四月二十二日、今日も学校の隅にある図書室から楽しそうな声が漏れていた。
この学校には根強い体育会系優遇の風潮があった。
それに伴い部活動や委員会も運動部などの方が多いし、部室や委員会室も大きかった。
流石に成績や内申点などにはそこまでの影響はなかったが、もちろん好き好んで文化系の部活、委員会に入る人は少ない。
そんな学校で、僕ともう一人、同じクラスの遠山さんの二人で、図書委員をしていた。
「田中君。今日も人、こないねぇ」
「そうですね……新年度始まってすぐ、新入生はこんな隅っこにある図書室なんて見つけらんないだろうし、在校生はそもそも本をわざわざここで読もうなんて考える人もいませんし」
「だよねー」
気だるそうにそう吐く遠山さん。先ほどからつまらなそうに本を数ページ飛ばしながら読んでいる。
去年度、一年生の時、初めこそいろんな本がある、と喜んでいたが所詮運動部優先の学校だ、知れている数しか置かれていない。
半年を立つ頃には遠山さんはあれほど目を輝かせた本も読み切り、ゲームをするわけにもと読み終えた本をこうして詰まらなそうに読む毎日だった。
てっきり今年度は図書委員はやめて他の委員会や部活に行くとばかりと思っていたのだが、今年度もどうやら続けたようで、こうして週に三回、月、水、金と放課後にこうしてつまらなそうに本を読みに来ている。
「ほんと、バイトしたって殆ど学費に行くし、本も変えたってすぐ読んじゃうし。どうしたらいいと思う?」
「僕に言われましても。まぁ、共働きの僕から言わせてもらえば親にねだる、としか解決法は出てきませんが」
「でたよー、そのセレブ発言」
「セレブ発言って。別に他の家庭より少し贅沢できるぐらいでそんな語弊のある言い方をされても」
「といいながらそんな高そうなスマホ、親が勝ってくれたんでしょ? 一括で」
「ちょっと! その話は忘れてくださいとっ」
突然掘り出された過去の話に勢いよく椅子から飛び立つと、それを面白いと言わんばかりに両手を叩いて大声で笑っていた。
女の子なんだからはしたない、なんて始めこそは注意していたが、今となってはそれが息がつまらなくて楽というものだ。
「あん時の田中君の嬉しそうな顔ときたら、今でも忘れられないよっ。『見てくださいこれ! お父さんが買ってくれたんです! 高品質、高機能、高画質! この三高!』ってね!」
「っぐ……それは、ほんとうに。わすれていただければと……」
皆まで言われてしまえばと消沈気味に椅子に座り込めば、落ち込んだ僕の様子を察したのか、これまた笑いながら「ごめんごめん」と一応の謝罪をくれた。
というか、未だ覚えていたのか、と密かに睨んでみれば、遠山さんもまた僕がそうするのを察していたのか、顔をこちらに向けてニヤニヤとしていた。
「っく……」
小っ恥ずかしさに思わず顔を背けたが、どうにも耳の先まで熱が籠って余計に恥ずかしい。
何故か僕の行動をお見通しされているような気がして。
それにどうにも。嬉しくて。
四月二十二日、今日も学校の隅にある図書室から楽しそうな声が漏れていた。