15.誓い
今回は大分と時間が過ぎて、国のトップとの決闘の話になります。
正直、この話に至る話なんかは閑話で十分かな?と思い、一気に飛ばしてしまいました。
まぁ話的には何も問題ない筈なので、ごゆるりと読んでください。
「明日か……」
俺がこの世界に来てもう大分と経つ。
レイラとアイリさんの服を買いに行ってからもう十日。
明日は爺さん達との決闘の日。
「負けることはない……と思うが」
実際負けることはないだろう。
この世界に来てから身体能力も上昇し、魔法の扱いも反則。
この要因だけでも他の人達に負けることなどまずありえない。
「でも納得させれるかな?」
本当にやらなくてはいけないことは、勝つ事ではなく“救帝者廃止”を納得させること。
まぁ勝つことも大事だが。
「頑張らなきゃな……」
そして目を閉じる。
そこに浮かびあがってくるのは、朝食中でのレイラとのやり取り、鍛錬の傍で控えて俺を見ていてくれるアイリさん。
“救帝者廃止”の為に奔放するおっさんや、庭園でお茶するハイネさんとリーネさん。
部下の指導をするリーク爺さんやキリクさん。
俺はそんな人達の為に……
自分を信頼してくれる人達の為に……
「絶対に……やり遂げて見せる」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
早朝。
日が出て間もない時間。
そんな時間に俺は城の錬武場で立っていた。
「…………」
精神統一。
武術を扱う者なら絶対に通る修行法の一つである。
普通なら心を無にして何も考えないのだが、今日は違っていた。
錬武場の真ん中に立ち、ただただ集中する。
想像するのは今日のこと。
爺さん達と如何にして戦うか。
町の人達に如何にして納得させるか。
出来るのか? ではない。
出来なくてはいけないのだ。
「一也様」
「……アイリさんか」
俺は目を開け、目の前の人物を見る。
今日も今日とてメイド服に身を包み、俺の傍に控えてくれる人。
「そろそろ朝食の御時間です。それに今日は昼からが本番です。今から力んでいては疲れますよ?」
「これくらいなら問題ないんだけど、まぁ朝食だし切り上げるか」
俺は最後に伸びをして体をほぐす。
ボキボキ、と景気のいい音が鳴って気持ちが良い。
「んじゃ行くか」
「畏まりました」
「おはよう」
「あ、おはようございます」
「おう」
食堂に辿り着くと、レイラとおっさんはもう席に着いていた。
俺も席に座り、アイリさんは俺の傍に付く。
「爺さんは?」
「クレウィスか? あいつなら今日は外で食べるだとよ。他の連中も。今日の対戦者には一分の隙も見せないだってよ」
「ふぅん」
そこまで気にしなくても……
「それにしても大丈夫なんですか?」
「ん?」
「今日の決闘のことです」
レイラは心配そうな表情で俺を見てくる。
アイリさんも心なしか表情が硬い。
「まぁやってみないとわからんな。三人とも俺から見ても最強の部類だし」
「それでも負けるつもりはないんだろ?」
「当り前だろ?」
不敵に笑う俺に、他のレイラ達もほっとしたようだ。
「時刻は真昼を過ぎた時間、場所は錬武場。わかってるよな?」
「ああ。そういやレイラとアイリさんはどうするんだ?」
「私はお父様と同じ場所にいることになると思います」
「私はいつも貴方様の御傍に」
「そっか」
いつも通りの対応に安心する。
そう。俺もいつも通りにやれば大丈夫。
常に平常心を心がける。
世界のことなんて考えるから戸惑うんだ。
今は自分が出来ることだけを考えろ。
「それじゃ昼まで時間を潰すか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
時刻は過ぎ去り、現在は昼を少し過ぎた頃。
城は一般開放が行われ、錬武場には人が溢れている。
それもその筈、少し前の日にこんな御触れが町の至るところで発令された。
『来度の救帝者が現れた。そのお披露目と重大な発表がある。町の住人は必ず王城まで駆けつけるように』
まぁもっと長ったらしく書いてあったけど、めんどいので少し省略。
こんなことがあったってことだけ理解してくれればいい。
「それにしても凄いな……」
眼下に広がる人、人、人。
ここがこの国の都とわかってはいたが、これほどの人数がいるとは思っていなかった。
十万は下らないだろう。
下手すると、二十万――いや、三十万くらいいるかも知れない。
「準備はどうだ?」
「流石にこの人数は緊張するな……」
今は他の民衆からは見えない位置でおっさんと会話。
