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召喚されたッ!?  作者: Sir.G
第1章 王国編
23/26

EP.旅立ち

一章最終話をお届けします。あれ? なんかこれだと物語自体が終わる雰囲気みたいじゃ……

これは一章の終わりですからねー。二章もちゃんとありますからねー。

 混沌な宴があってから数日。

 今日は俺達三人が学園へ向かう一日前。学園へ持っていく物の準備などを急ピッチで仕上げていく。ここ数日はゆっくりした覚えがまるでない。


「めんどくせぇ……」


 こっちの世界に来てまだ一月ほど。自分の物など、この間レイラ達と一緒に服を買いにいった物くらいしかなく、楽出来るんじゃないかと思っていたのが四日前。その時に必要そうな物は買ってこいと言ったのがおっさん。

 しょうがないから買いに言ったのはいいが、何が必要かまるでわからなかった。まぁ、衣食住を基本として、食と住はあっちで手に入れるから、衣を買いに行こうと思ったが俺にはセンスがない。

 仕方なくレイラやアイリさん達に着いてきてもらおうと思ったが、二人とも忙しくて断られた。

 その話をした時、終始悔しそうな顔をしていたのが気になったが。

 そのおかげで知り合いを一通り当たってみて、誘えたのがリーネさんとハイネさんだけ。この時点で嫌な予感はしたが、俺一人ではどうしようもなかったので、無理に納得して二人に着いてきてもらった。どんな感じだったかは想像してほしい。

 ただ、ハイネさんが暴走していたとだけ言っておこう。


「正直買い過ぎたな……」


 当初なら小さな鞄に詰め込むだけ済むくらいの多さだったのに、今では小さな小山を作り上げるほど。服の他に小物や本。よくわからないぬいぐるみなんかもある。


「俺も何でこんなものを買ったのか……」


 今考えてもわからない。

 あの時はそれほど混乱していたんだろう。


「あれ? 魔法使えばいいじゃね?」


 俺もすっかりと忘れていた自分の魔法を思い出す。

 収納魔法として創ったのに覚えていなかったら意味がない。


「んじゃ使いますか。“次元空間”」


 眼の前に黒い穴が浮かび上がる。俺はその中に小山を築いているものを全て放り込んでいく。全部放りこめたので穴を閉じる。


「てか中にまだ狼いるな……まぁいいか」


 中に居たジェネシックウルフの死体は気にせず、俺は持っていく物の整理がやっと終わったことに息をつく。

 時刻はちょうど太陽が真上を上った程度。俺は未だ昼食を取っていなかったので、ちょうど良いと思い部屋を出た。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「おっす」

「あ、一也さん」


 広間に来ると、ちょうどレイラも昼食を食べていた。俺も厨房に居るコックに料理を頼み、席に着く。


「今日はアイリさんは一緒じゃないのか?」

「はい。今日は他のメイドさん達に教えなくちゃならないことがあるそうです。元メイド長でしたしね」

「そういやそうだったな」


 少し話をしているとすぐに昼食が運ばれてくる。話しを一旦中断して一口。うん、やはりおいしい。


「遂に明日ですね……」

「ん? そうだな」

「……大丈夫ですか?」

「何が?」

「全部、です。救帝者のこととか、学園のこととか全部です」

「そうだな……」


 俺は一度食器を置き、眼を閉じる。思い返すのは今までのこと。

 そして―――


「うん、心配なんていらない」

「そうなんですか?」

「あぁ。俺はもう一人で背負ったりしないからな。レイラも一緒に背負ってくれるんだろ?」

「それはもちろんです」

「なら何も心配なんてないさ」


 俺は笑いながらレイラに話しかける。その顔を見て安心したのか、レイラも同じように笑みを零す。

 最後の一口を食べ、食器を下げて貰うよう頼む。


「どっちにしろ、俺は何時も通りに行動するだけだしな」

「そうですか。なら何も心配はいりませんね」


 俺が席を立つと同時にレイラも席を立つ。


「んじゃまた後で」

「はい。それでは」


 そう言葉を交わし、俺はレイラと別れる。レイラはまた荷造りに戻るのだろう。

 俺はどうしようか……


「おっさんと少し話でもしてくるか」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 おっさんの場所を城の中に居る人達に聞いてみると、どうやら書斎にいるらしい。

