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「それでは、ええ……ここに応募された理由をお聞かせいただいてもいいですか?」
面接官の一人の言葉を受け止め一旦〝はい〟と返事をしてから、武音乙女はおかしいな、と思う。この質問にはさっきも答えたはずなんだけど。
「私は元アイドルで、それなりに知名度も実績もあります。アイドルを辞めた後も、様々な場所に行き、配信動画等を通じてレポートすることにより収入を得ていました。このスキルと経験を……」
「著作もいくつかあるんですよね? それは先程お聞きしました。言い方が悪かったですね。私がお聞きしたかったのは、この〝地方振興おたすけし隊〟それこそ全国各地域で募集されていて、受け入れ地域はたくさんあると思うのですが……何故武音さんはこの斧馬町をお選びになったか、ということなんです」
他の面接官も興味深そうに唸ったり、眼をパチパチさせて乙女に注目している。
なるほど。一応、応募書類に書いておいたはずだが、皆あれでは納得いかなかったということだろう。
まあそうだよな、と乙女は思う。自分はここに縁もゆかりもない人間なのだ。面接官にしてみれば疑問がわくのも当然だ。
「はい。以前アイドルをやっていた時にこの近くにイベントで来たことがあり、斧馬町の自然の美しさ、住人の方々のあたたかさに触れ……」
これは応募書類にも書いたことだが、他に妙案も浮かばず、乙女は繰り返すことにした。
正直なんとなく、であり乙女自身にも何故ここを選んだのかはよくわからないのだ。
乙女は着慣れないリクルートスーツに違和感を感じ、淀みなく喋りながら居住まいを正した。
こんなものを着たのは久しぶり……というか初めてだ。パンツスタイルなら兎も角、迷った末のスカートスタイルなので余計に、である。
ちなみにイベントで来たのは隣の斧馬見市であり、本格的に斧馬町に来たのは今回が始めてであった。
あの時は移動の時に通り過ぎただけなのだが、まるっきり嘘というわけでもない、と乙女は思っている。
「ふむ……」
乙女の淀みない返事を聞き、質問を発した面接官は身を深く椅子に沈め、黙ってしまった。