14.絆
さて、最近また寒くなったと感じている作者です。
少し前など明らかに冬の温度に感じ、部屋で丸まって過ごしていました。
皆さんはどのようにお過ごしでしょうか。
今日で4月に入り、忙しいんではないでしょうか。
作者も今年は受験勉強などで時間が取られ、また更新が停滞気味になることが予想されます。
それでも頑張って完結を目指して頑張っていきたいと思います。
「選び終わったか?」
俺は露天商からアクセサリー一式を包んでもらい終わった後、再度服屋に戻った。結構な時間も経ったので、そろそろ選び終わった筈だ。
「あ、一也さん」
「お、レイラ」
まず先に声を掛けてきたのはレイラだった。
手にはいくつかの服やズボンを持っている。
「こんな感じでどうですか?」
手に持っていた服を俺に手渡す。
どうやら紅を基調とした上下となっている。
「へぇ、やっぱりセンスがいいな」
「えへへ」
予想通り、レイラの服のセンスはあった。
俺なら適当に黒系統の服を選ぶし。
紅って一見派手に見えるが、レイラが選んだのはそこまで派手じゃなく、それでいて目立つ、所謂若い人に人気の服だった。
「とりあえずこれは確保っと」
「着てみないですか?」
「ん? ま、大丈夫だろ。後で大きさだけ見るだけで問題なし。レイラのセンスを信用してるし」
「そ、そうですか」
少し顔を赤くして俯く。
俺はそんなレイラには気付かないでアイリさんを探していた。
「一也様」
「うぉっ!?」
前方ばっかりに集中していたので後ろからいきなり声を掛けられ吃驚する。
どうやら俺達の後ろに居たようだ。そりゃ見つかる訳ないか。
「決まった?」
「はい。こちらに」
そう言ってアイリさんが手渡すのは俺が考えていたのと同様、黒を基調とした服とズボン。だがこちらもセンスが良く、地味ではなく、カッコイイ系な感じになっている。
私服持ってないのにこのセンスとは……
内心で驚きつつ、声には出さない。もし声に出したらまた怒りだすだろうし。
「やっぱ二人に任せて正解だったみたいだな。二人ともセンスいいな」
「そうですか?」
「ああ。俺が選ぶより万倍良いよ」
そう言い残して、一応大きさのチェック。鏡で自分の体に服を当てて見る。大きさも完璧で、誤差数cmという感じだった。
「んじゃお金払ってくるな」
「「はい」」
そう言いつつも、二人は俺に付いてくる。
別に待っていてくれたらいいんだけどな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
外はそろそろ夕暮れ時。
辺りからは昼頃に見せていた趣きではなく、酒などを飲みながら今日一日の成果を讃えあうような、夜の活気を見せ始めている。
そんな中、俺達三人は街中を歩いていく。
誰も喋らない。嫌というわけでない。ただただこの時間が心地よいだけ。
ただそれだけ。
「…………」
俺の手には三つの袋。
二人が俺の為に選んでくれた服が二点と、俺が二人の為に選んだ服が一点。それに目を向け考える。
何時渡せばいいんだ……?
生憎と俺は女の子にプレゼントなど上げたことなど、生まれて此の方一度もない。
それなのにこれを渡せとは……
絶対に朝にやった色王討伐のクエストより遥かに難しいクエストだ。
「はぁ……」
「? どうかしましたか?」
「いや……」
どうやら何時の間にかに溜息をついていたらしい。
左に居たアイリさんに拾われた。
ふむ……
ちょうど目の前にベンチが置かれている。
今のうちに渡しておくか。
思い立ったが吉日。すぐさま行動に移す。
「ちょっと二人とも止まってくれるか」
「はい?」
「どうかしまたしか?」
二人は俺の方に振り向く。
俺はベンチのところに行き、荷物を下ろし二人を手招く。二人は素直に俺の下まで来てくれる。
さて……
どうやって渡す? 普通に渡すのか? それとも何か声を掛ける?
