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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
九章 シールロットと夏期休暇

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「そうだね。じゃあ……、ここから近い北西の塔と、通れずの間辺りを見にいこっか」

 案内役のシールロット先輩は、少し考えてから今日の探索場所を決めてくれた。

 尤も僕は、その北西の塔やら、通らずの間が何なのか、さっぱりわからないのでただ頷くのみ。

 あ、いや、ちょっと嘘。

 北西の塔は、恐らく本校舎の北西、北東、南西、南東の四ヵ所に聳える塔の事だと思う。

 アレが何なのかは、外からじゃさっぱりわからなかったから、中が見られるというならそれは割と嬉しかった。

 シャムも異存はないようで、特に口を挟まない。


 同意を確認したシールロット先輩は、僕らを先導して歩き出す。

 本校舎の上層階も、基本的な造りは下層階、僕らも利用する一階や二階と変わらない。

 ロの字型の廊下があって、用途不明の部屋や教室が、生徒の数的に絶対にこんなには要らないだろうってくらいに、沢山あるだけである。


 けれども、もし仮に僕らがシールロット先輩の案内なしに上層階に踏み込んでいたら、……やっぱり迷っていただろう。

 下層階と上層階の大きな違いは、仕掛けられた魔法の数だ。

 そりゃあ下層階にだって魔法の仕掛けは色々とあった。

 僕も全部を知ってる訳じゃないけれど、誤って踏み込むと一分に一度出題される問題に正解するまで出られない空き教室や、目にすると猛烈な睡魔に襲われるベッドの置かれた部屋等、何の為にあるのかわからない魔法の仕掛けは幾つもある。


 まぁ、出題の教室は、基本的に初等部の一年生の授業で習う範囲の問題が出て来るし、一部の生徒は敢えて入って、試験前に問題を解いたりするらしい。

 もちろん勉強の効率で言えば、普通に勉強した方がずっといいから、僕はあんまり使った事はないけれども。

 他には、二階の謎の音楽室もそうだし、校長室やエリンジ先生の部屋の、勝手に開く扉も魔法の仕掛けか。

 但し下層階の魔法の仕掛けは、有益だろうと無益だろうと、扉を含む部屋に対して設置されており、自分から中に入る、或いは入ろうとしなければ、影響はない。

 要するに廊下を通るだけなら、下層階は安全なのだ。


 しかし上層階は……、先導してるシールロット先輩が、ガラリと空き教室の戸を開いて入り、中を通って別の戸から出る、なんて事が度々あった。

 何故なら廊下にも、そこを通ると発動する、ちょっと面倒な魔法の仕掛けが、幾つも設置されているからだ。

 それも、一年半も魔法を学んで、その気配に随分と敏感になった僕でも、言われて集中しなければ気付かないくらいに巧妙に隠された仕掛けが。


「さっきの廊下に掛かってるのは、前に進んでる心算でも気付かずにずっとその場で足踏みさせられる魔法でね。キリク君ならもしかしたら耐えて通り抜けられるかもしれないけれど、今日は時間も惜しいし念の為ね」

 なんて風にシールロット先輩は言ってくれるけれど、彼女の案内がなかったなら、僕はその魔法に引っ掛かって無為な時間を過ごしてたと思う。

 ちなみに短距離を転移する移動の魔法で、強引に廊下の仕掛けを飛び越えるって手もあるそうだが、今日は案内だからと、シールロット先輩は教室を通り抜ける方法で先導してくれてるらしい。

 恐らく僕が高等部にあがって、クラスメイトとこの上層階を訪れた時、転移の魔法を使えない誰かと一緒でも、ちゃんと歩ける方法を教えてくれる為に。


 そしてそんなシールロット先輩でも、上層階で安全に案内できるのは三階だけで、四階と五階の案内は難しいという。

 何故なら、四階と五階は、何かを学ぶ為に訪れる場所じゃなく、隠された何かを求めて探索する場所となるからだとか。

 特に五階は、踏み込めば中はもう学校とはまるで違う空間になっていて、生徒が相手でも襲い掛かってくる魔法の彫像や、更には魔法生物もいるという、下手に踏み込めば帰ってくる事ができないかもしれない、迷宮になっているそうだ。


「アレイシア先輩なんかは、五階にもたまに挑戦してるみたいだけれど、私は戦いとか好きじゃないからね。殆ど五階には入った事がないの。あ、でもこれから行く部屋は三階にあるし、塔も三階から直接登れるから安心してね」

 少しだけ申し訳なさそうにシールロット先輩はそう言うが、むしろ四階、五階に入れないのは、僕の身の安全を考えてくれてるからだろうから、そこに文句なんて少しもない。

 確かにシールロット先輩は実力者だけれど、彼女は常々戦いが得意じゃないと口にしてるし、戦いや探索をする時間があれば、錬金術の研究に費やす事も知っている。

 案内ができる範囲を先導してくれてるだけでも、十分過ぎるくらいだった。



 そうして暫く歩けば、シールロット先輩が通り抜ける為の教室じゃない部屋に入る。

 どうやらここが、彼女が先程言っていた、目的地の一つらしい。

 周りをぐるりと見回せば、そこは広い空間だった。

 教室と教室の間の、ごくごく狭い空間に付いてる扉なのに、中はグッと広くなってる。

 この魔法学校ではたまに出くわす、外と中の広さが全く違う部屋だ。


 床には縦と横が五メートルくらいの正方形が描かれてて、それがずらっとたくさん並んでた。

 ざっくりと数えると、縦が八個で、横も八個。

 つまり、この部屋自体も正方形か。

 ところどころ、床に描かれた正方形の中には黒い像が置かれてて、一番奥の壁には扉があった。

 他には、入ったばかりの一枚目の正方形には、床にプレートのような物が埋められてる。


「ここが通れずの間だよ。何でそんな名前が付いてるかって言うと、誰もあの奥の扉を開けられた人がいないから。どっちに向かって歩いても、扉の前まで転移の魔法を使っても、すぐにここに戻されちゃうの」

 そう言って、シールロット先輩は笑みを浮かべて僕を見た。 

 果たしてこの謎を僕が解けるのかどうかを、楽しみにしてるかのように。


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― 新着の感想 ―
[一言] チェス? ところどころに黒い像ってことは、初期位置ではなく。つまりは詰め将棋みたいな、チェス・プロブレムまたはチェス・コンポジションとかいうヤツかな?
[一言] チェス盤かぁ。
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