何か探し物でもあるのか? などと思いながら、俺は書斎がある場所へと足を向けた。数分も歩くと、書斎の扉が眼に入る。

 俺はドア越しに声を掛け、おっさんに入ってもいいかどうかを尋ねた。


「おっさん、俺だが入ってもいいか?」

「一也か? 構わんぞ」


 何か俺俺詐欺みたいな感じだが、まぁ気にはしないでおこう。

 おっさんの許しも貰ったので、俺は重厚な扉に手を掛け押し開く。扉は見た目とは違い、案外簡単に開く。

 俺は扉を潜り抜け、中へと身体を入れる。

 書斎にはおっさんが一人。何故かその近くには積み上げられた本の群れ。それは軽く山を形成している。


「何か探してるのか?」

「ん? まぁ……な」


 なんとも歯切れが悪い。俺が聞いては駄目なことを探していたのか?

 もしかすると国家運営の情報とかなのかもしれない。間違って外にそんなことが漏れたら酷いことになる。俺はそう思って、調べている内容にあまり深入りしないことに決めた。

 まぁあまり人の隠していることを暴こうとするのも良くないと思うし。


「何か用か?」

「いや、特になにもないんだけどな……」

「なんだそれは……」


 呆れられた。

 仕方ないじゃないか。俺としてはやること全てを終わらせて何も用事はないし。かといってレイラやアイリさんは未だに忙しい。それ以外に仲の良い人物など俺には限られてくる。 

 今回はそれがたまたまおっさんだったというだけだ。


「明日……か」

「ん? そうだな」


 探し物を一旦止めたのか、おっさんは手に持っていた本を横に置き呟く。

 眼は外に向けられ、そこは紅の夕日が漂っている。


「これから少し、寂しくなるな」

「おっさんはそんな玉なのか?」


 俺は笑いながら声を掛ける。しかしその顔にあるものは紛れもない本物の表情。

 笑っていた顔も、そのような顔を見てしまっては出来ない。俺も笑うのを止め、まじめな態度で話しかける。


「お前をまだ召喚してから一月ほどしか経っていないというのに、俺には元来の友のような感じがする」

「俺はそうでもないが……それでも友という感じは共感出来る」

「そうか……」

「あぁ……」


 会話はそれで途切れ静寂が二人を包む。鴉のような漆黒の鳥が、紅い夕暮れの中を飛び回り、鳴き声を鳴らす。それは夕暮れの証。その鳴き声を聞いた商人たちは店じまいの準備を始める。


「お前がこれから行くところはあまり俺達は手を出せない。正真正銘、お前に立ち向かって貰わないといけない」

「わかってるよ」

「本当なら俺も着いていってお前を支えたいんだが……それはレイラやアイリに任せる。ただお前は自分の信じた道を進んでほしい」

「当り前だ」


 今までそうして俺は生きてきたんだ。今さら変わる筈もないし、変える気もない。これが俺であり、俺の象徴。誰でさえ覆すことは出来ないし、させない。


「だからおっさんは安心してここで待ってろよ。茶でも飲みながら全てが終わった後のことでも考えて、そっからの政治云々は全てそっち受け持ちなんだからな? 政治なんぞ俺は一切関わるつもりないし」

「クククッ、わかってるよ」

「そうか。なら……大丈夫だな」


 俺は立ち上がり扉に手を掛ける。今ははもう日も暮れ、夜の帳が下りている。予想以上におっさんと話を続けていたようだ。


「おっさんなら後のことを任せられるからな。頼むぞ? 異世界の友」

「あぁ、任せておけ。異世界の友」


 おっさんも同じように部屋を出る。

 二人で次に並んで歩くのは、この世界から“救帝者”の概念がなくなった後のことだろう。今は、まぁ最後の晩餐でも楽しんで来よう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 おっさんやレイラ達との晩御飯も済まし、一足早く風呂にも入り、後は寝るだけとなった。時間的にはまだ寝るには少し早いというくらいか。

