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召喚されたッ!?  作者: Sir.G
第1章 王国編
22/26

19.平穏

思った以上に時間が経ってしまいました。二週間くらいの予定が一カ月近くも時間が空き、本当に申し訳ございませんでした。

「魔法球を壊すのはやりすぎじゃよ……」


 先ほどまで激闘を繰り広げた爺さんは溜息一つ零す。

 今は魔法球も壊れ、現実世界へと戻ってきた。先ほどまでの戦いは魔法球の中だけでのものなので、俺も爺さんも怪我の一つどころか、汚れ一つすらない。


「いや、俺も流石にあんなに威力があるとは思ってなかったんだよ」


 あれは本当に予想外だった。もっと小規模の爆発が、核が爆発したかのような威力と範囲になってしまった。無意識的に想像しすぎたのか、それともシオネの円環で予想以上に魔力を吸収しすぎたのか。

 まぁ実害はないからそこまで悩まずとも問題はないか。


「ま、これで全戦全勝だな。二人には情けないところを見せずに済んでよかった」

「そうじゃな。さて、儂もそろそろ行くかの」

「どこか行くのか?」

「なに、この場には主役しかいらんじゃろ? 儂達みたいな脇役はさっさと舞台を降りてしまわんとな」


 そう言って爺さんは魔法で姿を消す。

 結局この場に残るのは俺一人。少しするとおっさんが近づいてきた。その後ろにレイラとアイリさんの二人。


「成功……だな」

「あぁ。少しはこれで認められたかな?」


 これだけは自信が持てない。

 強いだけでは意味がない。かと言って力がなければ自分の意見を押し通すことも出来ない。力だけでも意志だけでも足りない。この二つが合わさって初めて意味がある。


「―――大丈夫ですよ」

「え?」


 優しい声音に俺は茫然とする。その後ろにはアイリさんの優しい笑み。


「あれを見てください」


 レイラが指差す方向を見ると―――


「良い試合だったぞ―――!」

「頑張ってね―――!」

「私達にも出来ることがあった気軽に言ってよ―――!」


 観客席から飛び交ういくつもの声援。

 今まで話したことない人達が声を掛けてくれる。もちろん、その中にも城にいる知り合いなども含まれていた。


「一也さんはあれだけの人の心を動かしたんです。だから誇っていいんですよ」

「そっか」


 俺は不覚にも感動して、涙を零しそうになった。それをグッ、と堪え、こんな俺に声援を掛けてくれている皆に返す。


「皆、少しずつだが、それでも前へ向かって進む。もし俺が進む道を間違えたのなら力で排斥してもらって構わない。だが、それでも俺はおっさん達が目指すその場所へと辿り着くつもりだ。だから、見守っていてほしい―――ッ!」

「「「「「ワァァァァァアアアアアアッ!」」」」」


 ありったけの声と思いを込め、語りかけた。

 それに呼応するように、皆も声を上げる。声は一つとなり、空へと吸い込まれていく。


「大分愛されてるじゃねぇか」

「ははっ。予想外すぎて涙が出てくるな」


 バレないように涙を拭う。レイラやアイリさんは気付いていたかもしれないが、何も言わないでくれた。


「さて、今からドンチャン騒ぎだな。今日は騒ぎに騒ぐぞ!」


 そう言っておっさんもどこかに行く。あの口ぶりからすると、後で今日の祝いでもするのか?


