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夏花  作者: 八花月
5.新早薬子
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 さっきまで海の近くを走っていたと思ったら、今度は山しか見えない。やたらとトンネルを抜け、列車は上へ上へと登っていき、木々の緑はいよいよ濃くなっていく。


 この時間、特急の指定席に乗っているのは、薬子を含め五、六人しか居なかった。


 その中でも、この新早(あらさき)薬子(くすこ)はかなり目立つ。


 上から下まで黒づくめでかためているのだ。服の意匠も独特で、パッと見、ちょっとお洒落な学生服に見える。


 何かのコスプレと勘違いされそうないでたちであった。


 山間を渡す、マッチ棒のような鉄橋を過ぎ、長いトンネルを抜けると、急に視界が開ける。


 風にそよぐ稲の群れが、上空からの日射しを一身に受け、またたくようにキラキラと輝いて見える。


 薬子は、読んでいた本から顔を上げ、つと、作り物のように均整のとれた顔をやや後方へ向けた。長い睫毛が優雅に震える。


 今しがたこの列車の抜けてきたトンネルよりも、少し向かって左。折り重なるように見える山の峰の一角に、薬子の視線は注がれている。


「かささぎ峠……あの辺か」


 薬子は〝地方振興おたすけし隊〟に決まってから一度だけ、挨拶と称しこの斧馬に来たことがあったが、その時はまとまった時間が取れず、肝心のかささぎ峠には行けなかったのだ。


 しばらくすると、列車は進行方向を変え、もう〝かささぎ峠〟は見えなくなった。


 銀色の車体を持つ列車は、これから街の中心へと入っていく。


 町が近づいてくると、薬子はもう一度顔を上げ、ちらっと車窓に流れる斧馬の景色に目をやった。


「シケた所ね……」


 棘のある口調でそう呟くと、薬子は手元の本に栞を挟み、バッグに仕舞った。

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