02
不意に窓際のカーテンが激しく揺れ、初夏の風がこの場に居る人間たちの耳や頬の脇を吹き抜けていく。
武音乙女の清潔感のあるミディアムヘアも静かにサラサラと揺れた。
部屋には明かりがついておらず、忙しくバタバタとはためくカーテンの影が、白い床にまだら模様をつくる。
そういやなんで明かり消してるんだろ。節約かな?
乙女がぼんやりとそんなことを考えていると、
「あのー、武音さんの特技はどんなことですか?」
と、不意に面接官の一人が声を上げる。
「いえ、もちろん似たようなことは既にうかがいましたし、経歴からして色々おありなんでしょうが、一つ〝これは〟という自分の持ち味といいますか自信を持って言える得意なこと、というものがもしおありになれば、あらためてお聞きしておきたい、と思った次第で」
「人を集めることと、場を盛り上げることです」
乙女は、ほぼ即答と形容できるような早さで答えた。
焦っている風もなく、当然と思っていることが自然に口をついて出た、という静かな自信が感じられる様子である。
ちょっと出来過ぎかな、と乙女は思う。
外部の者による地域活性化の手伝い、この〝地方振興おたすけし隊〟の候補者としてはまさにうってつけの特技ではないか。
少しあざとすぎる気もする。
『でも、しょうがねーよな。ホントのことなんだもん』
アイドルというのは、集約すればこの二つに特化した職業なのだ。少なくとも乙女はそう思っている。
……だから現役時代は〝TV向きでない〟と言われ続けたのかもしれないが。
面接官たちは、顔を見合わせ一人残らず何やら複雑な表情をつくっている。
やがて中央の一人がぼそぼそと小声で何か呟き、皆それに合わせて頷いた。
「はい、武音乙女さん。もう結構です。ありがとうございました」
「はい。お忙しい中、こちらこそありがとうございました。よろしくお願いいたします」
型通りの挨拶の後、乙女は静かに退室していった。