17.死闘・中篇
久しぶりの休日に時間が取れたので書いてみた。
後数話で学園編に入れそう。このまま勢いで書いてしまいたいが、もう少しすると試験。なのでやっぱり学園編は7月に入ってからになりそう……
刀の性質は切り裂くこと。
刃筋の立て方を考え、速さを以て相手を切り裂く。それに対し、大剣は押し切るもの。その重量により、無理やり相手を押しつぶす。
「はぁッ!」
「フッ!」
俺とリーク爺さんの武器がぶつかり合う。
身の丈ほどの大剣に刀で対抗するのは流石に難しい。いくら俺が身体を強化しているからと言って、その重量から放たれる斬撃の重さは半端じゃない。
「クククッ、久しぶりの高揚感じゃ! これほどのものはこの十数年感じたことないッ!」
大剣と刀が交差し、鍔競り合う。リーク爺さんは魔力により身体能力をこれほどまでというくらい強化している。振るわれる筋肉は膨張と収縮を繰り返し、とてつもない運動力を発揮する。
「俺もリーク爺さんみたいなタイプと闘うのは久しぶりだッ!」
「そうかそうかッ! なら大いに楽しもうッ!」
鍔競り合いが一度離され距離が離れる。
リーク爺さんは大剣を上段に構え、俺は―――
「妙技をお見せしよう―――天凱流歩法 陽炎」
「ぬっ!?」
俺は独特の歩き方でリーク爺さんを惑わす。
惑わすと言っても、周りからしたら普通にリーク爺さんの周りを歩いているようにしか見えないだろう。しかし、リーク爺さんは違う。
人間の脳と言うのは視覚による情報を得るのが3%ほど、残り97%は脳によるイメージの想像による補佐。これで脳は周りの景色を見る。故にそれを少し弄り、幻惑を見せるのは鍛錬をすれば簡単に出来てしまう。今リーク爺さんは俺の姿が7~8人くらいに見えているだろう。
「「「「「「「では、行くぞ?」」」」」」」
「愉しませてくるのぉッ!」
前後左右から俺の幻影がリーク爺さんを襲う。
俺は未だに周りを歩いて幻惑しているが、リーク爺さんはそれを撃退している。周りから見たら本当におかしく見えるだろう。
「どうしたどうしたッ!? これで終いかッ!?」
「爺さんも十分化け物の一員だな……」
幻惑されていようとお構いなし。襲いかかる俺の幻影は斬られ、潰され、殺される。たまに俺本体も攻撃を加えるが、それすらも防がれる。
「流石はこの世界最強クラス……」
「一也もやはり強いのぉッ! 間違いなく儂が戦った三帝より強いッ!」
「そりゃどうもッ!」
剣戟による舞いは剣戟による嵐に返される。
前方から迫る死の圧力が俺へと襲いかかる。それでも俺は前に進む。反らし、避け、反撃する。
「これならどうじゃッ!?」
「はぁッ!?」
リーク爺さんの大剣に魔力が収縮する。
収縮した魔力は白く輝き、身の丈ほどあった大剣は今では光も加わり5メートルくらいの巨大な斬艦刀のようになっていた。
「防いでみろッ!?」
「チッ!」
繰り出される斬撃。それは最早斬という範疇には収まりきれない。
ルール状俺は魔法による防御は不能。それにより俺はこの暴力に身体と刀一本で立ち向かわなければならないということだ。
さて、どうするか。後数秒以内に考え、実行しなくては俺の敗北。
俺に出来ることなど高が知れている。ならその中から迎撃出来るものを選べばいい。
何だ、簡単じゃないか―――
「天凱流攻式四之型――射塵」
弓を射るかのように身体を極限まで引き抜く。
そして―――
「ハァアアアアアッ!」
「シッ!」
迫りくる大剣の刃筋に極限にまで高められた速度の刀が突き刺さる。普通の武人なら狙わない、いや狙えないような刃に刀の先を俺は突き刺した。
流石にそれにはリーク爺さんも驚いたようだ。
「これはやりすぎじゃないかのぅ?」
「これ以外に一点突破であんたの技を打ち破るものがなかったからな」
お互い少しの小休憩。息を整え身体の熱を逃がす。気を少し整え身体に行き渡らせる。
