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彷徨う兄 前編(アッシュ視点)

 世界の全てが嘘塗れに見えたのは3歳の頃からだった。


 成功は当たり前、失敗は許されない


 何をしても褒められることなく、


 失敗したときには知らない他人に比べられる。


「アッシュよ、まだ文字も読めないのか?サテラ侯爵家の子息は既に計算も出来ているぞ?何故、お前は出来ないのだ?遊ぶ時間があるなら勉強して我が家のために努力するのだ。」


 それが当たり前だった。


 それが日常だった。


 公爵家の子だから当然だと俺は思っていた。


 俺が5歳になるまでは。


 認めたくはないが俺には弟がいる。


 そやつは3歳の年齢であっと言う間に文字の読み書き、足し算が出来ていた。


 ヤツは誉められ、才能があると称えられた。


 ヤツが憎かった。


 ヤツが生まれた時点で、俺の居場所が盗まれた気がして、虚しいと分かっててもヤツをヤツの部屋に抑え込もうとした。


 勉強の量も増やして、それでもヤツには届かなかった。


「アッシュよ、ルークを見習わんか?ルークは暇さえあれば書庫に入り浸たっているぞ?何故、兄のお前が出来んのだ?」


 父も、母も、使用人共も、家庭教師さえもヤツを称える。


 そして、俺をヤツに比べれる。


「やっぱり、ルーク坊ちゃまが当主になれたらねえ…」


「そういうこと思っても言わない方がいいわよ?気持ちは分かるけどね……」


「何故、ルーク様が先に生まれてこなかったんだろうな。」


「昨日のルーク様を見たか?訓練中の兵士逹に労いの言葉をかけたのだ。あの方が当主になれたら一体どれだけよいことか…」


「それに比べてアッシュ様は……。」


「………………。」


 地獄だった。


 この屋敷では誰も俺を見てくれない。


 誰も俺を見てくれない。


 逃げ出したい。ここから遠くへ行きたい。


 なのに、この屋敷からは出られない。


 窓を見つめた俺はある鳥が目に入った


 カラスだ。


 全身黒く染まってる身体に、さらにあの黒い目に目があった気がした。


 それから庭から拾った何かを咥えて飛んでいった。



 待て、まだ行くな。俺はまだここに……


 ただ空を飛ぶ鳥に夢中になってしまった。


 そのせいか、俺はヤツが隣に来ていたことを気づかなかった。


「あにうえ、そんなところでなにをしているのだ?」


「っ!……貴様には関係ないだろう!」


「ああーかんけいない。でも、ロウカでそんなふうにテをのばしてるとヘンなヒトみたいだゾ?」


「貴様に何が分かるッ!?」


 俺らしく無く、感情的になってしまう。


 我慢してきたもの吐き出すように叫んでしまう。


「貴様は一体なんなんだ!生まれた時からずっとそうだ!何故貴様はそんな目で俺を見ている!!」


「???」


「何時ものように書庫に籠もって本でも読めば良かろう!何故わざわざ俺に構う!?」


「…………」


「俺の……俺の居場所を盗んで……何がしたいんだ貴様は!!!」


「…………」


「必死にもがいて、結果を出したのに認められなくて、失敗したら比べられる。そんな毎日から手を伸ばすのは変だと?ふざけるな!!」


 言いがかり、八つ当たり。


 それを情けなく、3歳のヤツにぶつけた。


 それ黙って聞いたヤツは口を開いた……。


「兄上よ。」


「はぁ……はぁ……」


「お前は認められたかったのか?」


「っ!…………黙れ!」


「お前はこの檻みたいな小さな世界に認められたいのか?」


「黙れっ!」


「お前はあんな奴等の……誰かと比較してしか人の真価を計れない人たちに認められたいのか?」


「黙れと言っているのだああァ!!!!」


 俺は、自分を抑え込めなくてそのままヤツを殴ってしまった。



「ぐっ、ァアアアア!!!」


「何事ですか!?ルーク坊ちゃま!?」


「ハァ……ハァ……」


 俺は……認められたくて、必死に頑張って、寝る間も惜しんでこの家の者達を見返してやりたい気持ちを今、この廊下で痛がっているヤツがそんな俺に、妥協してるのかと言われてるみたいで許せなくなった。





「アッシュ!聞いているのか貴様!何故、ルークを殴った!?……」


 いつの間にか執務室に連れて来られた俺は全ての音が……


 ……遠く聞こえていた。






 そして、俺がルークを殴った日から3年後




 武術訓練でヤツは倒れ、武器もまともに振れない……




 無能と化していた。


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