12.クエストの報酬
やっと本編が再開だぜ!
「それにしても手酷くやられたな……」
ゴフッ、と言葉とともに口から血が吐き出される。完全に内臓がやられたらしい。止めどなく血が口から溢れ出て来る。体を触った感触では骨が6本くらいは粉々だ。
「このまま帰ったら絶叫されるのがオチだよな……」
城に帰ればレイラとアイリさんが。ギルドに帰ってもサレスさんが大声で叫ぶだろう。
まぁどんな人間でもこんな姿を見れば叫ぶだろうが。
「どうしたものか……」
魔法で治すか……?
それでも別にいいんだが、イメージがなぁ……
何かの回復系統の魔法をイメージする。が、なかなか出てこない。
「攻撃系統はすぐに思い付くんだが……」
むぅ~、何かいいものはないか……
回復回復―――
「―――あれがあったな」
こっちに来る直前に発売して、攻略したF○13。
それの代表的な回復魔法で大丈夫だろう。
「イメージはっと……」
ん~、系統は……光か?
イメージとして体が淡く発光する感じで。
効力がダメージの完全回復。こんなもんか……
「よし、行くぞ!“ケアルガ”!」
……成功みたいだな。
言葉とともに発動し、イメージ通りに体が淡く発光する。
その光に体が包まれると、体が軽くなり、痛みが引く。
「さて、骨はどうかな……?」
手で触れてみると、完璧に治っている。どうやら成功のようだ。
「凄い回復力だな……」
内臓の方モチェックするため、一度気を体に張り巡らせる。
張り巡らせた時どこかに損傷があれば、スムーズにいかなくなる。しかしそんなこともなくスムーズに気が全身を駆け巡る。
……こっちも完全回復っと。
どちらも完全に回復したらしいので、俺は次の行動に移り、倒れ伏しているジェネシックウルフの死体の前まで歩み寄る。
「えっと、牙が討伐の証だったよな……」
討伐の証が必要ということなので、俺は口を開いて牙を刀で斬る。
スッ、と豆腐を斬るみたいな感触とともに牙は地面に転がり落ちる。
「いつも思うが、この刀の切れ味はおかしいよな……」
そんなことを気にしながら俺は残った本体をどうしようか考える。
毛は売れば高価な値段がつくらしいが、俺にうまく剥ぎ取れるか分からない。他の部位も同様。
「なんか保存する魔法……」
とりあえず、困った時は魔法を考えよう。
基本的に俺の魔法はイメージがあれば発動するから大丈夫の筈だ。
「保存または圧縮系統かな……」
ん~、圧縮系統はよく聞くけど、実際のイメージがつきにくいな。
なんか小さくするのはわかるんだが、その後どうやってもとに戻すんだ? それに圧縮したら重さって変わるもんなのか?
……わからん。
……なら保存か?
「保存って言ったら影に保存するとか空間に穴を開けるのが有名所か……」
ふむ……
だが影に保存って具体的にどんな感じなんだ?
……わかりやすい空間に穴を開けるか。
イメージは、そうだな……空間に穴を開けて四次元空間に繋げる感じで。
効果は、物の永久保存や時間という概念の無視でいいか。
「んじゃ行くぞ!“次元空間”!」
出てきたのはどこまでも続いている黒い穴。
一度手を入れてみるが、何もない。
……これは成功なのか?
