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「うおお! 一気に開けた場所に出たなあ!」
峻は、子供のように鼻先をバスの窓にくっつけ、喰い入るように外の風景を見ている。
「一面の田んぼだね~」
冬絹が答えた通り、道の両脇には青々とした夏の稲が、絨毯を敷いたように生え揃っていた。
二人ともTシャツにチノパン・Gパンという全く外見に気を使っていないことが丸わかりの恰好だ。
「おっ! あれ見ろよ! なんだあれ?」
「ああ……」
峻が指差したほうを見遣ると、確かに盆地を囲む周囲の山の頂きの一角に、異様な建造物の建っているエリアがある。
「でけー風車! あれ下の山の二分の一……は言い過ぎか。三分の一くらいあるぞ」
「あ、ああ、あれ風力発電のやつだね。似たようなの見たことあるよ」
「風力発電ね~。へぇ~、なんか未来感ある景色だなぁ~」
峻の視線は、顔を窓に押しつけたまま、遠方の風車を追った。
「どう?」
「何が?」
「あれで一句」
冬絹が言うと、峻は露骨に不機嫌になる。
「なんだよその顔~。もう斧馬に入ったんだから、始めなきゃダメでしょ。初めの句があれってのもいいんじゃない?」
「う~ん。まあそうかもな……。よし、出来た」
嫌がっていたわりに、峻の作句はそれほど時間がかからなかった。
「〝夏空に 羽根冴ゆるなり かざぐるま〟どう?」
「かざぐるま……うーん。あれかざぐるまって感じじゃないなぁ……大きいし」
「その辺はお前の文章でカバーしろよ」
「いやまあ、してもいいんだけど、僕が言ってるのは句としてちょっと……って話で」
「いやだからさ、風力発電っていう未来感のある題材を、子供の玩具のイメージに落とし込むことによって……」
「あっ、ダメだ。それ以前の問題だよ」
冬絹はスマホを弄りながら、呟く。
「以前ってなんだよ」
「〝冴ゆる〟って冬の季語だってさ。〝寒さが極まった感じ〟らしいよ」
「うわ~マジかよ~めんどくせ~」
峻は、座席の背凭れに身体をあずけ、大きく伸びをした。
「じゃあどうっすっかなあ……。かざぐるまはかざぐるまで良いとして……」
「こだわるね」
冬絹は軽く笑った後、足元のバッグからガサガサとパンフレットの類を取り出した。
「なにそれ?」
「斧馬とその周辺に関するパンフレット。松山で降りた時に駅にあったから持ってきてたの」
「俺にも見せて」
「君はこんなの見なくても、斧馬のこと知ってるでしょ? 推敲してなよ」
「いや、知らないよ。ここ来たの今回が初めてだもん」
冬絹は峻の返答を聞き、眼を丸くする。