「後数時間後にいつもの場所でドンチャン騒ぎをするそうです」

「私達も後でいきましょう?」

「……そうだな。まぁまだ時間はあるだろ? ならゆっくりしようか」


 俺は二人にそう言って地面に寝転がる。体力、精神力ともに大分と使い果たした。横になるだけで疲れは一気にやってきて、睡魔に襲われる。


「そんなところで横になっては汚れますよ?」

「あ、ぁ……」


 もう……無理。


「一也さん?」

「…………」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


~side レイラ~


 地面に横になって目を閉じた一也さん。

 三連戦、それもこの世界でも最強に一番近い人達との激戦を繰り広げて、体力も精神力も極限もすり減らした戦いも終わってホッ、としたんでしょうね。

 スヤスヤとした呼吸音が静かなこの場所に木霊します。


「一也さん……」


 私はそんな安らかな寝顔を浮かべる最愛の人を愛おしげに見詰める。

 汚れるのすら構わず私も地面に腰を降ろし、自分の膝に一也さんの頭を乗せる。少しだけ反応があったけど、すぐに気持ちよさそうな顔に戻ります。

 アイリさんは私のそんな様子を羨ましそうに見ています。


「こういうのは早い者勝ちですからね」

「今日は譲っておきましょう」


 少しだけ不貞腐れたように言うアイリさんは新鮮で、とても綺麗に見えました。


「疲れたんでしょうね」

「そうですね。あれほどの戦いを三連戦で繰り広げましたからね。普通の人なら一戦目で終わっているでしょうし」

「そうですね」


 静かな時間が流れて行く。私とアイリさんの会話も一、二言話し、また口を閉ざす。それを繰り返し短い会話を続ける。

 風が優しく流れ、私達三人を包み込む。季節はアイヴィーの月。花達が芽吹く生命を司る季節。朗らかでありながら力強い光が辺りを照らす。


「凄いですよね、一也さんは……」

「どうかしましたか?」


 ふと呟いた言葉をアイリさんに拾われた。


「いえ、ただ凄いなぁ、と改めて思って……」

「そう……ですね」

「アイリさん?」

「いえ、何でもありません」


 たまに、本当にたまにアイリさんが今みたいな、何かを悔やんでいる顔を見かける気がする。それが何なのかはわかりません。本当に悔やんでいるのかすらわかりませんし。でも、私の思い違いじゃなかったら―――


「どうかしましたか?」

「あ、いや何でもっ」


 変に考えていたのが顔に出たようです。うぅ、何でこう、考えたことが顔に出るんでしょうか。癖……のようなものですか? こんな癖は嫌です。


「…………」

「…………」


 私達は喋らない。チラ、とアイリさんの方を見てみるけど、先ほどのような悲しそうな、悔やんでいるような顔はしていませんでした。

 やはり私の見間違いなんでしょうか。


「……アイリさん」

「何ですか?」

「今、幸せですか?」

「ッ……、はい。幸せです」

「そうですか」


 一瞬躊躇ったかのような返答。

 やっぱり何かあったんでしょう。しかし、私は問い詰めたりしません。長らく一緒に育ってきたといっても間違いでないアイリさんが話してくれないような内容を、私が土足で踏み込んでいいものとは思えません。それに、本当に辛くなったのなら―――


「―――私や一也さんはちゃんと待ってますから……」

「ッ! ありがとう、ございます……」


 私達はアイリさんの味方なんですから。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


~side アイリ~


 レイラ様の膝の上で安らかに眠る一也様。本当なら私が膝枕をして差し上げたかったけれど、早い者勝ちということでレイラ様に膝枕をする権利を奪われてしまいました。

 その時に恨めしそうな視線を送ったのは内緒です。

 最強の名に最も近い三人から勝利をもぎ取った我が主。

 最後の最後まで諦めず、自分の力だけでその場所に至った本当の強者。私では到底辿り着けない境地に至っている一也様を見つめる。

 歳だけなら私より若い、それだというのに……


「凄いですよね、一也さんは……」

「どうかしましたか?」


 ふと呟かれたその言葉に思わず私は反応してしまいました。


「いえ、ただ凄いなぁ、と改めて思って……」

「そう……ですね」


 私も本当にそう思います。

 私では絶対に無理だった、そんな場所にいる一也様……


「アイリさん?」

「いえ、何でもありません」


 これはもう終わったこと。それを何時までグジグジと思い悩むなんて私らしくない。

 あれはもう過去。それでいいじゃないか。そう思うのにどうしてか、心は言うことを聞かない。溢れだす感情。制御出来ない想い。それらが混ざり合い、形状し難い感情となり私の中で暴れまわる。

 それをどうにかして無理やり押さえつける。表面上は何時も通り。レイラ様や一也様にはこんな醜く、みっともない姿は見せたくない。


「どうかしましたか?」

「あ、いや何でもっ」


 それでもやはり長年一緒に居たレイラ様には少しだけ感づかれている様子。内容までは気付かれてはなさそうだが、それでも何かあったとは感ずかれていそうです。


「…………」

「…………」


 無言が続く。これで凌ぎきったと思っていたのに、次の言葉で私は大きく心を揺さぶられた。


「……アイリさん」

「何ですか?」

「今、幸せですか?」


 息が詰まりました。そんな質問をされるとは思っていなかったから。

 いつもの、平常時ならなんのことはない質問。しかし、今の私の心でそんな簡単に捉えることが出来ない。


「ッ……、はい。幸せです」

「そうですか」


 それでも平常を装って答える。こんなところで躓くなんてことは出来ない。けれど、こんな陳腐な答えではレイラ様を騙すことは出来ないようでした。


「―――私や一也さんはちゃんと待ってますから……」

「ッ! ありがとう、ございます……」


 そう声を掛けられ、思わず泣き出しそうになりました。

 私は貴方達と違って薄汚い人間なんですよ? それでも信じてくれるというのですか?

 本当に信じていいのでしょうか……?


~side out~


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ぅ……ん?」


 少し肌寒い風が身体に当たり、俺は眼を開ける。

 地面で寝たというのに、柔らかい何かが下にある。俺はぼやけた目の焦点を合わせる。すると、俺の頭上にはレイラの顔が。その横にはアイリさん。どんな状況だ?


