3.異端の自覚、そして馬鹿を見つけた
今日は昼に起きる予定だったのに起きたら外が真っ暗だった(笑)
疲れてんのか?
俺の手には直径1メートルほどの火球が渦巻いている。
なんだ、これ……?
「レイラ、これなんだと思う?」
「……一応、下位のファイヤーボールだと思うんですけど……大きさがおかしいですね」
レイラが作りだした火球は拳大。俺の作りだした火球は1メートル。
いくらなんでもおかしくね?
「一也さん……魔法を作りだすのにどれほどの魔力と精神力を練り上げたんですか?」
「俺はそんなことしたつもりないぞ? 適当に詠唱しただけだし……」
そんなことを言いながら、俺は火球の威力を試すために遠くの方に着弾させる。見た目だけで中身はスッカラカンとかもありえるかもしれなしな。
俺はそんなことを思いながら火球を着弾させる。それと同時に鳴り響く轟音。それに伴ってこちらまで来る熱風。
……これゃやべぇ
「ちょっ、一也さん!?」
「ごめんごめん。見た目だけの魔法かなぁ? と思ったから着弾させちゃった♪」
「うわぁ……」
レイラは俺の魔法が作りだした惨状を見て絶句している。
なんせレイラの火球は少しの穴が出来るくらいだったのに、俺の方は大きなクレータを作りだしていた。
俺はそんな惨状を思いながら別のことを考える。……決して現実逃避というなかれ。
詠唱したからこんなことになったんじゃね? 魔法と言えば無詠唱だってあるはずだ! そっちなら威力も抑えられるはずだ。
そんなことを思い、俺は無詠唱で魔法を発動しようとする。
しかし――――――
どうやって発動するんだ?
詠唱ってのは言霊に魔力と精神力を練り込むことだと俺は勝手に思ってるんだけど、無詠唱となるとどうしていいかわかんねぇな。
ふむ……適当に心の中でイメージしてそれに練り込む感じでいいか。
俺の頭の中で魔法をイメージする。
マルチタスクを使い4つの思考で魔法を組み立てていく。
1つ、魔法の詠唱を頭の中で考える。火の精霊よ 我に宿りて その力を現わせ!“ファイヤーボール”!
2つ、魔法で作りだされる印象をイメージする。手に宿る火球
3つ、魔力を練り込む(イメージがわかねぇ……適当でいっか)
4つ、精神力を練り込む(同じくわかんねぇ……これも適当で)
そんな適当に作った魔法の現実に具象化される。
されたはいいが、さっきより酷い現象となって俺の手に火球は宿った。
「あの……一也さん……?」
「……何だ?」
「一也さん、詠唱してませんでしたよね……?」
「あぁ」
「それじゃあなんで?」
「頭の中で組み立ててみた」
「ということは無詠唱で?」
「まぁそうなるな。てか無詠唱なってこっちの世界にあるのか?」
「はい。けどこれも宮廷魔導師クラスの技術が必要ですし、普通は詠唱した時よりも効果が落ちます」
「けどこれは――――――」
「「なんでさっきより大きくなってるんだ?(ですか?)」」
俺の手に宿った火球は先ほどの1メートルじゃなく“3メートル”
「はぁ……」
「溜息つかなくてもいいじゃねぇか」
「だって非常識すぎるでしょう? なんで下位の魔法で上位クラスの威力なんですか……非常識すぎます!」
レイラが壊れた……
しかしこの手に宿っている火球もどうしようか……適当に投げちゃえ♪
とりあえずさっきより威力が高そうなのでさっきより遠く着弾させる。
すると、やはり威力は先ほどのものより大きかったようで、先ほどのクレーターの二倍くらいの大きさのクレーターが出来あがった。
「なんで無詠唱の方が威力が大きいんだ?」
「それは魔力と精神力の練り込み具合かと……」
レイラはそういうが俺は魔力と精神力を練り込み方なんてわからないから適当にやったはずだ。なら最初と次じゃ何が違った?
………そうか!
イメージの違いか!
最初は確かにどんな魔法かを見しては貰ったが、発動の際、際立ったイメージは頭の中では組み立ててはいなかった。
けど、二度目は違う。頭の中で魔法を組み立てる際、確固たる魔法のイメージを作りあげていた。その違いか!
