適性検査を見届ける弟 前編
教会の微妙な空気の中でメイドと俺は兄上を追って行く。
兄上の事だから「我、貴族ぞ」的なこと言って、
列に割って入りそうだ。
そんな兄上に追いついたら……。
案の定、受付のシスターと揉めていた。
「だから、貴族の俺から先に鑑定するのを何故解らぬのだ!」
「ですから、それは紹介状を持ってからと仰っているのです。」
紹介状とは貴族限定の寄付金渡と引き換えに貰える手紙のことだ。
それがないと、例え貴族でも列に並ばなきゃ行けない。
何故そんなものがあるというと、セナフ教は生まれも育ちも平等である、人類皆兄弟という教えに準じている。
だから、例え貴族でも対応はみんな同じだ。
ただ、基本的に時間がない貴族には、そして貴族至上主義の貴族にはそれは我慢ならないから【紹介状】といものが生まれた。
つまり、紹介状とは前世でいう予約制度みたいなもの。
「貴様!俺をアストラ家とみ「はぁ、だから落ち着けって言っているんだ。兄上よ。」……っ!無能ッ!」
「落ち着け、兄上よ。セッテよ、紹介状は持っているんだろう?」
「はい、こちらでございます。」
「…………ふむ、これは確かに……はい、確認しました。アッシュ様を鑑定すれば良いのですね?」
「はい、宜しくお願いいたします。」
「畏まりました。では、アッシュ様。少々、準備が御座いますのであちらの席で待ってて下さいませんか?」
「ふん、最初からそうすれば良いものを...おい、セッテ!紹介状を持っているのなら、何故最初から出さなかった!」
そう言った兄上に、俺は口を挟む。
「それは兄上が先に突っ走ったからだろう……。」
「…………っ。では、最初から持たせれば良かろう!」
「紹介状は父上の...公爵の手紙だぞ。そしてセッテは兄上の専属とは言え、公爵の代理として来ている。公爵の大事な手紙を兄上に持たせるわけないだろう。」
「俺は父上の子だぞ!」
「父上の子だからこそだ。社交界にまだ出れていない俺たちは父上の代理として見なされない。」
要は他の貴族に見られてない以上、父以外俺たちの身分を証明する術はない。例え、家紋のある馬車から降りたとしてもだ。
そもそも、この適性検査がそのための前準備だ。
強力な才能があるとこの検査で明かされれば、政略結婚にも良い宣伝材料に出来るからだ。
「……チッ」
「ほら、指定された席に座った方がいいと思うぞ。兄上よ。」
「貴様に一々言われなくても分かってる!」
そう言ってここからちょっと先の席に座った。
眉間のシワたっぷりの顔で。
◇ ◇ ◇
準備が整ったようで、いよいよ兄上の鑑定が始まる。
その前に――
「なぁ、セッテ。ところでいいか?」
「なんでしょう?」
「お前が父上の代理としてここに来ているのは気づいていたが、肝心の父上はどこにいるんだ?適性検査は普通、その検査を受ける子の両親が見届けるものだろう?」
さっきの3人家族みたいに。
「はい、旦那様はなんでも今日の商談で忙しいようで、ここへ来れないと仰っていました。」
「商談?」
「はい、なんでも薬がどうかと……詳しくは仰られませんでした。」
「そうか。」
…………薬ね。
大方、例の帝国からの薬だろうな。
ゲームではあの薬は、魔力を膨張させる効果があって、それを飲んだ者の力を引き上げる。
ゲームではの効果だとMP上昇、防御大アップ、攻撃力大アップ、バーサーク効果も得られる。
ただその効果が切れた時、全ステータスダウンが付与される。
要はドーピングだな。
ゲームでは兄上はそれを例の地下牢で攫った人たちを人体実験して、デメリットを無くそうとしたらしい。
それでも主人公に負けて、デメリットも結局消せなかったがな。
そして、このメイドはわざわざ薬を口にしたということは、俺にそのことを探っているということだ。
まぁ、ダメ元でって感じだがな。
......そろそろ検査が始まるな。
「では、アッシュ様。その水晶に手をかざしてください。」
「ん……」
世界の魔法は基本的に6つの属性で分けられている
その属性とはまさに王道で、火、水、風、土、光と闇。
これらの属性はあの手をかざした水晶に色として現れる。火が赤色としてとか、水は青色としてとかな。
その6つの属性にもサブとして出てくる属性もある。
光と火のサブ属性…雷属性、水と土の泥属性等々だ。
サブ属性は水晶では色として現れないがメイン属性が2つ以上が出た場合サブ属性も出来る可能性も出てくる。
まぁ、兄上のメイン属性はゲームでもう知っている。
それは――
「これはすごい!赤と緑と白……つまり火、風と光のトリプルです!」
ざわつく教会内の人達...
「すげぇトリプルだ……」「やっぱり金持ってるやつは違うのか?」「アストラ家の神童だ!」
右も左も兄上称える。
「では、スキルの鑑定もしましょうか。」
そして、まだまだ検査は続く.....。