OP.入学式
ようやく学園の始動。と言ってもプロローグだからそこまで関係ないかも
「ここが学園?」
「そうです。ここが今日から私達が通う学園――ルイスフェーレンバルグ学園」
長い旅路の果て、ようやく俺達三人は目的地であるルイス学園へと辿り着いた。
眼前に広がる学園は広く、今まで暮らしていた城などよりも大きい。ここからでは校舎が小さく見え、どれくらい広いのかが窺える。
とりあえず馬車を降り、今まで運んできてくれた御者にお礼を言う。
御者の人はそれを見て、今来た道を引き返して行った。代金の方は既におっさんが払っていたらしい。
「さ、とりあえず中に入って辿り着いたことを学園関係者に伝えに行きましょう」
「あぁ。でもどこに行けばいいんだ?」
「校舎の前に受付の人が居ると思いますので、そこまで行けばいいのではないでしょうか?」
「そうなのか? なら行こうか」
目的地も決まったことなので歩き始める。周りにも同じように伝えに行く人達で溢れている。その人達は俺達の姿を見て一度は振りかえる。その中でも男連中は絶対に振りかえりレイラとアイリさんの姿を確認し鼻息を荒くしている。たまに女の子も同じような症状に見舞われている。
そんな光景を眼にしながらも足を休める暇はない。黙々と歩いていく中、懐かしい顔を見つけた。
その少女もこちらを発見し走り出す。
「久しぶりだね、レイラ!」
「久しぶり、フィル!」
どうやら二人は知り合いだったらしい。
てか俺のことには気付かないのか? それだと流石に寂しいんだが。
そんなことを思っていると、レイラの他にも人が居ることを思い出しフィルはこちらにも顔を向けた。
初めは笑顔で、そしてすぐに驚愕の色に染まった。
「えっ!? もしかして一也さんですかっ!?」
「よっ、久しぶり」
「え、あ、え? なんで一也さんがここに? 学園には通ってなかったんじゃ……?」
「今まではな? 今日から通うんだよ」
「そうなんですか……」
フィルは未だ茫然とする中、レイラはおもしろくなさそうな顔をこちらに向けていた。
俺は何がそんなおもしろくなさそうなのかわからなかったが、アイリさんも似たような表情をしていたので何も言えなかった。
「どこでフィルと知り合ったんですか?」
「ん? あぁ、この間――と言っても前か。初めて俺がギルドに行った日があるだろ? その時にチンピラに襲われてるところを助けたんだよ」
「そうなんです。一也さん、本当にあの時はありがとうございました」
「そうだったんですか」
俺とフィルがどうやって知りあったのかを知ると、レイラの雰囲気もいつも通り柔らかくなった。
そこで俺の後ろに控えていたアイリさんのことも思いだし紹介する。
「こっちに居るのがアイリ・ファランスさん。俺専属のメイドさんだ」
「初めましてアイリ・ファランスです。以後お見知りおきを」
深ぶかと丁寧にお辞儀をする。
礼儀正しい――この場合は正しすぎるような気もするが。
「こちらこそよろしくお願いします。フィル「知っていますよ?」え?」
自己紹介の途中でアイリさんは口を開いた。
「レイラ様が話していましたから。歳は下ですが仲良い友達が居ると」
「あ、アイリさんっ!?」
「フフフ。レイラ様のことをよろしくお願いしますね? レイラ様も友達と呼べる存在は少ない方ですから。このような存在は大切なんですよ」
「はい! 任せてください!」
にこやかなフィルに対してレイラは恥ずかしそうに顔を俯かせている。その様子を微笑むアイリさん。俺もアイリさんと同じように微笑んでいた。
「もう……」
「そうむくれるなよ。アイリさんも意地悪で言った訳じゃないんだから」
「わかってますよ……」
「さて、こうやって談笑するのもいいんですが時間もあまりありません。早く受付のところへ向かいましょう」
俺はレイラを宥め、アイリさんが纏め上げる。
アイリさんの言葉には誰も異存はなく、すぐに首を振り受付へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「なんか色々しないといけないと思ったけど、そうでもないんだな」
「それはそうでしょう。というより私も普通に受け入れられましたね」
「あぁ、それには流石に驚いたな。おっさんが手回ししてくれたのか?」
普通なら問題になりそうなアイリさんの存在も全然問題にならず、それ以上に授業中も俺の傍に控えていていいとまで言われた。大丈夫なのか?