そんな事を考えていたが、別になんでもいいや。
「これを二人に」
もう普通に渡そう!
プレゼントにそんなことを考える方が野暮だ!(多分)
そう思ったので、俺は袋から二つの服を二人に手渡す。
純白をアイリさんに。
紺碧をレイラに。
「これは………?」
「私達にですか……?」
二人とも茫然とした顔。
そこまで驚かなくても。苦笑しつつも俺は話す。
「そう、二人にプレゼントだ。二人に似合うと思って買った服だから大切に使ってほしい。それにアイリさんの初めての私服だ。これからはそういうのにも気を使ったほうがいいと思うぞ? 折角綺麗なんだからな」
「わぁ……」
「綺麗……」
二人は手渡した服を見て感嘆とした息を漏らす。
「俺は服のセンスとかないから似合うかわからんけどな」
一応似合わなかったら申し訳ないので一言言っておく。
でもそんなことを言わないでも問題なさそうだ。
二人は渡された服を自分の体に当てて見合っている。ここから見ている分、問題なく二人に似合っている。
「気に入ってくれた?」
「はい!」
「……ありがとうございます」
レイラは嬉しそうに、アイリさんは恥ずかしそうに礼を述べてくれる。
どちらも心底から嬉しいようで、そんなに喜んでくれると俺まで嬉しくなってくる。
「フフフッ……」
何かアイリさんがトリップしてるように見える。
まぁ初めての私服は嬉しいかも知れないけど、あそこまで喜ばれるとは予想外だった。
「えへへ……」
レイラも似たような感じで、顔をだらしなくして微笑んでいる。
正直ちょっと怖い。
服を抱きしめて嬉しいのを表現してくれているようで、まぁいいんだけど。
「お~い」
「「……ハッ////」」
一声掛けると元の状態に戻る。
そう嬉しそうにしてくれると嬉しいからいいけどさ。ここは外だからさ。一応人がいないけど、やっぱり恥ずかしいじゃん。
「本当にありがとうございます……」
「そんなに言わなくたっていいって。もともとこの為に買い物に来たんだし」
「え?」
あ……
「え~と……」
「どういうことですか?」
ズイっ、と身を寄せてくる。
レイラはそんな光景を見て何か納得していた。
「『ギルドで稼いだお金の最初の使い道』ってこの事だったんですね」
「聞こえてたの?」
「ええ」
ありゃ~……
しょうがない、種明かしといきますか。
「ま、そう言う事。ギルドでお金稼いだのもアイリさんに服を買う――ま、もともとアイリさんの給金確保の為に稼ごうと思ってたんだが、おっさんが『給金は渡すから贈り物の一つでも送ってやれ』って言うからこうなったわけだ」
「なるほど……」
何か締まらない展開になっちゃったな。
「でも!」
どうしたんだろうかと思っている二人の顔が見える。
確かにおっさんに言われたからプレゼントを贈ったかも知れない。
それでも―――
「―――俺は二人にプレゼントして良かったと思ってる。二人のあんなに嬉しそうな顔を見れて俺も嬉しかったし」
これが俺の本心。
たった服を贈るだけ。ただそれだけであんな笑顔を見せてくれる。そんな光景を見て、俺は本当に嬉しかった。
「あぅ……////」
「……////」
あれ?
二人とも顔が真っ赤になって動かなくなったんですけど。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
~side レイラ~
あの笑顔は反則です……
今さっき浮かべた一也さんの笑顔が頭にちらつきます。
あんな笑顔を向けられて正気で保てる筈がありません。それを証拠に、アイリさんは顔を真っ赤にして動かなくってますし、私も鏡がないので確認出来ませんが赤くなっていることでしょう。
一也さんはそんな私達を見て、あれ? とか、どうしたんだ? と首を傾げています。
何で一也さんは気付かないんでしょう。もしかしなくても一也さんは鈍感ですね。
それも超弩級の。
はぁ……
どうしたらこの気持ちに気付いてくれるんでしょうか。正直どんなことをしても一向に気付いて貰えない未来しか思い浮かびません。
いえ!