「儂の最強の技と自負していたものがこうもアッサリと防がれると……何か悔しいのぉ」
「アッサリって……これでも苦労してんだよ」
「そのような格好で言われても簡単には信じれんよ」
そう言って大剣を担ぎ直す。俺も影桜をまた構える。青眼の構えよりやや重心を前に倒し、息を止める。段々と高揚する身体を押さえつけ、今か今かと待ちわびる心を自制させる。
風が吹く。それと同時にまた俺とリーク爺さんは動き出す。
疾風と怒涛。それが交わる。辺りには金属が衝突する轟音。気と魔力の波動が辺りに巻き散る。粒子となり地面の砂を吹き飛ばす。
俺が高速の斬撃を放てば、それを高速の圧撃でリーク爺さんは対応する。
速さには力で。力には速さで互いに斬り合う。
「ハハハッ! 愉しい、愉しいのぉッ!」
「俺としてはそろそろ沈んでほしいんだがッ? まだあんたの後ろに控えてるご老人の相手もしなくちゃならないからなッ!」
薙ぎ払い、身体を反転させての斬り上げ。一撃一撃が必殺でありながら、全てが次の行動への布石。流麗にして激烈。剣舞にして剣武。それが互いを食い散らしていく。
「そう言うなッ! 主にはもっと付き合って貰わんとなッ! こんな愉しい闘いを終わらすのはもったいないッ!」
「俺はそろそろ疲れてきたんだがッ!?」
大剣が唸りを上げ、足元からせり上がる。俺はそれを刀で滑らせ反らし、身体を回転させ、その遠心力を以て薙ぎ払う。それすらもリーク爺さんは読んでいたようで、反らされた後すぐに大剣を横に立て、俺の斬撃を防ぐ。金属の衝突音はするが、その身体はまったくといってもいいほど揺るがない。
俺は奇策として盾のように扱っていた大剣に手を添える。リーク爺さんは疑問顔をし、そして呻き声を上げる。
「天凱流無手 徹華」
「グッ……!」
俺は一度離れて様子を見る。
徹華は零距離の状態から手を添え、相手の内部にダメージを与える技だ。もちろん手に持っている状態の物に放てば、振動などが相手の身体を蝕む。現状リーク爺さんの腕は使いものにならない筈なのだが……
「ダメージは入ったけど戦闘は続行か……」
「これは流石に堪えるぞ、一也よ……」
腕を振りながら俺に話しかける。
正直なんであれ食らって普通なんだ? 下手すれば骨は砕けてもおかしくないんだけどな。
最強クラスは伊達じゃないないってか?
「ほら、リーク爺さんも良い年なんだからあまり激しい運動は厳禁だろ?」
「クククッ、まだまだ若いもんには負けんよ。さぁ、続きと行こうかのぉ?」
「はぁ……」
どうやらダメージも思った程食らわなかったらしい。本当にどういう身体してるんだ?
「ほれほれッ! もっと儂を愉しませてみろッ!」
「糞がッ!」
ここにきて斬撃の速度が上がる。それに伴って圧力も相乗効果で上がっている。
俺も気を最大限に使い、身体を強化する。
飛び散る火花が辺りを照らす。砂煙が二人を隠し、そして吹き飛ぶ。繰り出されるのは斬撃。発せられるのは闘気。しかし二人が浮かべるのは―――笑み。
闘いというものを純粋に楽しむ、子供のような表情。永らく封じ込めていた闘争心が外に出る大人と、誰かの為に己の剣を振ろうと決めた少年。
「ハァアアアアアアアッ!」
「ァアアアアアアアッ!」
交差し、交錯し、交わり合う。鍔迫り合い、互いの力を出し合う。大剣は轟風を作りだし、刀は疾風を作りだす。
暴力による演舞と流麗な演舞。
それが交わり合い、二人を見つめる観客は息を飲み見守る。
少年の無事を見守る二人の女性もまた、二人の武人が作り上げる斬り結ぶ演舞に目を奪われる。しかしその手は強く握りしめられる。少年が無事でいて欲しい。その願いだけを胸に秘めて。
「ほら、遅くなって来たんじゃねぇか爺さんッ!?」
俺は速度を上げる。高速から光速へ。一段階ギアを上げる。
頭の中は火花が散っている。それすらも無視し、ただ前だけを見据えた。
これで決める―――ッ!
