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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
十章 忙しく過ぎる日々

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 帰郷していた生徒達が帰って来ると、夏期休暇も終わって後期の授業が始まった。

 初等部の二年生の後期はとても大切な時期で、多くの生徒はこのタイミングで高等部にあがった際に進む科を決定させる。

 本人の希望だけじゃなくて、これまでに調べた適性や、後期の試験の結果等も加味して、魔法学校側が進む科を決める場合もあるそうだから、これまではあまり成績を気にしてこなかった生徒も、この時期は多少は魔法の自主練習や学習に力を入れるそうだ。

 いや、まぁ、そんな土壇場でやる気を出しても割と遅くはあるんだけれど、それでもやらないよりはずっとマシか。

 尤も僕に関しては、希望はもう既に決まってるし、後期の成績が錬金術だけ異常に悪かったりしなければ、水銀科に進めるだろう。


 ただ基本的だが、黄金科、水銀科、黒鉄科の三つの科に、特に優劣がある訳じゃない。

 それぞれ古代魔法、錬金術、魔法陣を専攻、研究するけれど、それらに何らかの優劣がある訳じゃないからだ。

 今の校長であるマダム・グローゼルは黄金科の出身で古代魔法の使い手だし、前校長のハーダス先生は、黒鉄科の出身で魔法陣の達人だった。

 歴史を振り返れば、水銀科の出身の校長だっていただろう。

 そうでなくとも、水銀科の出身で、錬金術を教えるクルーペ先生は、他の教師陣から一目置かれてる節があるし。

 あぁ、いや、それは彼女が教師の中で、一際変わり者だからなのかもしれないけれども。


 さて、そんな風に黄金科、水銀科、黒鉄科の三つの科に優劣はないが、それでも最も多くの生徒が進むのは黒鉄科だ。

 何故なら、黒鉄科は魔法陣と同時に、戦闘学にも力を入れる科であるから。

 古代魔法、錬金術、魔法陣を専攻するだけの能力、熱意、才を、適性や成績という形で示せなかった生徒は、黒鉄科で戦いの術を磨く。


 基礎呪文学の範疇で学んだ魔法と、魔法の威力や規模を増幅する幾つかの基礎的な魔法陣の知識があれば、戦場では十分な脅威として機能する。

 別にボンヴィッジ連邦との最前線で戦わずとも、それができれば貴族に雇い入れられる事は可能なのだ。

 ウィルダージェスト同盟の中では、国同士の争いはないけれど、鉱物や森林等の資源、利水を巡っての貴族同士の小規模な戦いが珍しい訳じゃない。

 しかし魔法使いが一人いれば、その手の小規模な戦いは圧倒できてしまう。

 いや、そもそもどこかの貴族が魔法使いを雇い入れたと聞いただけで、周囲の貴族は勝てぬ戦いを避け、利を譲る事になる。

 故にある程度の戦いの技を学んでおけば、魔法使いはどこの貴族からも求められる存在になれた。


 成績が優れなかった生徒が黒鉄科に集められて戦いの技を教え込まれるのは、そういった理由があるのだ。

 立身出世を果たす手段としては、力こそが最も手っ取り早い手段だから。

 その未来が、楽しいのかどうかは別にして。


 ……あぁ、ちょっと話が逸れたから元に戻すけれど、そういった訳でこの二年生の後期は、魔法学校で過ごす五年間の中でも、比較的やる事の多い時期になるらしい。

 イメージ的には高学年になればなるほど忙しくなるように思うのだが、シールロット先輩曰く、寧ろ高等部では多くの時間を自分の好きに使えるようになるという。

 授業もあるにはあるけれど、選択式となるので全てを受ける必要はないし、研究室を与えられた生徒に関しては、授業よりも自分の研究を優先する事も許されるそうだ。

 もちろん、その分の成果は必要になるけれども。


 初等部の模擬戦や林間学校のように、イベントも幾つかあるそうだが、基本的には自分で時間の使い方を決める事を、高等部にあがると求められる。

