9.想像
我が生涯に多大な悔いあり!/(^o^)\
俺の手に宿る直径50cm位の闇の弾。
その色は夜の帳よりなお濃く、全てを覆い尽くす漆黒。
「な…何で……?」
「いくら何でも、これは一也様だからと言って規格外すぎるでしょう?」
二人は茫然と漆黒の弾を見て呟く。
だが、所詮魔法の詠唱なんて式でしかない。いくら難しい数学の問題でも、多大な時間と膨大な努力を掛けることで小学生で習うような算数を使うだけで解ける問題だってある。
魔法はこれと同じことが言える。
詠唱なんか知っていなくても、イメージで無理やりやってしまえば発動出来てしまう。
簡単に言えば、魔法の詠唱が数学の公式で、俺が使ったのは小学生の算数。どちらを使った方が簡単なのかはすぐに判る。どう考えても数学の公式を使う方が簡単に済む。
そちらの方が時間も手間も掛けずに済むからだ。
それでも解くことに関してはどちらでも解けるということだけ。
「まぁあれだ。この仕組みさえ判ってしまえば誰にだって出来るようになると思うぞ?」
俺がやっていることは簡単。
発動したい魔法を頭の中でイメージする。ただそれだけ。
魔力や精神力の練り込みなんて知らない。詠唱なんて論外。
ただ想像し、それを作りだす。簡単なことだ。
しかしそれは俺が異世界の人間だからなのかも知れない。
レイラは言っていた、『頭の中で発動する魔法を想像なんてしていたら魔力と精神力が練り込めない』と。
俺の場合は魔力と精神力は勝手に魔法に練り込まれる。俺が予測するに、この練り込み具合は俺の魔法の想像の濃さによって変化すると思う。
例えば、1mの火球をイメージするのと手のひらサイズの火球をイメージした場合、1mの火球の方が魔力と精神力の練り込みが大きくなる。逆に小さく発動したいなら小さいようにイメージすればいい。
俺の魔法は酷く異質で綻びが大きいのだろう。
だから魔法の式なんて誰もが使える綺麗なものに当てはめて魔法を使おうとすると、あのような暴走状態みたいな効果が出たのだろう。
理屈がわかってしまえば後は簡単だ。俺はこの世界の魔法とは合わない。
ならどうすればいいか? そんなものは決まっている。
―――全て俺の想像で魔法を作り上げればいい。
一応俺は精霊魔法が使える可能性が残っている。
その中には空間の魔法があったとされている。空間とはその場所。
空間と空間は繋がっていると言われ、しかし全てが閉鎖的に閉じられていると言われている。その空間に穴を開けることはまず出来ないと言われていた。
しかし俺は現実に異世界に召喚されている。
召喚されているということは空間と空間に穴を開けることが可能であるという事だ。
ならもし伝承通り、俺が空間という魔法が扱えるのであればもとの世界に帰れる可能性も決してないということはなくなる。
だが、これは並大抵の努力じゃ無理だろう。
まず空間と空間が繋がっているというイメージがどんなものかわからない。
俺が扱う魔法の欠点としては、曖昧な想像のまま魔法を発動してしまうとどのような作用が引き起こされるかわからないという点である。万が一失敗して、この世界を崩壊なんてさせてしまったら眼も当てられない。それ以前に俺も死んでしまう。
なのでこればっかりはゆっくりと進めていくしかないわけだ。
他の精霊魔法も同様のことが言える。
時間、消滅、創造―――どれも神が持つと言われているという能力である。
最初に空間により、その場所を存在させ、創造により生命を作りだす。そして時間という流れを作りだし、必要のなくなったものを消滅さし存在を消し去る。
これが神の仕事とされ、こうして人類は作りだされたのであると教えられた。
神が扱う能力なんて人間が扱いきれるものでじゃない。それを扱おうなんて神に喧嘩を売ると同じ行為に等しい。
そんなものを無理やり想像して使おうならば、俺は間違いなく廃人になり、世界は崩壊するだろう。
だから俺が空間などの魔法を使おうと思うのなら、
まずその魔法をどんなものかを想像し、そして―――――――――
――――――――人の身にて神の存在までに上り詰めること
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さて、この後はどうする?」
俺はこれからの指針も決まって、今日は納得のいく出来となったので満足なのだが、二人は釈然としない顔でこちらを見ている。
「どうするって……」
「そうですね……」
二人は思案して、同じタイミングで同じ事を聞いてきた。
「「一也様が言っていた魔法の仕組みとは(って)どういうことなんですか?」」
「ん? あぁ、まぁ仕組みって言うか俺専用と言うか……」
さっきは仕組みって言ったけど、よく考えてみたら頭の中で魔法を鮮明に想像出来る人間なんてこの世界に俺以外にいるのか?