 寝ようか寝まいか考えていると、扉のところに一つの気配。誰だろうと思っているとすぐに声を掛けられた。


「一也様、アイリです。入ってもよろしいでしょうか?」

「ん? いいぞ」


 俺が了承の旨を伝えると、扉はすぐに開かれた。アイリさんが入ってくると、その手には一つの瓶。


「飲みませんか? 今日は月が綺麗でおいしいですよ?」

「え゜?」


 俺はそんな声をあげてしまった。何故ってこの前の惨状が鮮明と思いだされるからだ。あの混沌の情景。意味が分からない酔い方をするレイラとアイリさん。

 もうあんな体験はこりごりなんだよ。


「あぁ、大丈夫ですよ。この間は間違って強いお酒を飲んでしまって……」


 恥ずかしそうにそう言うが、俺はあんまり安心出来ないんだが……


「それにこのお酒、果実酒ですから大丈夫ですよ」

「それなら……大丈夫か」

「お注ぎします」

「ありがとう」


 グラスを手渡されて、その手に持つ血のようなルビー色の果実酒を注がれる。年代などはわからないが、夜空の下で宝石のような光を発するので、間違いなく上物だろう。

 俺だけ飲むのもどうかと思い、一応度数も低いということなのでアイリさんにも注ぐ。


「「乾杯」」


 声を合わせる気はまったくなかったのだが、二人とも同時に言葉を発し、グラスを鳴らし合う。グラスを傾け飲むと、アイリさんの言葉通りきつくなく、飲みやすい。これなら悪酔いもしないだろう。


「……うまいな」

「ラングル王が出立のお祝いとしてくれたんです」

「おっさんが?」

「はい」


 おっさんも酒を飲むのか……

 そんなことを思いながらグラスを飲み干す。飲み干せばそれを同じくしてアイリさんが注いでくれる。月夜の下で美女に酌をしてもらっているので、より一層味がおいしく感じられる。

 それなのにこの人は……


「……一也「無理はしなくてもいい」ッ!?」

「わざわざ酒なんか持ちだすんだ。何かあると思うのは当然だろう?」


 驚いた様子のアイリさんを尻目に見ながら、俺は話し続ける。


「薄々気づいてはいたよ。アイリさんが何か隠している――いや、この表現は正しくない。何か過去を引きずってるっていうのが正しいか」

「一也様……」

「初めは俺の勘違いかと思ったけど、日が経つごとに疑問は確信に変わっていったよ」


 時折見せるあの表情は流石に見逃せなかったしな。ただ踏み込むことは出来なかった。それが正しいのか間違っているのかわからなかったから。


「確かに俺にその事情を話してくれるのはうれしいよ。信頼されてると思うからな。けど、酒を使って無理矢理話したところで意味なんかないだろ? 話してくれるのなら、酒なんか頼らずアイリさんの意思を持って話して貰いたい。そうじゃないと俺もどんな対応すればわからない」


 月は辺りを優しく照らす。その光は誰しも平等に。だからこの不安を抱える女の子を照らしてあげて欲しい。


「だから俺も待つよ」

「何で……何でこんな隠しごとをしている者に優しくしてくれるんですか?」

「誰だって隠しごとの一つや二つはあるだろ? 俺だってレイラやアイリさんが知らないことは一つや二つ以上にあるぞ?」

「そうですけどッ!」

「ならいいだろ。それにいつかは話そうと思ってくれてるんだろ? なら俺もレイラも待ってるだけさ」

「…………」


 振りかえった先には―――涙を流すアイリさん。


「駄目です……。そんなに優しくされると、抑えきれ…ません……ッ!」

「泣きたいときは存分に泣くのがいいと思うぞ?」

「ぁ……ぁぁあぁあああああッ!」


 俺の胸の中で泣きじゃくる。

 ずっと溜めこんできたんだろう。誰にも話せず、誰にも自分の弱さを見せない。それは確かに強いのかもしれない。けど、それは悲しいことだった。誰にも寄りかかれず、たった一人で生きているのと同じなんだから。


