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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
七章 あまりに物騒な帰郷

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 二年生の前期も終わりが見えて来た頃に、林間学校の日はやって来た。

 僕の組は、魔法生物と戦った授業と同じく、クレイとパトラ、それからミラクとシーラ。

 もちろんシャムは何時も通りに、僕の肩の上にいる。


 クラスメイト達はゼフィーリア先生、ギュネス先生、タウセント先生の旅の扉の魔法で、ジェスタ大森林の近くにある隠された泉に移動した後、それぞれの組ごとに、教師に連れられてジェスタ大森林へと転移させられていく。

 別の組み同士が協力し合ったりしないよう、恐らくはバラバラに遠く離れた場所に。


 僕らをジェスタ大森林の中へと移動させてくれたのはゼフィーリア先生で、

「これは貴方達にとって、ウィルダージェスト魔法学校で初めて体験する大きな試練となります。ですが、しっかりと準備もしてるようですし、心配はなさそうですね」

 彼女は何時もと変わらぬ調子で、しかし激励とも称賛ともつかぬ言葉を口にする。

 実はここに居る全員、クレイにパトラ、ミラクにシーラと、それから僕も、全員が揃いの外套を身に付けていた。

 この外套は、この日の為に僕が作った、ちょっとした鎧並みの強度を備えた、魔法の道具だ。

 決して安い代物じゃないから、あげた訳じゃなくて貸し出してるだけなんだけれど、僕らがどれだけの準備をしてきたかの、目安となるには十分だろう。

 ゼフィーリア先生は組の仲間達の一人一人の顔を確認するように見回してから、僕に向かって一枚の紙と紐、それから札を三枚を手渡す。


 紙に記されてるのは、この林間学校で僕らが果たすべき課題だ。

 シールロット先輩曰く、課題の多くは指定の時間まで、ジェスタ大森林の中で過ごすって内容が多いらしい。

 ただ場合によっては、単に指定の時間まで生き延びるだけじゃなくて、特定の何かを手に入れる課題を課される事もあるという。

 その何かとは、ある魔法生物の素材だったり、或いはジェスタ大森林のどこかに隠された魔法の品だったりと、その時によって様々なんだとか。


 僕らが渡された紙には何か色々と書いてあるから、どうやら単にジェスタ大森林の中で生き延びるだけじゃなくて、他の条件を達成しなきゃならない面倒な課題を引いてしまった様子。

 要するに外れの課題って奴だった。


 まぁその内容は一先ずさておき、次に糸は、これは魔法の道具で、僕らが渡されたのは一本だけれど、実はもう一本対になった糸がある。

 この糸は、どちらか片方が切れてしまえば、もう片方も同じように切れるという、連絡用の道具だ。

 今回はジェスタ大森林の中で窮地に陥った時、ギブアップして助けを求める為の物だろう。

 尤もギブアップしてしまった場合、当然ながら成績に大きな影響があるので、可能な限り使いたくはない。


 最後に札は、これも魔法の道具で、一枚につき三時間、魔法生物を遠ざける守りの効果があった。

 これを使えば絶対に安全という訳ではないのだが、それでもかなり安心して、休息が取れるようになる。

 それが三枚だから、九時間は身体だけじゃなくて、心を休める時間を与えてくれるって意味だ。


「では私が居なくなった瞬間から、林間学校のスタートです。全員、怪我なく帰って来るように」

 ゼフィーリア先生はそう言うと、杖を一振りして姿を消す。

 転移の魔法で、……魔法学校に戻った訳じゃないとは思うんだけれど、少なくとも近くからはいなくなった。


 さて、林間学校はもう始まっている。

 ここから先は、どのタイミングで魔法生物が襲ってくるかはわからない。

 周囲は木々に覆われていて、見通しは殆ど利かない場所である。


「クレイはあっちを、僕は反対側を警戒するから、パトラはクレイ、ミラクは僕の補助をお願い。シーラ、この紙の内容を皆に読んで聞かせて」

 あんまり指図をするような事は言いたくないけれど、しかし誰かが場を主導しなければ、皆の行動が纏まらないまま、危険な時間を過ごす羽目になってしまう。

 僕の指示にクレイが真っ先に動いて、パトラにミラクもそれに続き、シーラが僕の手から課題の書かれた紙を受け取った。

 事前の授業で、既に何度も組んだ仲間だ。

 誰の動きにも戸惑いはない。

 

 クレイが、何事かを呟きながら杖を振る。

 今日の為に、彼が親しい付き合いのある上級生、アレイシアから教わったという、敵意を感知する古代魔法だろう。

 僕が林間学校に備えて、シールロット先輩に教わりながら色々な道具を用意してきたように、クレイはアレイシアから幾つかの魔法を教わっていた。


 知らない魔法は、間近で観察して僕も覚えたい。

 悪い言い方をすれば、盗んでしまいたいって気持ちはあるんだけれど、流石に今は、そんな事をしてる場合じゃないから、グッと我慢だ。


「課題内容は二つ。一つはジェスタ大森林の中で三十時間を過ごす事。もう一つはその間に、黒影兎の毛皮を一枚手に入れる事。……です」

 これから僕らがこなさなきゃいけない課題を読み上げたシーラの声には、少し動揺が混じってる。

 三十時間の滞在は、まぁ、問題ない。

 今は午前中だから、明日の午後、夕方辺りまでだった。

 休息用の札を三枚も、九時間分もくれたから、二晩はジェスタ大森林の中で過ごさなきゃいけないかと思ってたから、これに関しては随分と想定よりも緩いと言えよう。


 だが問題は、黒影兎の毛皮を一枚手に入れるって内容の方だ。

 黒影兎というのは、名前通りに兎の魔法生物で、影に潜んで逃げ隠れをする、自分からは人を襲わない臆病な性質の魔法生物である。

 ちなみに見掛けは、かなり可愛い。

 つまり僕らはこのジェスタ大森林の中で、こちらを襲う為に積極的に姿を現してくれる訳じゃない、逃げ隠れが巧みな魔法生物を、探し出して狩らねばならなかった。


 ……これは実際、かなり厳しい課題だろう。

 単なる獣ならともかく、影に潜んで逃げ隠れするような魔法生物を、ジェスタ大森林の中で捕捉するだけでも、一苦労は間違いない。

 更に敵意のない相手を、しかも見た目の可愛い兎を、狩る事への心理的抵抗感の強い仲間が、この組には幾人かいる。


 さて、一体どうしようかなぁ。



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