるんですよ。僕たちの合作なんですけど。いえ、あくまで下書き段階なんですが……これから推敲を重ねに重ねて……」
グダグダと言葉を連ねつつ、峻は一冊の大学ノートを荷物から引っ張り出す。
「あ、見せてくれんだ。ありがと」
軽く礼を言い、乙女はノートを受け取った。
ノートを縦書きに使い、二人で交互に文章を書いているらしい。