これからどのような感じで進行するのかとかを聞いている。
その横にレイラが居て、未だに不安そうに俺の服を掴んでいる。
「まず俺が最初に演説する。その後にお前に入ってもらって―――」
「―――俺が“救帝者廃止”を伝えるのか」
「ああ。それが終わったら三人との一対一の決闘だ」
「一也さん……」
「レイラ……」
俺はそっとレイラの頭に手を乗せる。
「あ……」
「心配するな。俺は絶対やり遂げて見せるし、絶対に死なないさ」
「でも……」
それでも心配なのか、目じりには涙が溜まり今にも泣きだしそうだ。
俺の服を握る力には一層力が込められる。
「これが終わったら一緒に学園に行くんだろ? レイラはそんな楽しいことを考えておけ。そうしたら何時の間にか終わってるさ」
「……はい」
「一也様」
何とか宥められたのか、レイラは俺の服から手を離す。
それと同時にアイリさんがやってくる。
手に持つのは俺が今から着る服。
「こんな感じでよろしいでしょうか」
「俺はどんなものでも……てか今の服装でもいいんだけど」
別に今の服装でもおかしくはないのだが、おっさんが却下する。
何でもこれでは威厳がないだとか。
まず俺には威厳なんかねぇよ。
「んじゃ着替えてくるか」
「行って来い。俺もそろそろ演説の準備に入る。後は……頼むぞ」
「任せとけ」
そう言っておっさんは出ていく。
んじゃ俺も着替えていきますか。
「よく集まってくれた! まずはこの俺、ラングル・ベルカッタ・アルティウスが少し話をする!」
おっさんの演説が始まった。
民衆達はおっさんの口調がいつもと違うことに戸惑いを見せている。
まぁこれだけ変われば仕方ないか……
「まず一つだけ伝えたい―――今回で“救帝者”を呼ぶのは止めにする」
「「「「「なっ!?」」」」」
集まっていた民衆は絶句している。
俺も同じような顔をしているだろう。
それは俺が伝えるべきものじゃなかったのか?
それはお前が背負うものじゃなかっただろ?
そんな顔をおっさんは見ていたのだろうか。
一度だけ俺の方を向いて笑って見せた。
そしてまた演説を続けて行く。
「俺達は今まで一体何をしていたんだ? 世界の統治? そんなもの何時やった? 俺達はただ一人の人間の人生を壊してのうのうと生きてきただけだ」
俺がおっさんに伝えたことが、次はおっさんが民衆に伝える。
人任せの統治。
そして自分達は何もしない。いや、しようともしていなかった。
「本当にそれでいいのか? なぁ、お前達。俺は言われたよ。他の世界の人間に治められている世界なんてその世界の人達の世界じゃないってな。それは他の世界の人間のものだってな」
世界と統治する―――言わば、その世界を手に入れるということ。
良くある話だろ?
魔王が世界を手に入れようと征服しようとする。
征服に成功すればその世界は魔王のものだ。
俺の時も同じようなものだ。
世界を統治している者がその世界の支配者。
他の、元からいる人間なんて関係ない。
「お前らはどうだ? それを言い返せるヤツはいるか? いないだろ。なんたってそれが真理だ。俺達は何もしていなかった。それを覆せる人間なんて居る筈もない」
おっさんの演説は続く。
初めは騒がしかった民衆も、今では静かになり、おっさんの演説に耳を傾けている。
「お前達は悔しくないか? ここまで言われて、何も言い返せないのか?」
「「「「「…………」」」」」
「俺は悔しかった。何が王だ。俺は何も解ってなかった。俺は何も理解してなかった」
俺はそんなおっさんを見続ける。
今が踏ん張りどころ。
これを乗り越えなくては、俺達が目指す場所には到達出来ない。
「だから俺は誓った。俺の目指した場所に、もう一度辿り着くことを許してくれた異世界の友に」
「おっさん……」
「だからお前達も協力してくれないか? 俺が本当に目指したかった場所に、もう一度チャンスをくれないか?」
真摯な言葉。
これ以上に人の心を動かすものはないだろう。
ただ願い続けた、その言葉。
だからこそそんな言葉は―――――――届く。
「「「「「ワァァァァァアアアアアアアア!!」」」」」
耳が張り裂けるかと思う程の絶叫。
集まった民衆全員が心を通わせ叫んだ。
「任せてください!」
「俺達も手伝いますよ!」
「私も!」
「今度は頑張ってください!」
「そこまで発破を掛けられて動かないヤツなんていないでしょう!」
次々と声が上がる。
これもおっさんが民衆に好かれている証拠。
「お前達……」
おっさんは予想外と言った感じで驚いている。
でも俺は予想してたけどな。
だってあんなに家臣に好かれてるんだぞ?