俺は平行思考の半分をリソースに割いて想像に回して、もう半分を他のことに回しているから、戦闘の最中なんかでも魔法を使いながら接近戦を仕掛けることが出来るけど、レイラなんか全部をリソースに割いて使いものにならなくなりそうだな。
まぁ一応教えてみるかな?
レイラくらいの魔力なら暴発しても俺みたいに酷いことにはならないだろうし。
「まぁ簡単に言ったら、魔法の詠唱をしない代わりに頭の中で発動する魔法を鮮明に想像することだな。出来るか?」
「そんなの無理ですよ。前にも言いましたがそんなことすると魔力と精神力が練り込みません」
「やっぱり俺以外は無理なのか……」
まぁ前にも言われたことで判っていたことだが。
「そういえば一也様は魔力と精神力の練り込みはどうなさっているんですか? そんな想像なんてしていたら練り込めないと思うんですけど」
「それは私も思いました」
二人が質問をしてくるので正直に答える。
「正直意識してないな。なんか魔法を想像したらそれと同じ魔法が発動するから」
俺はさっき心の中で考えていたことの一部を話す。小さい火球と大きい火球のことだ。
それを聞いたレイラは酷く驚いて、
「もしそれが本当に出来るのだとしたら国に発表出来るかも知れませんね」
「発表ね……」
まぁ興味はないが。
そんなことを発表して馬鹿なやつらが無茶なことをして暴発なんてさせたら眼も当てられんし、あまり大きい戦力を持ちすぎたら戦争の原因になるかも知れないしな。
「んじゃこのことは誰にも口外するなよ? 俺は大丈夫だが、他のやつらが大丈夫だという保証はどこにもないからな」
「そうですね」
「わかりました」
二人とも納得してくれたようだ。
それにしてもやることがなくなったな……
「暇だしギルドにでも行ってみるかな……」
やることも特に無いし、爺さんに紹介状を貰ってギルドに登録だけでも済ませておこうかな。
「そうですね。時間もあるようですしそれがいいでしょう」
アイリさんは賛成してくれた。
「レイラは何か用事はあるか?」
「えと、特に何もありませんでした」
「そっか」
なら二人には城で待っといて貰おうかな。
「んじゃ少し出掛けてくるから二人は城で待っといてくれ」
「「嫌です」」
「そんな即答しなくても……」
何でこんなに息がピッタリなんだよ……
「私も付いていきますよ」
「もちろん私もです」
「いやいやいや……」
何故か頑なに一緒に行こうとする二人。
大体二人は目立ち過ぎるから一人で行こうと思ってるのに……
はぁ……
「レイラってギルドの人に顔を知られてる?」
「えっと、そうですね。多分というよりも絶対」
「なら駄目だ」
「えぇ!?」
悲痛な声を上げる。
その横でアイリさんは何故か花咲くような笑顔。
何この差!?
「何でですかっ!?」
「目立つから。強いて言えば、まだ俺が王族の人と知り合いとは城下町の人達に知られたくないからだな。学園に行く前の日に姿を明かすからインパクトが大きいのであって、それ以前に知られていたらその分のインパクトが小さくなるからな」
「うぅ……」
そんな俺の言葉を聞きながら、レイラは悲しいそうな声を上げつつも納得してくれたようだ。
「それでは私が一也様の補佐として付いていきますね?」
「それも駄目だ」
「何故ですっ!?」
今度はさっきとは反対で、悲痛な声を上げたのはアイリさんで、その横でさっきまでは悲しいそうな顔をしていたのに今では花咲くような笑顔。
だから怖いって!
「明らかにメイド服は目立つからな? 他の服を持ってるんなら連れて行ってもいいけど……」
「…………」
え? 何その沈黙。もしかしてメイド服以外の服ないの?
