3.パラレルワールドと魔法
不思議な空間で意識を失ったと思ったら、管理者の声が聞こえてきた。
「……タダシ君、タダシ君。起きてくれ。もうすぐパラレルワールドに入る」
「ん……え、え?」
見回すと、まだ光の空間の中だったけど、遠くに入り口のような大きな扉が見えていた。
光を背にした大きな蛇の姿をした管理者は、僕に話しかけ続ける。
「世界の境界線を抜ける前に、君は魔法を行使しなければならない。今の君なら、思い浮かぶだけで使えるはずだ」
「思い浮かべる……」
不思議だ。
魔法なんて創作の世界にしか存在しないものなのに、今の僕にはどうすれば実行できるのかが分かる。
「今の君の……一番望んでいることを、強く願うんだ。そうすれば、次に目が覚めた時にはそれが実現しているだろう」
管理者の声が遠のき……僕の脳裏には、一人の女の子が思い浮かんでいた。
「……ん……」
見慣れた自分の部屋に戻っていた。
机、ベッド。
『元の世界の僕の部屋』には無かった、可愛い小物が置かれている。
机の上には、スマホもあった。
スマホケースも、可愛いデザインのものに変わっていた。
でも、僕にはそれが自分のものだとわかる。
その時、階下から母の声が聞こえた。
「『夏美』ー?そろそろ起きなさい。遅刻するわよー?」
「はぁーい」
甲高い、透き通るような自分の声がでて驚いた。
部屋を出る前に、自分の今の体を確認した。
胸に感じる、少しの重み。
柔らかな体。
節くれだっていない指や関節。
きめの細かい肌。
長くて綺麗な髪。
高い声。
そしてーー夢にまで見た、可愛い顔。
前の私が、何一つ持っていなかったものに、今、こうしてなれた。
「やった……はは、やったぁー!女の子になれた!!」
ここがパラレルワールドだとか、元の僕は死んでしまったとか、そんなことよりも
僕は、『私』になれたんだっていうことが、ただ嬉しかった。
キッチンで不思議そうに私を見つめる母をよそに、何もかもが嬉しくて、私はこの世界に来れて本当によかったと感じた。