今は何故か調子がいい。理由なんぞはわからない。この闘いの雰囲気に当てられてアドレナリンが多量分泌しているのか。それでもそれが心地よいとは思う。思ってしまう。
けど、俺はそれに終止符を打つ。
俺の無事を祈ってくれている、大切な二人がいる。だからリーク爺さんには悪いが、もう闘いを楽しんでられない。
「天凱流攻式弐之型 烈火―――ッ!」
「ぬッ!? ぬ、ヌォォオオオオオオオッ!?」
俺の斬撃が嵐となり、リーク爺さんを襲う。
上下左右全ての方向から斬撃が襲いかかる。その剣速は最早神速の域に達していた。しだいに捌くことが出来なくっていく。
「アァァァアアアアアアアアアッ!」
「オォォォオオオオオオオオオッ!」
絶叫が木霊する。天を突き刺すような咆哮。
刀と大剣はぶつかり合い―――
ガシャン――――……
「勝者、御薙一也――――ッ!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「流石じゃの……」
大剣を手から落としたリーク爺さんが、大剣を拾い上げ俺の下に歩いてくる。
俺も影桜を納刀し、近づく。
「そっちこそ。正直思っていた以上に強かったよ」
「カッカッカ……。儂より歳も取ってない若造が言いよるッ!」
俺の頭をワシワシと豪快に撫でてくる。俺も苦笑しながらもそれを受け入れた。
「さて……」
撫で終わったのか、頭から手を離す。
そして口を開く。
「負けた儂は素直に観客席に戻ることにする。じゃが次も気を抜くんじゃないぞ? 何て言っても―――」
最後の言葉が俺の耳によく残り、リーク爺さんは舞台から去っていく。
そして入れ替わりで現れる。くすんだ金色の髪を編み込んだ、最後の相手。その身を藍色のローブで身に纏い、眼には愛嬌ある笑みを浮かべている。
「ようやく儂の番じゃ。準備は出来とるか?」
「大分とさっきの闘いで疲れたけど……ま、問題はないさ」
「そうかそうか。なら結構」
そして爺さんと俺の眼の前に一つの大きな水晶玉が運ばれてくる。
俺でも一抱えするのが困難なくらいの水晶玉で、それは台座に固定されていた。
「これは?」
「儂達のバトルフィールドじゃ」
「はぁ?」
「まぁ説明するから良く聞いておくんじゃぞ? これは魔法球と言って、この中入る事が出来る。この中では死ぬほどの傷を受けると強制的に外に戻すという機能がついておって、こうやって決闘などに用いられるんじゃ」
「待て待て。なら何で前から使わなかったんだ? それを使ってたら怪我の心配なんかなかったんじゃ?」
俺が最もな質問を上げる。
「それはのぅ、この魔法球は物理的なダメージには意味がないんじゃ。したがってこの中で戦っても、その内容が物理的なダメージなら効かないんじゃ。魔法ダメージのみに効果がある。だから先二つの戦いでは使わなかった、ということじゃな」
「へぇ……」
ならこの中での魔法戦闘は本気の本気。まさしく殺し合いだろうと出来ると。
俺が眼で尋ねると爺さんも頷いて返す。
「ちなみに魔法で創り上げた剣などでダメージを与えると、それはダメージが入るからの」
「なんていうか境界線が曖昧だな……」
「そう言うな。これでも画期的な発明じゃったんじゃからな」
「ん? もしかしてこれ創ったのって爺さん?」
「うむ」
なんと。この魔法球を創り上げるって並大抵のことじゃねぇの?
流石は最強の一角だな。
「さて……二人共、そろそろいいか?」
とうとうおっさんから声が掛かった。
俺も爺さんもおっさんに頷いて返す。
「わかった。なら二人とも魔法球の前へ」
おっさんの言葉と共に、俺達は魔法球の前に立つ。
これが最後の戦い。俺の最後の踏ん張りどころ。
「決別試合最終試合―――開始ッ!」
その言葉とともに、俺と爺さんは魔法球の中に取り込まれる。
不意に、先ほどリーク爺さんと交わした言葉が頭の中で半濁した。
『―――儂の知る限り、間違いなく世界最強と言われてもおかしくない存在じゃ。クレウィスはの。確かに魔力の量は他に劣るが、魔法技術なんかはトップじゃ。だから気を抜くな? 最初から全力で当たらんとすぐに勝敗を決することになるぞ?』
誰もこんな短い期間に投稿するとはおもわなかっただろう!
……いや、ほんとスイマセン。生言いましたorz
出来れば書きたいけど、ホントまた試験があるとか軽く鬱になる。
てか俺は受験生なのにこんななので本当に大丈夫なんだろうか?
滅茶苦茶心配になる、今日この頃。