「レイラ……?」

「はい?」

「どういう状況?」

「えっと、お気に召しませんでしたか?」

「へ?」


 俺は改めて自分の状況を見る。頭上にはレイラ。自分の頭の下には柔らかい何か。レイラは座っている。これらを踏まえて考えると……


「膝枕?」

「そうです」

「あ~……」


 何か言おうとしたが、止める。別に害がある訳でもないし、悪意があってやったわけでもないし。それに初めて異性に膝枕なんてことやってもらって役徳だし?


「そろそろ宴のお時間ですけど……どうしますか?」

「もうそんな時間?」

「はい。一也様は結構寝ていたので……」

「んじゃ行くか。一応俺が主賓だろうしな」

「畏まりました」


 そう言って立ち上がるアイリさん。俺もそれに続いてレイラの膝の上から離れ立ち上がる。その瞬間、レイラが少し名残惜しそうな顔をしていた気もしたが、見間違いだろうと思い気にしない。


「さて、行きますか」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 飲んで食べてのドンチャン騒ぎが始まってから数時間。

 参加者は俺、レイラ、アイりさん、おっさん、爺さん、リーク爺さん、リーネさん、ハイネさん、キリクさんと王国の主要人物や大臣なんかも参加していた。

 初めは今日のお祝いみたいな感じで楽しかったさ。それが狂いだしてきたのは、少し時間が経った頃だろうか。


「一也くぅ~ん、楽しんでますかぁ~?」

「ハイネさんっ!?」


 いきなり寄りかかられ驚く。そしてそれと同時に気づくことが一つ。


「酒臭ッ! どんだけ飲んだんだよ!」

「お酒なんて飲んでないよぉ~」

「酒飲んで酔っ払ってる奴は皆そう言うんだよ!」


 明らかに大量のアルコールを摂取したであろうハイネさんが絡んでくる。

 周りの助けを求めてみると―――


「―――全員眼をそらすなよッ!」

「ほらほら、一也君も飲んでぇ~」

「てか飲んでるじゃねぇか!」


 無理やり手に持っていた杯に酒をなみなみと注がれる。俺自身、元居た世界で爺さん達によく飲まされていたから平気だが、下戸という程でもない。


「無理やり飲ませるなよ……」


 注がれたものはしょうがないので、俺は一気に飲み干す。周りからはおぉー、との歓声。

んな歓声はいらないんだが。


「いい飲みっぷりですねぇ~」

「誰かこの馬鹿を引きとってくれー」


 絡まれるのは面倒なので、ハイネさんの上司であるリーネさんに引き取ってもらう。その時に嫌そうな顔をされたがご愁傷様と言うことで。


「タクッ……」

「一也さぁ~ん」

「ぶっ!」


 眼の前から歩いてくるのは完全に出来あがったレイラ。手には酒であろう瓶が握られており、それをラッパ飲みしながら歩いてきた。


「誰だよ、レイラに酒を飲ませた奴は!?」

「楽しんでますかぁー?」


 俺に抱きつきながら話しかけてくる。その時に柔らかい何かが当たるが、無視!

 周りを再度見回すが、今度は気付かない振りで誤魔化している。


「テメェら! 後で覚えておけよッ!」

「一也様」


 困った時のアイリさん!

 なんて良いタイミングで来てくれるんだ。この人は女神か!


「一也様」

「ん?」


 何か様子がおかしくね?


「私のお酒が飲めないんですか?」

「この人も酔ってるよッ!?」


 予想外だよ! てか逆効果じゃねぇか!

 もうまともな人はいないの!?


「酔ってません」

「酔ってる人ほどそう言うんですよ、アイリさん」

「酔ってません」

「一也さぁーん」


なんというカオス。

俺一人じゃどうすることも出来ない。


「ほら、飲んでください」

「いや、ね? 俺さっきたくさん飲んだから」

「私のお酒が飲めないとでも? わかりました。なら口移しで飲ましてあげましょう」

「ぶっ!」

「あぁー! それなら私がやりますぅー!」

「落ち着けよ!」


 収拾がつかなくなってきた。てかこの壊れ方は異常だろ。ここまで悪酔いする人初めて見たぞ。


「一也さぁん……」

「一也様……」

「二人とも……?」


 二人して抱きついていたのが、急に静かになったな。


「ぅぅん……」

「すぅ……すぅ……」

「寝ちゃったか」


 今日は精神的に来るものが多かったし、それに俺の戦いも気疲れの原因になったのかな。

戦い前もおもいっきり心配されてたし。


「ありがとな。二人とも」

「えへへ……」

「ふふっ……」


 俺は少しだけ二人の寝顔を独占して、二人を寝室まで運んだ。

 その後はおっさん達と一緒に朝まで騒いでいた。キリクさんとリーネさんがウワバミだったのには心底驚いた。

次で一章の王国編は終了です。やっと学園編に突入出来ますよ。長かった……。

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