そりゃ民衆にだって好かれる筈だ。
ま、知らないのはその本人だけみたいだけどな。
「……ありがとう。なら、俺の役目もここで終わりだ。次に来度の“救帝者”を呼ぼう」
とうとう俺の番か。
まぁ言いたいことはほとんどおっさんが伝えてくれたから言う事もあまりないんだけどな。
「一也 御薙。それが来度の“救帝者”の少年の名だ」
名前も呼ばれたことだし行きますか。
この世界初めての大勝負にして大舞台。
失敗は許されない。
「一也様……」
「行ってくる」
「はい……。私はどんな時でも貴方の御傍に。忘れないでください。一也様は一人ではありません。私が、レイラ様が、ラングル王や色々な人達が居ます。貴方は決して一人ではないということを」
アイリさんが俺の眼の前に立ち、真っ直ぐ告げてくる。
あぁ、わかってるよ。
俺はこの世界でもう一人じゃない。
頼れる人も、疲れた時に寄りかかれる人も、一緒に笑いあえる人も出来たんだ。
俺はそれを守りたい。
それだけは忘れない。
「……大丈夫そうですね。では頑張って来てください」
「あぁ」
そして俺はドアを開けた。
空は雲一つない快晴で、まるで俺を祝福してくれているようだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
遠くで見るより圧倒される。
全ての民衆の眼が俺を見ている錯覚に陥る。
いや、錯覚じゃなくて、実際に俺を見ているんだろう。
「一也……」
「心配すんな。やり遂げてやるよ」
おっさんの心配そうな声を聞くが、俺はもう迷わない。
友と呼んでくれた、年の離れた友の為に。
「…………」
「「「「「…………」」」」」
誰もが俺の言葉を待っている。
深呼吸を一回。
そして俺は口を開く。
「……俺が今回呼びだされた“救帝者”の一也 御薙だ」
「「「「「…………」」」」」
錬武場は静寂。
俺の声以外の音がどこかに置き忘れてきたかのよう。
「本当は俺が伝えることがあったんだが―――」
そう言って俺はおっさんを見る。
おっさんは笑っていた。
してやったり、といった感じで。
「―――そこにいる友にほとんど言われてしまった。だから俺から伝えることなんて少ししかない」
今度は俺がおっさんの方を見て笑いかける。
おっさんは苦笑。
そんなやり取りを交わし、もう一度民衆に向かいあう。
「別に俺を信じなくてもいい。けど皆が信頼しているおっさんを信じてあげて欲しい。そうすればきっと目指していた場所に辿り着けるだろうから……」
これが俺の気持ち。
別に俺は信じられなくていい。
というよりも、俺みたいなポッと出の若造を信用なんて出来ないだろう。
だから俺を信じてくれるおっさんを信じて欲しい。
「おい! 水臭いぞ!」
「そうよ! 私達にもう一度チャンスをくれる人を信用しない筈ないでしょ!」
「そうだそうだ!」
「お前ら……」
どうやら俺が発破を掛ける必要もなさそうだ。
ちゃんと生きていたようだ。心というものが。
「俺達が心配していたことは杞憂だったようだな……」
「そうだな」
「クレウィス達との決闘はどうする? この様子だと別にしなくてもよさそうだぞ?」
おっさんがそう聞いてくる。
でもこれだけはやり遂げなくてはいけないような気がする。
「いや、予定通り実行する」
「だが……」
「おっさんやあいつらがここまで気概を見せてくれたんだ。なら俺もそれと同じくらいの気概を見せないといけないだろ?」
「……わかった」
俺の言葉に納得したのか、おっさんが最後に頷いた。
そして民衆に向き直る。
俺は一歩引いて、おっさんの右後ろに並ぶ。
「お前達にまず一言。……ありがとう。この言葉を贈らせて欲しい。こんな馬鹿な王に付いてきてくれて本当に礼を言う」
この言葉にまた民衆は沸く。
しかしそれをおっさんが制する。
「静まれッ! ……本当ならこれで終わりでも良かったんだ。この後に一也には我が娘、レイラ・クライトリヒ・アルティウスと一緒にルイスフェーレンバルグ学園に入学してもらって、そこでも“救帝者”廃止を伝えてくれるだけでいいんだが……それだとお前達に申し訳ないらしい」
俺の言葉をおっさんが伝えてくれる。
「だから一也がどこまで本気なのかを示す為に、クレウィス・アスカルド・ペリオン魔導隊長、リーク・セルバネス・ライデン騎士団長、リーネ・ボルネア・ルイス魔導騎士団長と決闘をする!」
さぁ、次の大舞台の道は切り開かれた。
ここからは力を示すだけ。
最初の関門。そして最大の難関になるだろう。
戦う相手はどれも最強と呼ばれる存在。
故に相手にとって不足はない。
俺が本気でぶつかる。ただそれだけだ。
さて、そろそろまた学校生活が始まるもうすぐ一カ月となりました。
今年で高校生活も終わり。
最後の年なので気合を入れて取り組んでいかないといけません。
度々言って申し訳ありませんが、今年は受験の年なので更新速度が著しく鈍る可能性があります。
てか鈍ります。
テスト期間などは完璧に更新出来ません。
本当にすいません。
作者は今年はゆるりと更新していくので、読者様のゆるりと御鑑賞していってください。
過度の期待は厳禁ですよ?
PS.アクセス数500,000とユニーク数70,000を超えていました。
こんな駄文をたくさんの人に読んで頂いて、本当に嬉しく思います。
これからも亀更新になりますが、完結を目指して頑張りますので、応援よろしくお願いします。