 なので高等部の生徒は、忙しい人は多いけれど、彼らは自主的にその道を選んでいるのだ。

 シールロット先輩も忙しそうにしてる事が多いが、それは彼女が錬金術の研究が好きだからだろう。

 高等部も三年生だけは、卒業か大学へ進むか、また色々と選択を迫られるので忙しくなるらしいけれど、それは本当に魔法学校生活も最後の時の話だった。



「……ですので、初等部のイベントとして妥当なのは、皆さんが提出して下さった二案のうち、競技会の方だと判断しました。学外の人を招く事を想定した祭りは、どちらかといえば高等部向きの案なので、そちらでの採用を検討していますね」

 後期の最初の授業が終わった後、教室に現れたマダム・グローゼルが、僕らに向かってそう告げる。

 彼女は、この魔法学校の代表者にして、最も権力と責任を持った人だ。

 僕は、割と呼び出しを受けたりしたから、それなりに姿を見慣れてるけれど、他のクラスメイト達はそうじゃないから、突如として現れたマダム・グローゼルに戸惑いを隠せない様子。

 見た目は、柔らかな印象の笑みを絶やさない上品なお婆ちゃんって感じの彼女だけれど、それでも相対すると不思議と威厳に満ちてるから。


 あぁ、マダム・グローゼルが言っているのは、僕らが提出した模擬戦の廃止の要望と、代案のイベントに関してだった。

 どうやら、模擬戦の廃止の要望は、無事に通ったらしい。

 今、こうして二年生の後期が比較的だが忙しい時期なのだと聞かされると、模擬戦は、二年生にとって殆ど手間を掛けずに、自分達の実力をアピールする場ではあったのだろうなぁって、そう思う。

 尤も、その恩恵に与れるのはクラスの一部だけだし、またクラスの代表になれる生徒は、そんな機会がなくとも自分が望む道に進める筈だ。

 去年のように、代表を身分の高い生徒で固めてたりだとか、そういう事があった場合は、その限りじゃないのかもしれないけれども。


「魔法を絡めた競技を行うという案は非常に面白い物でしたので、是非とも採用させていただきたいと思いますが、問題は実際にどのようなルールで、どのような競技を行うかですね」

 提出した案は、僕が文化祭から思い付いた、外部の人を招待できるような祭りと、体育祭から思い付いた、魔法を用いた競技の二つだったが、どうやら採用されたのは後者だったらしい。

 まぁ、文化祭、もとい外部の人を招待するような祭りは、その準備に多大な手間と時間が掛かるから、進路を決める二年生の時期のイベントに不向きだと言われれば、……うん、それはその通りなのだろう。

 実際、魔法を用いた出し物をするなら、高等部の方が向いてるのは間違いない。

 高等部ならそもそも三つの科に分かれるから、出し物の数も増やせるし。


 でも魔法を用いた競技をするにしても、実際にどんな魔法を使い、どんな競技にするか。

 それは確かに必要だった。


「競技案は、一年生、二年生のそれぞれから提出して貰おうと思います。期限は一ヵ月程ですね。それで問題ない競技が作れれば、今年の後期はそれを行事として試しましょう。もしも納得いく競技ができなければ、例年通りの模擬戦を行います」

 でも実は、魔法を用いた競技をするって案を提出した時、大雑把にこういうのはどうだろうって、アイディアを幾つか添えてたんだけれど、マダム・グローゼルは、もっと詳細に僕らにそれを決める事を要求してる。

 言い出した以上は自分達で形にしろ。

 それができなければ例年通りに模擬戦をするって物言いは、まるで僕らを試すみたいだ。


「魔法学校の変革は、私としても望むところですので、皆さんがどのような案を出してくるのか、とても楽しみにしてますよ」

 改革って言葉を口に出すマダム・グローゼルは、どこか懐かしそうで、とても、そう、楽し気に見えた。

 多分、何度か会ってる僕と、それからシャム以外には、中々気付けないと思うけれど。


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