こんな暗い考えでは駄目です。
どうにかして振り向いてもらわないと!
ライバルにはアイリさんがいますし、ルイス学園に行ったら絶対に増えること間違いなしでしょうから。
少しの間の現実逃避。そんな事を考える程、私は慌てているんでしょうね。
とりあえず落ち着かないと……
~side out~
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「落ち着いたか?」
あれから数分。
二人とも顔を赤くして動かなくなっていた。いくら俺が声を掛けても反応がないので、少し心配だった。
「は、はい……////」
「すみません……////」
「少しどもってるのが気になるが……まぁいいや」
未だに顔の赤みは引いてないが、トリップ状態から戻っただけよしとしよう。
先ほど二人に渡した服も、再度袋に戻した。
「そういや……」
買ったのはいいが、先ほどの服を渡すことに考えが行き過ぎてもう一つを忘れていた。
俺はポケットからそれを取りだす。
「それは?」
「綺麗……」
露天商で買った銀細工。白銀の両翼の間に包まれる蒼の宝玉。
「これが金貨2枚ぽっちって言うんだから驚きだよな」
「「金貨2枚!?」」
そこまで高いものじゃないだろ?
正直、蒼の宝石だけでもそれくらいの値段は付くと思うんだけど。
「んでっと……」
俺はその銀細工を三つに分ける。片翼二枚と蒼の宝玉に。
二人はそんな銀細工に驚く。まぁ気持ちはわからんでもないが。
「はい」
「えっと……」
「あの……」
俺は片翼を二人に手渡そうとする。
そんな様子に二人も戸惑う。
「何で分けるんですか?」
そんな質問をレイラが掛けてくる。
アイリさんも同じような顔をしている。
「その銀細工は三つが繋がっていて完成でしょう? それなのに何でわざわざ分けるんですか?」
「見る人によってはそう思うかも知れないけど――」
「―――俺は三つに分けて共有した姿が本当の姿だと思うんだ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
~side アイリ~
先ほどの空気が一変、今度はしんみりとした空気が私達の間を吹き抜けていきます。
私達を見る一也様。その御顔はどこか寂しそうな雰囲気を持っています。
何か過去にあったのでしょうか……
それを知る術は私には持ち合わせていません。もちろん、隣にいるレイラ様も。
私達は一也様が何かを語ってくれる以外の術は何もありません。
それでも……
過去は人それぞれ。嬉しい事や楽しい事。中には悲しい事や哀しい事。
その中にも思い出したくないものだってあります。
私の中にも……
私の心の奥底、一番深く暗い場所が疼く。ざわざわと、吐きだせと。
一度思い出すといつもこうです。気持ち悪い……何かが蠢くような感じ。
それを堪える。いつものように。何もないように振舞う。
いつかバレるでしょうね……
こんな事もいつかバレるでしょう。幸いレイラ様は気付いていない様です。
ですが……
一也様は……
一也様は人の心の動きに敏感です。そんな人のメイドをしているんですから、バレるのも時間の問題でしょう。
その時になって―――
―――貴方は私の事を嫌わないでくれますか?
~side out~
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
どうしたんだ?