「なぁレイラ。この世界の魔法使いは魔法を発動させる時って何かイメージする?」
「イメージですか? そんなことはしませんよ? 頭の中でそんな事をしていたら詠唱だって間違うかも知れませんし、魔力と精神力をちゃんと練り上げられないじゃないですか」
不思議そうに俺の問いに答えてくれるレイラ。
やっぱりイメージの差か。
ということはこの世界の魔法はイメージが明確になっていけばいくほど効果が増していくということになるな。
「魔法の方はこれくらいでいいか。後は少しづつでいいだろ。コツもわかったし」
「そうですか?」
イメージで魔法が強くなるってことがわかっただけでも儲けものだ。
イメージで強くなるなら何かのゲームから引っ張ってくるだけで確固たるイメージが出来てしまうからな。
だが問題は精霊魔法だな……
時間、空間はイメージが付き難い。効果は簡単にイメージ出来るんだが、発動の際のイメージがわからんし、詠唱しようと思っても文献にも載っていないだろう。
創造と消滅の場合はイメージは簡単に出来そうだが、脳の許容範囲を超えそうで怖い。特に創造の方。創造って事は無から有を作りだす魔法のはず。そんな神の業とされるものを一介の人間が扱える筈がない。
どんなリスクが付くかわからないから切羽詰まった時以外は使わない方が身のためだろう。
そんな事を考えているとレイラから声が掛かった。
「一也さん、お父様が呼んでいますので王の間まで付いてきて下さい」
「呼んで?」
「はい。魔法には念話という魔法があってそれほど遠くに離れていなければ頭の中で話し合える魔法があるんです。これは相手の魔力の質を知っていなければ使えませんけど」
「なるほど……」
なかなか便利な魔法があるもんだ。
「後で教えて貰ってもいいか?」
「はい!」
「よし。ならさっそくおっさんの用事とやらを済ませますか!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「んで、何か用事か?」
「おぉ。一也か、待っていたぞ」
俺が部屋に入るとおっさんは笑いかけてくる。
その他にはレイラの母、ライラ・セイル・アルティウスと最初の時にいた財務大臣のおっさんと法務大臣のおっさんとそれと……
「えっと……あんたは誰だ?」
俺は初めて見る男に顔を傾ける。
髪は金髪のセミロングのストレート。顔は眼がキリッとしていて鼻が高い。所謂イケメンといものだ。
服装は騎士服か何かかは知らないが、いつでも実戦可能な動きやすそうで、それで尚且つ綺麗な作りとなっていた。
……気にくわねぇ
そう思いながらも普通に接する。
「ラングル様、この者が来度の“救帝者”ですか?」
「あぁ。まぁ、“最後の”が付くがな」
にしてもおっさん、キャラが変わったな……
初めてあった時は弱弱しかったのに、数時間後にはこれかよ。
「んでおっさん、この人誰?」
「おまえッ!?」
「よいんだ。この者はこの国の騎士団副団長、ロイド・キキュード・ベオウルフだ」
「この人が副団長か……」
俺はもう一度目を向ける。
体の方はなかなかしっかりとしていて年齢では30を超えているだろうが未だに20半ばくらいの年齢に見える。
体に纏っている威圧感や立ち振る舞いといったところを見てもなかなかのものであるということが窺える。
「それにしても団長じゃなく、副団長がいるんだ?」
「それはだな「“救帝者”が任務を放棄すると聞いて抗議に来たんだ!」と言うことだ」
ふぅ……うっとしいやつだな。
「団長や他の隊長格は納得したんだが、こやつだけは納得しなくてな」
「当り前でしょう!? 何故それがその人間の義務というのにそれを放棄することに納得するんですか!?」
あぁ? 義務だと?