「アイリさんは俺を支えてくれるんだろ? なら俺もアイリさんを支えるよ。だから今は無理なんかしないでいいんだ」


 支えてくれるのなら俺も支えよう。

 だから無理なんかしないでいい。アイリさんを助けてくれる人はたくさんいるんだから。






「すみません。汚してしまって……」

「そんなことは気にしなくていいって」


 あれから大分泣き続けて、今はやっと泣きやんだ。長い間溜まってたものが全て吐き出したんだ。こうもなるだろう。


「もう大丈夫……だな」

「はい。本当にすいません、ご迷惑をおかけしてしまって」

「気にしなくていいって言ってるだろ? 俺もアイリさんにはたくさん迷惑をかけてるんだからこのくらいはどうってことない」

「ですが……」

「あぁもう……。なら今度何か頼むからそれでチャラってことにするな。それでいいだろ?」

「……はい、わかりました」


 やっと納得してくれた。

 さっきまで泣いていたのが嘘のように強情だった。何気にアイリさんって融通効かないからな。


「どうかしましたか?」

「いや……それよりそろそろ戻った方がいいだろ。今日は早く寝ないと明日がキツイぞ?」

「そう……ですね。では今日はこのくらいで部屋に戻りますね?」

「あぁ」


そ う言ってアイリさんは俺の部屋の扉に手を掛ける。しかしすぐに出て行くと思ったのだが、何故か立ち止まる。そして振り返った。


「……いつかきっとお話します。だからその時まで待っていてください」

「俺もレイラもいつまでも待ってるさ」

「……ありがとうございます。我が敬愛せしご主人様―――」


 月に照らされた彼女の笑顔は今まで見た笑顔のどれもより綺麗だった。


「久しぶりだな。俺が見惚れるなんて……」


 そんなことを思いながらベットに横になり、明日に備えて眠りについた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 春風が吹く。

 周りには今まで知りあった城の人達が、俺達の出発を見送ってくれている。

 俺、レイラ、アイリさんは荷物を全て馬車に乗せ、後は自分達が乗れば出発という状況。最後に皆と言葉を交わして出発するつもりでいる。


「準備は万全なのか?」

「あぁ、特に問題はないだろ」


 最後の確認をおっさんがしてくる。まぁ途中でないことに気づいても買い足せば間に合うだろう。お金も俺がギルドで稼いだのが残っているし、いざとなったら学園の方にあるギルドで稼ぐこともできる。


「寂しくなるのぅ」

「おっさんと同じことを言うなよ、爺さん」

「そうじゃったのか?」

「あぁ」


 結局は皆がその気持ちを持っている。

 一カ月程しかこの場所には居なかったが、それでも俺もこの場所が好きなった。これだけの人と仲良くなったのも初めてだったかもしれない。


「あっちでも頑張るんじゃぞ」

「私達を倒したんだから他の学生なんかに負けたら承知しませんよ」

「わかってるよ」


 リーク爺さんとリーネさんの激励。


「僕はあまり喋れなかったけど。まぁ頑張ってね」

「何かあったら連絡してねぇ。すぐに助けに行ってあげるよぉ」


 キリクさん、ハイネさんの応援。


「じゃあ行って来い! レイラ、アイリ。こいつのことを頼むぞ?」

「はい、お父様」

「わかっています、ラングル王」


 おっさんがレイラとアイリさんに声を掛ける。

 そして―――


「じゃあ行ってくる」

「あぁ」


 そしてレイラ、アイリさんが馬車に乗り込む。俺は一番最後に乗る。

 その前にもう一度だけ振りかえり、今までの礼を込めるかのように頭を下げた。荷台へと乗り込み、外を見る。そこではおっさん達が手を振ってくれている。


「いつまでも見ていると寂しくなりますよ」

「わかってるよ」


 アイリさんの言う通り。だから最後にこれだけを送ろう。


「咲き誇れ 花は芽吹いて命を育む―――」

「一也さん?」


 いきなりのことで驚いている二人だが、俺はそれを笑って外を見ろと目線で合図した。

 それに伴って外を見る二人。


「―――出会い別れて 巡り巡りいつかまた出会う“桜吹雪”」

「うわぁ……!」

「綺麗……」


 魔力により擬似的な出会いと別れを象徴する花、桜を大量に創り上げる。それを風の魔法により行き渡らせ幻想的な世界を創り上げた。


「いつかまた戻ってきたら皆で騒ごうなぁ―――ッ!」

次からはようやく学園編。まぁプロローグですから、まともに学園編に入るには二、三話語ですけどね。

まぁこれからもゆっくりと更新していきます。


そういや新作を一本載せようか迷う今日このごろ。なんかこの作品も一章完結でキリがいいし、もう一本行こうかと思いつつも、バカテスそういや凍結させてるじゃん俺、とか思うと載せづらいw

バカテスは一度消して、改稿した方がいいような気も最近してるし、まぁ余裕が出来たら考えてみることにしようかな。


そう言えば、とうとうお気に入り数が1,000を超えました!本当に皆さま、私の稚拙な文を読んでくださってありがとうございます!

これからも精進していきますので、応援よろしくお願いします!

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