表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏花  作者: 八花月
11.旧家の屋根の上・回向と上古
37/95

37

「いや~、危なかったにゃ~。あの娘こっちのこと完璧に見えとったよにゃあ?」 


 上古の言葉に、回向は〝ふむ〟と簡素に頷く。


「なかなか油断ならんな」


「あの娘もよそから来とる人間よにゃ?」


「ああ。確か待宵屋敷とか言われている場所に住んでいる者だ。……あそこも何か妙な気配があるな」


「そこも調べてみんといかんにゃ~」


「そうだな。我々の助けになるかもしれない」


 回向はちょっと考えて再び口を開いた。


「もしくは妨げになるか。どちらにしても調査は必要だな」


 上古は回向の言葉を聞き、身体を屋根の上にぐでーっと伸ばす。


「もう厄介事はごめんにゃ~」


「残念だが、当初想定していたより厄介な事態のようだぞ」

「んんっ?」 


 上古は、うつ伏したままの姿勢で片目を開けて回向を仰ぎ見た。


「どういう意味にゃ?」


「調べが進んでな。護法の報告によると新早薬子は逃亡の際、十種(とくさの)神宝(かんだから)をいくつか持ち出している」


「ヤンチャな娘だにゃー」


 上古はウンザリした顔で舌を出し、宙をペロペロ舐めている。


「しかしまあ、そっちはワシらには関係ないといえば関係ないからにゃ。まぁ、上手いこと取り戻せたら、返してやったらいいんにゃないか? お礼に鰹節くらいくれるかもしれんしにゃ」


「それが関係なくもない。新早薬子が持ち出した十種神宝の中には八握(やつかの)(つるぎ)も含まれている」


「ふ~ん。何を考えとるんかにゃ~……」


 上古は暫しぼーっと、何かを思案している風に自分の手を舐めていたが、突如体中の毛を逆立てて飛び起きた。


「ンニャァアハァーーー!!」

「どうした?」


「あのクソアマ、よりによって布都(ふつの)御魂(みたま)持って逃げやがったんかニャーー!」


「汚い言葉遣いはやめろ」


 編笠の中から響く声が、僅かに不快の味を含んだ。


「ど、ど、どこのやつにゃ? 神宮のやつはさすがに無理にゃろうし……」


「本理大学の研究室の物だそうだ」


「なんでそんなとこにあるんにゃ? というか、どういう保管の仕方しとったんかにゃ。まあ今更何を言ってもしょうがにゃいんにゃが……」


「我々の把握出来てない神器もあるということだろうな。まあしかしお前の言う通り。今更何を言っても詮無きことだ」


 ふう、と笠の中から大きな鼻息の音が漏れる。


「……こうなると、赤歯寺の住職の協力を仰げなかったのは痛いな」


「確か声は聞こえても、見えてなかったんにゃったっけ?」


「うむ。あの様子では難しいだろう。人柄は悪くなさそうだったのだが」


「声はすれども姿は見えず。まるでお前は屁のような、っちゅうやつにゃな」


 にゃははは、と笑う上古に、編笠の内の回向は不気味に沈黙を保っている。


「ちゃ、茶化して悪かったにゃ」


「……そっちはどうなんだ? 常夜(じょうや)衛士(えじ)の山名家は」


「それがにゃ~……前も言った通り、ワシの姿も見えとるし、話も出来るし、なんとかなりそうなんにゃけどにゃ~……」


「まだ慣れんか?」


 上古は髭を震わせ、ため息をついた。


「あの娘、まだワシのこと怖がってまともに話してくれんのにゃ……。あれから何回も行ってみたんにゃけど、なんかビビりすぎて熱出して寝込んでしもうたんにゃ……」


「無理そうならほどほどにしておけよ」


 回向が言い終わるか終らぬかの内に、屋根の上を突風が通り抜けていった。墨染の衣がばたばたと何かを急かすようにはためく。


「嫌な風にゃー」


 上古は目を細め、上空を睨んだ。


「何か手を考えんとな……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