「ないのか?」
「…………はぃ」
「……そうか。ならギルドで稼いだお金の最初の使い道は決まったな」
「はい?」
何かおっさんや爺さんが何かプレゼントしてやれとか言っていたし、私服でもプレゼントするか。
レイラも持ってるだろうけど一応渡そう。おっさんが言ってたし。
「とりあえず今日のところは二人とも城で待っていてくれ。そんなに時間も掛かる訳でもないし」
「「はい……」」
何故か沈んだ顔をしている二人を尻目に見ながら、俺は錬武場から出ていく。
爺さんどこにいるんだろ?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
~side レイラ、アイリ~
「「はぁ……」」
私達は揃って溜息を吐きます。
せっかく一也様と出掛けられるチャンスでしたのに……
「そういえばアイリさん、本当に私服を持っていないんですか?」
「はい、私はこの城に来てからは毎日メイド服を着ていたので必要なかったんです」
この城に来てから随分経ちますけど、私服になんて何も興味を抱かなかったんですから。こんなことならせめて一枚くらいは買っておくべきでした。
「それにしても……」
「どうしました?」
何か考え事をしているレイラ様に尋ねてみる。
「いえ、たださっきの一也の言葉が気になったんです」
「先ほどの言葉ですか?」
何か一也様は言っていましたっけ?
「はい、小声で確かに『ならギルドで稼いだお金の最初の使い道は決まったな』と言っていました」
「『ならギルドで稼いだお金の最初の使い道は決まったな』ですか……」
一也様のお金の使い道……
何なんでしょう? やはり一也様のお召し物でしょうか。
一也様は昨日この世界に来たばかりで私と同じく、服というものを持っていないはずですし……
「気になりますね……」
「そうですね。まぁ少ししたら教えてくれるでしょうから、今は一也様の帰りを待っていましょう?」
「そうですね」
私達はそう言い、錬武場を後にした。私は今日の夕食でも手掛けてきますか。
~side out~
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
さて爺さんはどこにいるんだ?
俺は錬武場の扉から出て、少しした所で止まっていた。
まず爺さんがどこにいるかいるかわからない。こんなことならレイラに念話の魔法を教えてもらっていたらよかった。
とりあえず歩くか……
少しすると庭園が見えてきた。
今は昼より少し過ぎ、夕暮れにはまだ早い時間で、ちょうど休憩している人達がちらほら居た。
誰か知り合いはいないかな、っと……
そう思いながら辺りを見渡す。するとちょうど椅子に座っているリーアさんとハイネさんが居た。
「お~い。リーネさん、ハイネさん、こんにちわ」
「あら、一也じゃない」
「ホントだぁ」
休憩時間でもキリっとしているリーネさんと休憩時間なのでダラケきっているハイネさんの凸凹コンビを見ると少しおかしい。
「どうしたの? あなたも休憩しに?」
「いや、違うさ。爺さん――クレウィス爺さんを探してるんだけど、どこに居るか知らない?」
「何か用事ぃ?」
「あぁ。今からギルドに登録に行こうと思ってるんだが、爺さんが紹介状を書いてくれるって言うからな。だからそれを受け取りに行こうと思ったんだが、どこに居るかわからなくて困ってるんだよ」
苦笑しながら答える。そんな言葉にリーネさんも苦笑する。
ハイネさんはニコニコしながらだらけている。
「そうね……今の時間なら自分の部屋に居るんじゃないかしら」
「爺さんの部屋ってどこにあるんだ?」
てか城の構造とか全然知らないし。
「まず城門の場所は判るかしら?」
「それなら」
俺は結構道を覚えるのは得意な方だ。
よっぽど入り組んだ所じゃない限り、滅多に迷わない自信がある。
「そう。なら城門を入って右手に曲がってそこを少し進むと階段があるわ。そこを上って次は左手に曲がって進むと左右の分かれ道があるから、そこをもう一度左手に曲がった先にある一番奥の部屋がクレウィスさんの部屋よ」
「結構ややこしいな……」
城門から右→階段→左→左→突き当たり……と。
「よし、覚えた」
「早いねぇ、私じゃそんな簡単に覚えられないよぅ?」
「そうか? てか一応魔導騎士団の副団長だろ? これくらい出来なくて大丈夫なのか?」
魔法の詠唱を覚えるより簡単だと思うんだがなぁ。
「ハイネは戦いに関しては天性の才能を持ってるからな。魔法の詠唱は私が無理やり覚えさしてるよ」
「苦労してるな……」
こんなホンワカしてるのに、全然そうは見えないな。
「酷いなぁ」
そんなことに気を悪くしないでハイネさんはニコニコしている。