釈然としないままもおっさんの手回しには感謝する。だが、するのなら先に伝えて欲しかった。わざわざ馬車の中でアイリさんの処遇について考えなくても済んだのに。
「多分そうだと思います。そうじゃないとこうも簡単にいく筈ありませんから」
「ま、ありがたいけどな」
もしおっさんが手を回していなかったらアイリさんがここに居てはいけないとかなっていたかもしれない。それを考えると俺の徒労で済むだけでいいのなら安いものだ。ただ愚痴は言っても罰は当たるまい。
「そういやこれからどうするんだ? 日程なんか全然知らないぞ?」
「そう言えば一也さんには言ってませんでしたね。今日はこの後に始業式があるんでそれに出ます。その後はクラスに別れてホームルームで解散です」
「なるほどね。これも聞くのを忘れてたけど、泊まる場所とかは? 寮とかあるのか?」
「学生寮に登録されている筈ですよ。えっとお父様が渡してくれた中に……あ、ありました。はい、どうぞ」
「サンキュー」
レイラから鍵を受け取る。どうやらこれが寮の鍵らしい。
鍵の番号は666。どこか不吉な数字だ。
「アイリさんは悪いですけど私と同室になるんですけど……」
「構いませんよ」
「そうですか」
とりあえず当面の予定も決まった。
始業式の始まる時刻もそろそろ迫っているらしいので、このまま四人で始業式が行われる体育館へと向かう。
体育館に着くとこの学園の先生に先導され中へと連れられて行く。どうやら思った以上に人数は集まっているようで、四分の三の椅子は埋まっていた。
あまり目立ちたくもないし、それ以上に前の方に開いている椅子まで行くのは面倒くさいので、一番後ろの席に四人並んで座る。
座って十分も経つと始業式は開始された。
始まりはお決まりの校長による長い話――と思ったのだが、この校長はそんなことはせずに話を簡潔に纏めていた。終わった後、礼をした直後にこちらを見た気もしたが。
その後はつらつらと式は進行していき、生徒会長による挨拶が始まった。
おっさんからの聞いた話ではグレイア王国の賢姫らしい。
綺麗な金髪をツインテールで纏め上げていて、動作が入る度にその二つの髪の束がピョコピョコと動いている。その様子を俺は笑いながら見ていた。顔の方も美人というよりは美少女という言葉が大変似合う。
「一也様?」
「なんでもない」
そんなことを考えていたのが顔に出たのか、アイリさんが少し訝しむ。それを何もないと言い逃れる。
しだいに生徒会長のあいさつは佳境をを迎え、ついに終わりを迎えた。
その瞬間に気になったのが、俺の少し前に座る紫の髪をした男子生徒が忌々しい感じで生徒会長のことを睨んでいた。
それからは特に何もなく始業式は終わった。
結局会長を睨んでいる生徒のことは何もわからなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そう言えばフィルってどこのクラスなんだ?」
始業式も終わり、各自は好き勝手にクラスへと足を向けている。
そんな中、俺達も自分のクラスに移動しようと思ったが、フィルがどこのクラスなのか知らない。まぁレイラとこんなに仲がいいということは同じクラスなのだろう。
「レイラと同じSクラスですよ。一也さんはどうなんですか?」
「俺はおっさんの権力をフルに使った結果、レイラと同じクラスらしい。ということでフィルとも同じクラスな訳だ」
「そうなんですか~」
ほわぁ~、とした感じで俺を眺めるフィルは本当に小動物みたいだ。
レイラやアイリさんとはまた違った可愛さがある。まぁアイリさんは可愛いというより綺麗というのが適しているか。
「ならさっさとクラスに移動するか。皆同じクラスのようだし」
「はい!」
「そうですね」
「参りましょうか」
先導していくのはアイリさん。
それにしても何でアイリさんは学生でもないのにこの学園の地理を知っているのだろうか?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
クラスに着くと生徒達は皆各々好きな席に着き、クラスメイトと談笑していた。
どうやら席は勝手に決めてよさそうなので、俺は窓側の一番後ろの席に座る。元居た世界でずっと座っていた場所であるため物凄く落ち着く。