レイラの方はさっきと似たような感じに呆けてるけど、アイリさんが……
何か辛い事を堪えてるような、苦しみに耐えてるようなそんな感じがする。
まぁ見当違いかも知れないけど。
それでも頭の中にちらつく。一瞬だけ浮かべたあの表情。今はもう元に戻ったけど……
一度頭を振る。
何かの見間違いだろう。そう思う事で、今は納得しておく。
「だから二人には一つずつ受け取ってほしい。三人で一つの物が創れるって何かいいだろ? 証みたいな感じで」
「そうですね……」
アイリさんは反応してくれる。
レイラは未だに反応なし。
「ということで……」
何か反応がないんで、ちょっくら勝手にいきます。
俺は片翼の銀細工に鎖を通し、レイラの首に掛ける。その瞬間レイラは「へぅ?」と言葉を漏らした。
「うん、やっぱり似合うな」
「へ? へ!?」
「本当に似合ってますよ」
俺とアイリさんの賛辞。
レイラは未だに驚き、戸惑っている。
「さて、次はアイリさんの番ね」
「えっと、あの……?」
「どうかしたのか?」
「自分で掛けますので渡して貰えますか?」
そう言って手を差し出してくる。
けど、俺はその手を押し戻す。
「こういうのは人に掛けて貰うのが一番だろ」
「で、ですがっ!?」
「はいはい、じっとしててね~」
無理やり手を押し戻す。
そして抵抗がなくなったところにゆっくりとアイリさんの首に掛けていく。
「こっちも綺麗だな~」
「あ、ありがとうございます……////」
「あ! よく似合ってます!」
何時の間にかに復活していたレイラ。
でも本当に良く似合う。やっぱり美女には何でも似合うもんだな。
「さて、んじゃ俺も「お待ちください」ん?」
俺が残っている蒼の宝玉を首に賭けようとした所に待ったの声。
「どうかした?」
「私達だけ掛けられるというのは納得出来ません。ですので」
ズイッ、と手を差し出してくる。
ふむ……
「んじゃ頼もうかな。はい」
「かしこまりました」
俺は銀細工をアイリさんに手渡す。
それをレイラと一緒になって俺の首に掛けてくれた。
「よくお似合いですよ」
「かっこいいです」
「ありがと」
二人の美女に掛けられるのは恥ずかしい。
二人ともプロポーションもいいから軟らかいものが体に当たってたし、匂いもいい匂いだったし。
「ん?」
何か光った?
俺が見たものは見間違いではなく、完全に俺達三人が今しがた首に掛けた銀細工から光が零れている。その光はどんどん大きくなり辺り一面を照らし出す。それは幻想的であり、優しい光が包み込む。
「へぇ……」
「これは……」
「うわぁ……」
二人は幻想的な空間に酔いしれている。
どうやらこの銀細工を造った人は相当の腕前の持ち主のようだ。しかもこの銀細工は魔法加工しているようで、先ほどから銀細工から魔力が仄かに漂っている。漂っている魔力は微かだが、銀細工に込められている魔力は中々大きく、お守り以上の役目を請け負ってくれそうだ。
「どうやらこの形が本来の姿のようだな」
俺は首に掛けている銀細工に目をやり、二人の銀細工にも目を向ける。
これを造った人はこういう使い方をしてほしかったんだろうな。
一人で使うんじゃなくて誰かと分かち合う。そんな風に着けてほしかったんだろう。
それを証拠に、俺達三人が別々に銀細工を着けるとそれを確認するかのように発光したし。
「ま、綺麗だし体にも問題ないみたいだし気にしなくて大丈夫だろ」
「そうですね」
「はい!」
時間が経つ度に発光の度合いは少なくなり、次第にもとに戻った。
三人の首元に佇む三つの銀細工。それは三人の絆を証明する証になるだろうか。
「んじゃそろそろ城に戻るか。夕食の時間だろ?」
「もうそんな時間なんですね」
アイリさんは空を見上げる。
俺とレイラもつられて見上げる。一番星も輝き、もう少しで夕暮れから夜の星が輝きだす時間になる。
「あっという間に時間が経ちましたね」
「ああ。楽しい時間は早く過ぎるって言うしな」
「また……」
「ん?」
アイリさんが何か零す。
その言葉を俺は拾えなかったが、レイラは理解したようだ。
「そうですね、また……」
そして二人は口を揃える。
「「また一緒に来たいです」」
二人の笑顔は今日一番だった。
夕暮れをバックに、神秘的な雰囲気を醸し出す。
「……あぁ、そうだな」
俺はそんな姿に少し見惚れたが、すぐに返事を返した。
「また来ようか。いつか、また……」
そろそろ学園編が見えてきたかな?
もう少ししたら爺さん達とのバトルになります。
でもバトルでも数話使うからなぁ……
4月中に学園編に行きたいけど……無理だな。