懐が大きいのか天然なのかイマイチわからない。
「まぁありがとう、助かった」
「このくらいは人として当然のことだよ」
「まぁそうかも知れないが一応受け取ってくれ」
「そうか? なら受け取っておくとしよう」
感謝の言葉を掛けているのに、それを受け取ってくれないのが一番困るからな。
「そうしておいてくれ。それじゃ俺はそろそろ行くとするか」
「そうか? まぁ一也ならすぐにSSSまで届くだろうさ」
「皆に言われてるよ」
苦笑しながら答える。
「じゃあねぇ」
「それじゃあな」
「あぁ」
俺はそんな凸凹コンビの二人と別れて、爺さんの私室へと足を向けた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ここか……」
リーネさんからの説明を聞き、無事迷わず辿り着く事が出来た。
とりあえずノックするか。
コンコン。
「爺さん居るか? 俺だが」
……何かオレオレ詐欺みたいな感じがする。
「ん? 一也かの?」
中から少しくぐもった爺さんの声が聞こえてきた。
一発で見つけられてよかった。
「あぁ。中に入ってもいいか?」
「いいぞぃ」
「んじゃ失礼する」
俺は爺さんの了解の言葉を聞き、扉を開ける。
その部屋は俺に充てられた部屋よりも狭く、質素な感じの部屋だった。質素な感じなだけで、ベットなどの家具は上質のものを使っている。その部屋にぎっしりと棚に置いてある本が目立つ。
「俺の部屋より狭くないか? というかあの部屋は豪華すぎると思うんだが…」
「そうじゃのう。でもお主は一応国の英雄としてこの世界に運ばれてきたのじゃからこの位の対応はしなくちゃいけないんじゃよ」
「そんなもんか?」
「そんなもんじゃ」
そんなものらしい。納得は出来ないが。
それから俺と爺さんは少し話しをして、俺の本題へと入った。
「さて本題だが……昨日爺さんはギルドに紹介状を書いてくれるって言ったよな?」
「言ったが、今必要なのか?」
「あぁ、今から登録だけしに行こうと思ってな。時間がこう微妙だと何もすことがなくて暇だからな」
「なるほどな……」
そう言うと爺さんは机の中を漁り始める。
そうして出てきたのは一通の便箋。
「ほれ、これじゃ」
「えっ?」
「紹介状じゃ…必要なんじゃろう?」
「確かに必要だが……」
何時の間に書いたんだ?
「昨日のうちに書いておいたわ。お前さんのことだから明日にでも来ると思っての」
「……助かる」
本当にうちの爺さんみたいな人だな、この人は。
「それと文字も書けないと思ったからついでに必要なものはその便箋に書いておいたから、受付の人物にその便箋を渡すだけで登録出来るはずじゃ」
「何から何まで世話になるな……」
「このくらい気にすることでない。お主は世界を変えるという偉業を成し遂げてもらわねばならないんじゃからな。この位のことは儂らに任せておけ」
「ありがとう」
素直な気持ちを述べる。
これが今俺に出来ることだ。
「よいよい。今すぐ行くのかの?」
「そうだな。……それに何故か知らんがレイラとアイリさんの機嫌が悪かったから早く帰ってこないといけないし……」
「そうじゃったか……。なら早く行って帰ってくるのじゃ。女性を待たすのは男がするものではないぞ?」
「……そうだな。なら行ってくる」
俺は背を向け扉に手を掛ける。
少し気恥ずかしかったが、うちの爺さんがいるみたいに言ってみたいと思った
「……行ってきます、爺さん」
その言葉を言い残し、俺はすぐに扉から出ていく。
あぁ、恥ずかしい……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
~side クレウィス~
「行ってきます……か」
何故かその言葉が心に響く。
それは決して嫌な感じじゃなく、むしろ心地よい。
「これが孫を持つ気持ちなのかも知れんのぅ」
妻も娶らず、ただ国のためだけに生きてきた儂じゃったが、このような気持ちを持てる日が来るとは……
「やはり長生きはするもんじゃのぅ」
経った今、出掛けて行った孫を窓の外から眺めながら、ゆっくりとその心地に身を任せた。
~side out~
今日は徹夜で友と遊んでいましたw
だからホントに眠い……
これをうpしたら布団に直行です(笑)
そういえば、PVが100000超えとユニーク10000超えしました。
とりあえず近日中に何か企画でも考えよう……今は考えられないw
それとこの小説のサブタイが~話だけでは寂しいかなぁと思って何かをつけようと思うんですが、何か良い案はありませんかね?
誰かサブタイ付けてくれる人募集ですw(えっ?
付けてくれる人は感想にでもカキコしてください~(チョッw
では(つ∀-)オヤスミ