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11 新しい理(ことわり)?

裂け目の中心――アリスが創り出した“第三の道”は、もはや一人の存在の選択を超えて、

街全体を覆う新しいことわりの波となって広がっていった。



まず空が裂けた。

青空は砕けた鏡のようにひび割れ、無数の“別の空”が重なり合う。

昼と夜、晴天と嵐、星空と砂嵐――矛盾する情景が一枚の天蓋に共存し、

街に住む人々はその光景に悲鳴を上げた。


次に大地が揺れる。

石畳の道が海の波のようにたわみ、建物の影から「もう一つの建物」が透け出す。

現実の街と、別の時空の街が重なり、同じ場所に“二つの存在”が押し込められた。


ナツメは目を覆い、声を震わせる。


ナツメ「これ……まさか、“多重世界”の干渉……!?

    一つの都市に無限の可能性が重なってる……!」


ギンの額に冷たい汗が伝う。

彼の瞳には、すでに“人の輪郭を失い始めているアリス”の姿が映っていた。


ギン「アリスの新しい理が、世界に投影されている……

   このままでは街そのものが観測の対象になり、“定まらない現実”に変わる」



街の人々の身体にも異変が現れる。

ある者は突然“未来の自分”と重なり、二つの人格が同時に語り始める。

ある子供は、影から別の子供が抜け出し、まるで双子のように存在してしまう。

兵士の剣は何度も“抜かれる瞬間”を繰り返し、敵のいない空を斬り続けた。


人々の悲鳴と祈りが混ざり合い、街全体がカオスと化していく。


ナツメ「これ以上広がったら……ただの異変じゃない。

    この世界そのものが――アリスの“観測実験場”になっちゃう!」


ギンは低く唸った。


ギン「止めるしかない……だが、外からの干渉はすでに届かん。

   アリス自身が、この“新しい理”を収束させねば――」



その瞬間、裂け目から膨大な光がほとばしった。

アリスの声が街全体に響き渡る。


アリス『――これが……私の答え。

    矛盾を抱えたままでも、“人”として世界を観測する』


しかしその声は、街の人々には救世主の宣言ではなく、

“神の声”にも似た恐怖の響きとして届いていた。


人々は震え、泣き叫び、祈りを捧げる。

その様子はまるで、アリスが新しい信仰の対象に“化け始めている”ようにすら見えた。


――街は、すでに「アリスが創る理」の中に取り込まれつつあった。


街が新しい理に呑まれ、人々の姿や時間が重なり合う混沌の中。

その裂け目から――圧倒的な“存在”が降り立った。


それは形を持たぬ。

光でも影でもなく、音でも沈黙でもなく、ただ「在る」という概念そのもの。

人々はひれ伏し、心臓を握られたように息を詰める。


“真理”の存在が響かせた声は、誰に向けられたものでもなく、

しかしすべての者の内奥に届くものだった。


真理の存在『――許されぬ。

      観測者である人間が、自らの選択を以て“理”を上書きするなど。

      この世界は均衡に基づき成り立つ。

      おまえの介入は、その均衡を壊した』


声と共に、街の上空を覆う“多重の空”が震え、割れ、光の雨が降り注ぐ。

それは祝福ではなく、“裁き”の雨。

触れた建物は瞬時に崩れ、触れた人々は影となって消えていく。


ナツメ「やめて……っ! 彼らは何もしてない!」


ナツメが叫んでも、真理の存在は揺らがない。


真理の存在『均衡を破る者と、その影響を受けし世界は、一つに裁かれる。

      それが宇宙の理。』


ギンは歯を食いしばる。


ギン「……アリス。お前の選択は、ここまで世界を敵に回すのか」



裂け目の奥から、アリスの声が届いた。

その声は、すでに人間の声色から逸脱し、

深淵と共鳴する響きとなっていた。


アリス『……私が壊した?

    いいえ、違う。

    壊れたのは――あなたたちが“完璧な均衡”と呼んで押し付けてきた幻想よ』


街に残された人々の影が震える。

その言葉は、恐怖ではなく、奇妙な解放感をもたらした。

まるでアリスの理が、既に彼らの心に浸透し始めているかのように。


真理の存在はわずかに沈黙した。

だがすぐに、冷たく告げる。


真理の存在『ならば――おまえをもって裁きを完遂する。

      アリス、人の身を超えて理に触れし者よ。

      ここでその芽を摘む』


次の瞬間、裂け目全体が裁きの炎に包まれ、

街と異界、すべてが“終焉の光”に飲み込まれようとした。


審判の炎が街と裂け目を呑み込もうとする瞬間――

その中心で、アリスの姿が変貌を遂げていた。



もはや彼女は“少女”ではなかった。

髪は光の糸となって宙に漂い、瞳は多重世界の星々を映し込む鏡。

輪郭は人の形を保ちながらも、その周囲には幾重もの影と光が重なり、

見る者ごとに“違うアリス”が現れる。


ナツメは震えた声を上げる。


ナツメ「アリス……っ、それ……もう、人じゃない……!」


だがアリスは笑った。

人間的な微笑みではない。

観測する存在、万象を測定し操る者の“確信”の笑み。


アリス『――人であることに、何の意味があるの?

    この世界が私を拒むなら、私はこの世界を超えてみせる』



真理の存在が再び裁きの声を響かせる。


真理の存在『冒涜者……。

      その身を棄て、理を凌駕せんとする者。

      ならばここで、存在そのものを削ぎ落とす!』


宇宙の律動が震え、炎は巨大な刃となってアリスを斬り裂こうと迫る。


だが――アリスは逃げなかった。

両手を広げ、その身に炎を受け入れる。


次の瞬間、炎は分解され、数式と記号の光に変わって消滅した。


アリス『裁き……? それはただの“観測の結果”よ。

    なら私は、新しい観測を上書きする――!』


街全体が震えた。

人々の影が一斉に立ち上がり、アリスの姿に重なっていく。

未来の自分、過去の自分、可能性として存在した無数の“アリス”が折り重なり、

彼女は一人でありながら、無限の集合体となった。



ギンはその姿を見て息を呑む。


ギン「……あれはもう、アリスではない。

   いや……“人間”の定義すら、書き換えられている……!」


ナツメは必死に叫ぶ。


ナツメ「アリス! あなたが人じゃなくなったら……

    私たちはもう、一緒に笑えないんだよ!」


だがアリスは振り返らない。

その眼差しはただ、真理の存在だけを射抜いていた。


アリス『――来なさい。

    私はこの世界の“調停者”じゃない。

    私は、新しい理そのものよ!』


裂け目が激しく轟き、街の空が二つに割れる。

アリスと真理の存在――

人智を超えた二つの存在が、正面から衝突しようとしていた。


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