とりあえずそこらへんにあった岩を投げ入れてみる。
……スッポリと入って消えていった。
「んじゃ一回閉じる、っと」
俺はその魔法を一回止める。そして再度イメージ。
「“次元空間”!」
やはり出てくる黒い穴。
俺はそこに手を入れ、先ほど投げ入れた岩を手元に来るように念じる。すると、
「成功か……」
先ほど投げ入れた岩はちゃんと俺の手元に戻って来た。これでこの魔法も成功というわけだ。なら、
「このデカブツも入れておくか……」
俺はジェネシックウルフの死体と牙をその空間に放り投げる。
他にも入れるものはないかと探したがなかったので魔法を停止する。
「こんなもんか……んじゃ帰るか」
帰りは来た時よりもスピードを落として帰っていく。
これで依頼達成だ。なかなか楽しかったな……
―――そんな少年は忘れている。
先ほど使った魔法は“精霊魔法”だということを。
―――そんな少年は考えてもいなかった。
自分が神の領域に足を踏み入れたことを。
―――そんな少年は思ってもいなかった。
自分が人間という枠から少しづつ離れているということを。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
帰りは二時間くらい経っただろうか。
それくらいでギルド前まで辿り着いた。
「まだお昼にはなっていないな……」
空を見上げると、太陽はまだ真上ではなく、少し傾いたくらいだった。
これならまだ大丈夫と確信し、ギルドの中へ入っていく。
「え~と……」
中に入って辺りを見渡すと大勢の人。この時間帯は比較的混むようだ。
サレスさんは、と……
少しだけ注視して見ていくとすぐに発見出来た。
それに伴って近づいていく。
「戻りましたよ、サレスさん」
「一也くんっ!?」
……何故か驚かれた。
そんなに驚かなくてもいいと思うんだが。
そんなことを思いつつも、俺は依頼達成のための牙を提示しようとする。
「怪我はなかったですか!? というより無事だったんですね!?」
「あの~……」
何故か錯乱しているサレスさん。
無事だったって……
あなたがこの依頼を持って来たんでしょうが……
「まぁ骨や内臓を少しやられましたけど、ちゃんと回復しましたら大丈夫です」
「骨や内臓って!?」
むぅ……
なかなか収まらないな。
「とりあえず一回深呼吸しましょうか。はい、吸ってぇー」
「?」
「吸ってぇー」
「スゥーーーーッ」
「吐いてぇー」
「ハァーーーーッ」
「落ち着きました?」
「ええ、もう大丈夫です」
どうやら落ち着いたようだ。
昨日や今日の朝みたサレスさんに戻っていた。
「本当に怪我は大丈夫なんですか?」
「はい。完璧に回復したから大丈夫です」
俺は大丈夫だということをこれでもかとアピールする。
……そうでもしなかったら納得しなさそうだし。
「……それで討伐の方は?」
「そちらも大丈夫です。まぁなかなか強かったですけど」
本当に予想外だった。
魔法を使うとは事前に知っていたが、光の屈折まで使ってとは思ってもいなかった。
「討伐の証はこちらです」
俺は“次元空間”を発動し、中にある牙を取りだす。
しかし、その魔法を見たサレスさんは驚き声を上げる。
「な、何なんですかその魔法は!?」
「えーっと……そうですね、俺のオリジナル魔法ですかね」
正直こう言う他ない。これ以外の言葉は思い付かなかった。
「オリジナル魔法って………………現代でオリジナル魔法を創れるのはクレウィス様クラスでしか無理なのに……」
「どうしたんですか?」
何か呟いているが、あいにく俺の耳には届かなかった。
気で強化すれば音は拾えるが、わざわざそこまでして聞きたいとは思わない。
「と、ごめんなさいね。確かにジェネシックウルフの牙を受け取りました。報酬のお金はどうしますか?」
小声で俺に聞いてくる。
どうやらあまり俺が目立ちたくないことを理解してくれているようだ。
「そうですね。俺にはさっき使った魔法があるんで、今渡して貰っても全然大丈夫です」
「そうですか? ならこっちに来てください」
俺はサレスが手で招いている方に近づく。
そこはギルドの奥にある部屋で、いろいろな物が置かれている。
「ここは?」
「軽い物置です。金庫とかもこっちに置いてますけど、ほとんど使用されてないから勝手に私室なんかも作ってます」
勝手にって……
そんなことしていいのか?
そんな感想を胸に秘めながらも歩いていくと、一つの部屋でサレスさんが立ち止まる。その部屋を開けると、強固なものであろう金庫のような物体が眼に入る。
「少し待っててくださいね」
そう言ってサレスさんはその部屋の中に入り、扉を閉める。俺は帰ってくるまで暇になったので、今日の午後のことを考える。
このお金でアイリさんとレイラの服とかを買ってやるかな……
そういや俺の服もついでに買わないといけないな。後は……
考えているうちに、サレスさんは戻って来たようだ。手には大きな袋を両手に持ち、ゆっくりと歩いてくる。
「大丈夫ですか?」
俺は慌てて駆け寄り、袋の一つを受け取る。
ズシン、という重さが手に伝わる。
なかなか重いな……
中身は金貨だからだろうか。やはり一枚一枚がなかなかの重さとなっている。
「この二つの袋で金貨500枚になっています。確認は?」
「別にいいですよ」
俺はもう一つの方の袋も受け取る。
何か小さな袋が必要だな……
「あら、もしかしたら私が嘘をついているかも知れないですよ?」
サレスさんが笑いながらそう言うけれど、俺はそんなことは思わない。
「サレスさんはそんなことしないでしょう?」
真っ直ぐとサレスさんを見つめる。
人の眼を見ると、大体の性格は分かる。その人の眼が澄んで綺麗だったら誠実な人物だし、濁っていたら悪事を働く人物というように。
「ッ! はぁ、完敗です……」
サレスさんは溜息を吐きながら苦笑する。
そんな溜息を吐かなくても……
「あなたはそう人柄なんですね」
「人柄って……ただ思ったことを言っただけですよ?」
「フフッ、まぁいいです。ほら、待たせてる人がいるんでしょ? 行ってあげなさい」
おっと!