俺の前の席にはフィル、横の席にはレイラが座り、俺の後ろ――部屋の隅でアイリさんは待機している。これならアイリさんが俺に仕えているのではなく、王族のレイラに仕えているように見えて、特に違和感はないだろう。
それでも部屋の中に特級の美女のメイドがいることは物珍しいことに変わりなく、その視線の大半を集めていた。
「お前らさっさと座れぇ~」
急にドアが開き、やる気のない声が響いてくる。
その人物が姿を現し、教卓の前に陣取る。
「今日からこのクラスを受け持つゼクス・アウセウス・ビーチェルだ」
どうやらあのやる気のない男性はこのクラスの担任らしい。
やる気のないことに目を奪われがちだが、あの担任には隙というものが存在しなかった。どうやらかなりのやり手らしい。
「今日はざっと今学期中にあることを説明するぞ~。まず最初にあるのが明日の魔力測定だ。まぁこれは受けたい奴だけ受けて、受けたくない奴は別に受けなくていいぞ。どうせこの教室でやるしな」
別に受けなくても問題はないのか。
俺の魔力は馬鹿げてるし、器具も壊してしまうだろうから受けなくていいだろう。あまり目立つのもどうかと思うし。
「次は二週間後にある魔法大会の受付だ。これは別に説明はいらないな」
「魔法大会?」
「一也さんは知りませんでしたね。この学園では毎年魔法を使った大会があるんです。内容は毎年変わるんでわかりませんでしたが、去年は魔法を使った宝物探しでした」
「中々おもしろそうだな」
「ただ、その探している最中の妨害もアリでしたので、混沌とした大会でしたが……」
「そ、そうか……」
予想以上のものを計画してるんだな、この学園……
「今年の大会内容は一対一による魔法戦闘だ。戦いも魔法球の中で行われるから本気の戦いになるぞ~」
「へぇ……」
特に出る気はないけど、見る分にはおもしろそうだな。
「肝心の魔法大会はいつやるんだ?」
「夏休み明けですね。他の学園では体育大会とかしている季節です。まぁその時は魔法大会だけでなく色々な催しも行われるので、一種のお祭り騒ぎになります」
「んで最後に二カ月後にあるのが試験だから、ちゃんと勉強しておくようにな~」
「マジかよ……」
この世界に来てまだ一カ月と少しの俺にとって勉強は鬼門だ。今日から頑張って勉強するしかないか。
レイラやアイリさんに教えて貰えば、二か月あれば欠点を取るということはなくなる筈だしな。
「今学期はそんなもんだな。今日は特に連絡もないし、これで終わりだ。んじゃ解散~」
そう言って部屋を出て行く担任。
本当にやり手なのか疑わしくなってきたな。
「んじゃ寮を確認しにいくか」
「そうですね。私は前と同じなので問題はないですけど、一也さんはそうはいきませんし」
「じゃあ私は今日用事があるから先に帰るね?」
そう言って手に荷物を持つフィル。
「そっか。んじゃまた明日な」
「はい、また明日。レイラとアイリさんもまた明日」
「また明日」
「気を付けて」
そう言い残しフィルは足早に帰って行った。
フィルが居なくなり最初の三人に戻る。ここに居ても仕方がないのでさっさと寮の場所を確認しにいく。
寮は校舎から近い場所にあるようで、十分もするうちに辿り着いた。
「ここが男子寮になります。この向かいにあるのが女子寮ですので、何かあったら管理人、または呼び鈴を鳴らして下さい」
「わかった。明日はどうする? 一緒に行くか?」
「そうですね。なら朝の8時15分にここで待ち合わせということで」
「OK。んじゃまた明日」
「はい。また明日」
「また明日」
俺はレイラとアイリさんと別れ、自分の部屋へと向かう。
鍵を開け中に入ると、一人では広すぎる部屋が眼に入る。またこのパターンかと思い、おっさんの気のきかせ方に苦笑する。
折角用意してくれた部屋なんだ。精々ゆっくりさせてもらうことにしよう。
そういや今日の晩飯ってどうするんだろうか?
これでやっと学園編に入ることが出来ました。
本当に長かったなぁ……
少し前にとうとう大台の1,000,000アクセスに乗りました!
皆様方、本当にこのような稚拙な文を読んで頂いてありがとうございます。これからも精進していくので、どうぞよろしくお願いします。