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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
十章 忙しく過ぎる日々

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 二年生の呪文学がどういった形式かは、前期でも述べたし、それは後期も変わらない。

 系統ごとに前の魔法を覚えたら、次の魔法を習う事ができる。

 つまり習得が早ければどんどん先に進むし、逆に習得が遅ければその場で足踏みを続けなければならない授業だった。


 だから、って言うと凄く傲慢なのかもしれないけれど、その日、その魔法を習うのは、クラスの中で僕一人。

 前期の頃までは、系統によっては僕の習得速度に食い付いてきたクラスメイトも居たけれど、今はもう誰も居ない。


「今日教える魔法は、一流の魔法使いか、そうでないかを分けると言っても過言ではない魔法です。普通は在学中に習得できれば一流の魔法使いと呼べるでしょう。正直、この速度でここに辿り着いた生徒は、私も殆ど記憶にありません。どんなに優秀でも一度か二度は、どこかで足踏みをしますからね」

 僕一人を連れて本校舎を出たゼフィーリア先生は、歩きながらそんな言葉を口にした。

 その言葉が、僕には少し引っ掛かる。

 ゼフィーリア先生が何時から呪文学の教師をしてるのかはわからないけれど、魔法使いである以上は彼女もこの学校で学んでる筈だ。

 つまりそれなりに数多くの魔法学校の生徒を知っているのは間違いないが、その中でも僕の魔法の習得速度は、あまり例がないらしい。


 ……ゼフィーリア先生は、間違いなく一流の魔法使いだけれど、彼女はどうだったのだろう。

 一度や二度は、どこかで足踏みをしたのだろうか?

 いやそれよりも、シールロット先輩はどうだったのか。

 彼女が高等部にあがる前にその魔法を使えたのは知ってるけれど、それが最短での習得だったかどうかは、聞いてなかった。

 もしかしたら、最短での習得は、シールロット先輩に自慢できたりするんだろうか。


「二年生で、今年中にこの魔法を習得できるのは、貴方以外にはガナムラ君に可能性が……、本当に極々僅かにあるくらいですね。高等部にあがれば他にも幾人かは使えるようになるでしょうが。……要するに今からキリク君が学ぶのはそういう魔法です」

 そしてゼフィーリア先生が立ち止まったのは、本校舎から見て南にある泉がある広場。

 僕がこの魔法学校に初めてやって来た時に立った場所だ。

 そう、今から僕が学ぶのは、あの時にも使われた、旅の扉の魔法であった。


 この魔法学校に初めて来た時、エリンジ先生がそうしたように、旅の扉の魔法は生徒の送り迎えにも多用されている。

 決まった地点にのみとはいえ、長距離を、複数人数で移動できるこの魔法は、実に使い勝手がいい。

 旅の扉の魔法が使えれば、活動範囲は一気に広がるし、そりゃあこれを扱えるかどうかで一流か否かが分かれると言われるのも、ある意味で当然だろう。


「旅の扉の魔法は、三つの要素で構成されています。わかりますね?」

 ゼフィーリア先生の言葉に、僕は頷く。

 その三つの要素とは、一つ目は水鏡を出して、転移先の泉を視認する事。

 これが旅の扉の魔法の最も大きな特徴だ。

 各地に設けられた泉は、転移を助ける仕組みがある訳じゃなく、水鏡を繋ぎ易いように魔法が掛けられている。


 二つ目の要素は視認した先への転移なので、距離の長短を除けば、視界内に短距離転移する魔法と、それほど大きくは変わらない。

 転移する場所を見るというのは、移動の魔法の難易度を下げる非常に大きな要素だった。


 最後に三つ目の要素というのは、出した水鏡を扉に見立て、移動の魔法の対象を拡大、固定化するところにある。

 単に自分一人を転移させるなら、この三つ目の要素は必要ない。

 自分だけが視認した先に移動してしまえば終わりだろう。

 しかし水鏡を扉に見立てれば、それを潜った者を転移、移動させるって魔法に、効果を拡大できるのだ。

 これにより、旅の扉の魔法は複数の人を、或いは多くの荷物を、一度に運ぶ事ができる優秀な魔法となり得る。

 更に、これは多分に僕の想像が入るんだけれど、この魔法の優秀な所は、三つの要素を順番に練習できるところだった。


 先を見通す水鏡を出す魔法は、それだけを単独で練習できる。

 水鏡を出せれば、自分一人でその先に転移する魔法を練習できる。

 最後に、先の二つがスムーズに行えるようになれば、水鏡を扉と化す魔法に意識を集中して練習できる。


 つまり比較的ではあるが、長距離を移動する魔法の中では、練習が容易な部類なのだ。

 そしてこの旅の扉の魔法で長距離を移動するコツを掴めば、更に別の転移の魔法も、会得し易くなるだろう。

 旅の扉の魔法が生徒の送り迎えに多用されるのは、この魔法が便利だからというのはもちろんあるが、それ以上に有用性を生徒に強く印象付けたいからじゃないかと思えた。

 実際、僕もこの魔法に関しては強く意識をしていたし、何としても習得したいと考えていたから。


 いやまぁ、それでも尚、旅の扉の魔法を習得してる魔法使いが一部でしかないって事が、転移の魔法の習得難易度を証明してるみたいにもなってるけれども。


「理解をしてるなら宜しい。ではまず目の前の泉を映す水鏡を作りなさい。実物が目の前にあるならイメージは容易ですね?」

 ゼフィーリア先生は広場にある泉を指差してから、サッと杖を振って自分の目の前に水鏡を作り出す。

 泉の中から見上げてるかのような景色が映る水鏡を。


 実物が目の前にあるならイメージは容易、か。

 どうやらその為に、ゼフィーリア先生は僕をここに連れて来たらしい。

 そんな、口で言うほどに容易い事じゃないだろうけれど、……確かに何もわからない状態よりは、幾分かはやり易そうだ。

 これに成功すれば、次は離れた場所から泉に水鏡を繋ぐ練習だろうか。

 次に実際に転移して、最後に水鏡を扉と化す。

 一番難しいのはもちろん最後の水鏡を扉と化す部分だと思うから、今日中にこの魔法を習得したければ、こんなところでは躓けない。


 僕は意を決すると、強く目の前の泉と、そこに繋がる水鏡をイメージしながら、手にした杖を大きく振った。



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