「それなのに王や団長は納得してしまうんですか!? おかしいじゃあり「黙れ」ッ!?」
俺はいつもは伏せている殺気を喚いている副団長とやらに向ける。それでも殺気は本気の一割しか出していないが。
「ギャーギャー喚いてんじゃねぇよ。てめぇは餓鬼か」
「なっ!?」
「普通は王や自分の上司が納得してんなら部下も納得するだろ」
「普通はそうかも知れないがこれだけは納得出来ん!」
「知らねぇよ。大体、自分以外の人間が納得していて自分だけが納得していないところを見て自分が間違っているとは思わないのかよ」
「思わん!」
あぁ……こいつは糞か。何もわかっていない餓鬼か……
他の人間は一回で納得してくれているってことは少しは見る目があるやつも残っているっていうのに……
「何でそう思えないんだよ」
「それがその者の義務だからに決まっているだろ!」
義務義務って……
「勝手に義務なんか作ってんじゃねぇよ。こっちにとっちゃ迷惑なんだよ」
「なにっ!?」
「こっちは勝手に召喚されているのに義務だぁ? お前は馬鹿か? そっちが好き勝手にやっているのに何でこっちはそれに従わなくちゃいけないんだよ?」
「それが義務「だからな」」
「こっちは義務でもなんでもないんだよ。お前が言っているのはそこらへんに歩いている人間に義務だから人生捨てろって言ってるのと同じなんだよ」
ホント何でこんな思想が植え付けられてんだよ、めんどくせぇ……
「言わせておけばぁ……!?」
しかも勝手に逆ギレかよ……
お前、周り見てみろよ。
皆苦笑かよ。どうせさっきの自分達を見ているような感じな心境なんだろうがな。
「ラングル王!」
「なんだ?」
「この者と決闘を申し込みたい!」
「「「「「なっ!?」」」」」
決闘? 決闘ってあれか?
一対一でやる喧嘩みたいなものか?
「それは駄目だ!」
「何故ですか!?」
「当たりま「別にいいぞ?」一也!」
俺はおっさんが抗議している中、割り込んで発言する。
大体負ける気がしねぇよ。
遠距離ならさっきやった魔法でもぶっ放せばいいだろうし、近接戦闘でも負ける気がしない―――てか近接戦闘の方が自信があるな。この世界に来てから身体能力と気の量が上がってる時点で負ける要素がない。
「一也!」
「別にいいぞ? けど俺が勝ったらこの件は納得しろよ? もし俺が負けたら“救帝者”の義務っていうやつを全うしてやるよ」
「言ったな? なら錬武場で待っているぞ!」
そう言い残すと副団長は部屋から去って行った。てか名前はなんだっけ?
「一也!」
「おっさん、さっきからそれしか言ってねぇよ」
俺は苦笑しておっさんの方を見る。
「そうだが、しかし……」
「大丈夫だって、なぁレイラ?」
俺はレイラの方を見て質問する。
「確かに魔法を唱えられたら一也さんが圧勝するでしょうけど……」
レイラは何か不安なのか顔を俯かせる。
「レイラよ、一也の魔法はそれほどなのか?」
「はい、お父様。正直世界一でしょう」
「「「「「なっ!?」」」」」
レイラの言葉に皆が驚く。
「先ほど錬武場で魔法の練習をしてきたんですが、下位の魔法で上位クラスの威力を放ってました」
「なんだとっ!?」
確かにでっかいクレーターを作りました、すいません。
「それは、凄いな……」
「しかも無詠唱で」
「「「「「ぶっ!」」」」」
全員が噴出した。
そんなに凄いか? 多分イメージのことを伝えたら皆出来ると思うけど。
「一也……お前何者だ?」
「おっさんまでそんな目で見るか……」
「しかしな……。そんなことをされると誰でもこうなるぞ?」
まぁ予想はしてたけどさ。
「という訳で大丈夫さ」
「けどロイドさんは近接戦闘のエキスパートですよ?」
ロイド……あぁ! 副団長か!
「大丈夫だって! 俺にはこれがあるさ」
そう言って腰に差してある影桜を見せる。
「けど……」
「まぁ安心して見てろよ。んじゃ俺は錬武場に行くが、他のやつらはどうする?」
「なら儂も見に行こうかの」
「爺さんいきなり出てくんなよ……」
いるのは知っていたけど……
他のやつらが驚いてるだろ?
「一也は驚かないのかの?」
「いるの知ってたし?」
「やるのぉ」
爺さんは笑いながら俺の方に向かってくる。
「他のやつらは?」
俺は周りに聞く。行くんなら皆一緒に行く方がいいだろ。
「なら皆で行くとしよう。それに重鎮は全て錬武場に呼ぶように手配しろ」
あっれぇ~? なんか重要人物が皆来る気配なんですけど。
「この機会に皆に言ったほうがよさそうだからな。さて、では行くかの」
何でおっさんが仕切ってんだよ。
俺はそんな事を思いながら錬武場に向かった。この出来ごとで少しは“救帝者”の認識が変わればいいんだが……
タイトル、あとがき共に大幅変更しました。
感想でそうアドバイスを貰ったので変えてみましたがどうでしょう?
何か変なところがあれば感想にでも書いてくれたら対処します。