そう言えばもうすぐ昼食の時間だったな。
「そうでしたね。それではまた来ますね」
「ええ。……あ、ちょっと待ってください!」
「何です?」
俺はもと来た方向に歩きだそうとしたところを呼び止められる。
「ギルドカードを貸して? 今回はSSSランクのクエストだったから1ランクアップさせなくちゃ」
「そうでしたっけ?」
俺はギルドカードを手渡す。
そうすると、サレスさんは何かの宝石をカードに掲げた。すると、ギルドカードは綺麗なピンク色に発光する。
「教えるのを忘れていましたけど、SSSランクのクエストを成功させた場合は絶対に1ランク上がりますからね」
「そうなんですか?」
ということは、後2回SSSランクを成功させたらランクトップということか。
「まぁSSSランクのクエストなんて滅多にないんですけどね」
サレスさんは苦笑しながら奥の部屋に戻っていく。
今度はすぐに俺の下に戻って来た。
「はい、これ」
「ありがとうございます」
縁が水色になったSランクを証明するギルドカードを受け取る。
「それじゃ今度こそお別れ。また機会があれば来てくださいね?」
「わかってますよ。それじゃ」
今度こそ俺はもと来た道を戻り、ギルドから外に出る。
外に出ると、太陽も真上に上がっていた。
こりゃ、急いで帰らなくちゃな……
俺は怒るレイラやアイリさんの顔を想像しながら、町を駆けていく。町は相変わらず賑わっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
~side サレス~
本当に“色王”を討伐するなんて……
私は心底驚いた。
いくらなんでもやり過ぎたと思ったのに、初めとなんら変わらない姿でここに戻って来たのだから。しかもオリジナル魔法というものを添加して。
オリジナル魔法―――現在の四賢者くらししか、しかも四賢者であってもそう簡単に創れないものをあの少年はやすやす創りだした。
しかも、今まで誰もが考え、誰もが断念した収納魔法。響きは聞こえ悪いが、使えればこれほど便利なものはない。理論的には収納限界がなく、中に入れた物は生物であっても腐らないという生活するためにはとても便利な魔法。
それをあの少年はあの歳で創り上げてしまった。
今度クレウィス様に聞いてみないと……
最早あの少年に聞くことは出来ない。
初めはあの少年に聞くつもりだったが、今となってはクレウィス様に聞いた方が的確な返事が返ってくるだろう。
それにあの少年が自分のことを理解していないかもしれない。
あの歳であの才能。
正直な話、化け物と呼ばれる可能性だってある。
なんて言ったって、あの歳でいくら成体になっていないとは言え“色王”の一角を倒してしまったのだから。
今はどれくらいいるだろうか。
“色王”と単身で殺り合って打ち勝つ人物なんて。
多分10人と少ししかいないだろう。その中であの若さの人間なんていない。
一番若くても、最近“海帝”が入れ替わり入ったジェイン・ウルバス・ランフォードさんの28歳だった筈。
それ以上に若いあの少年は何ものなんだろうか。
名前は確か―――
「―――一也 御薙と言いましたね」
覚えておこう。
もしかすると彼はこの世界で何かを引き起こしてくれるかも知れない。
単身で“色王”を破り、夢だった収納魔法を創り上げた天才。
「これからおもしろくなりそうです……」
~side out~
次は本編だけど、正直必要かどうか迷う話だな……
ま、レイラやアイリの可愛いところが見たいが為に書くんだが(笑)