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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
七章 あまりに物騒な帰郷

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 一年生から二年生になり、基礎呪文学から基礎の文字が取れて呪文学になったけれど、それで具体的に何が変わったのかといえば、習得できない魔法があって当たり前というスタンスになった事だろう。

 もう少し具体的に言うと、一年生の頃はクラスメイトの全員が同じ魔法を教えて貰えた。

 習得度合いに差はあれど、基礎呪文学の範囲の魔法は、努力次第で身に付けられる。

 担当教師のゼフィーリア先生は常々そう口にしてたし、実際、補習なんかはあったみたいだけれど、クラスメイトの全員が、一年生で教えられた魔法は習得済みだ。

 自由自在に扱えるとまでは言い難くとも、ゆっくりと詠唱を口にして、イメージをしっかり固めれば、一応はその魔法を使う事ができていた。


 けれども二年生の授業、呪文学では、魔法の教え方が全く変わる。

 基礎呪文学では全員が同じように魔法を教えて貰っていたけれど、呪文学では前提条件を満たさなければ、新たな魔法は教えて貰えない。


 例えば、呪文学で習うようになった魔法に、移動の魔法があるのだけれど、この系統で最初に習うのは、

『我が身よ、羽根の如く運ばれよ』

 との詠唱で発動する、己の身を軽くして、高くまで、或いは遠くまでふわりとジャンプする魔法だった。

 そしてこれを習得しなければ、次の魔法である、

『我が身よ、跳ぶが如く地を駆けよ』

 という、地を駆ける速度を大幅に増す魔法は、教えて貰えないのだ。

 それどころか移動の魔法に関しては、次も、その次も教わる事はできなくなってしまう。

 前提となる魔法を習得するまでは、他のクラスメイトが次の魔法を教わっていても、我慢して復習に励むしかない。


 そう、二年生で学ぶ呪文学からは、もう基礎の文字が外れてる。

 これは、教えられる魔法を、誰もが扱える訳じゃないって事を意味してた。

 いやまぁ、元より魔法は誰もが扱える訳じゃないんだけれど、この魔法学校に招かれる、魔法使いとしての才能を認められた生徒であってもって意味だ。

 実際、移動の魔法の中でも基礎だと言われた、己の身を軽くしてジャンプする魔法も、初回の授業で習得できたのはクラスメイトの一割に過ぎず、それから二か月余りが経った今でも、習得率は三割に満たない。

 ゼフィーリア先生曰く、二年生が終わるまでにこの魔法の習得率が五割を越えれば、その学年は優秀なんだとか。

 つまりそれくらいに、二年生で学ぶ魔法は難易度が高かった。


 ただ、この二年生で学ぶ魔法は、必ず習得しなきゃ卒業できないって訳じゃない。

 実のところ、基礎呪文学で学んだ魔法に加えて何らかの秀でたところが一つでもあれば、ごく一般的な魔法使いとしては十分に認められるという。

 移動の魔法が使えずとも、攻撃に関する魔法が得意ならそれで構わないし、移動も攻撃も、防御だって苦手でも、錬金術で魔法薬を上手く作れればそれで構わないのだ。

 僕らは、たかが一年学んだ程度だから、まだまだ習得した魔法を十全に扱えるってレベルには程遠い。

 けれど何もわからなかった入学したばかりの頃に比べれば、一人前の魔法使いというゴールの輪郭くらいは、おぼろげながらに見えて来たんじゃないだろうか。



 でも、取り敢えずそういう前置きはここまでにして、今日はとても重要な魔法を教わる日だった。

 それは僕が一年の頃、といっても後期の終わりの頃からだけれど、とても学びたかった魔法である。

 一年生の後期で目にした魔法といえば、そう、模擬戦で二年生の代表たちが使っていた、短距離転移の魔法だ。


「キリク君、ガナムラ君、今から教える短距離転移は、転移の魔法の一つ目よ。転移は移動の系統でも特に難しいから、心してかかりなさい」

 ゼフィーリア先生が口にしたのは、僕と、僕の友人の一人であるガナムラ・カイトスの名前。

 僕はこれまで、呪文学になってからも全ての魔法を教わった授業の間に習得しているが、ガナムラもまた、移動の系統の魔法に関しては、教わればその授業の間か、或いは放課後に訓練場で練習して、次の授業までには習得していた。


 どうやらガナムラには、移動の系統に関しては感覚を掴むのが上手いみたいだけれど、それ以上に、何やら強い思い入れもあるらしい。

 ……確か彼の生家は、サウスバッチ共和国の船乗りの家だったが、それと何か関係があるのだろうか?

 船の上という空間では、移動の魔法はあまり用はなさなくて、むしろ帆を押す風の魔法の方が、役に立ちそうな気もするのだけれど。

 あぁ、でもガナムラは、風の魔法も得意にしてたっけ。


「詠唱する呪文は、『我が身よ、そこに在れ』です。最初は自分の正面を目標地点に、移動したい場所をしっかりと見据えて、自分の身が瞬時に移動するイメージを持ち、自分の身がそこに在って当然だと考えて、呪文を唱えなさい」

 まぁ、ガナムラの事は今はいい。

 僕にとって大切なのは、短距離転移の魔法の習得だ。

 短距離転移の魔法はそれ自体が有用だが、これを無事に習得すれば、旅の扉や、他の長距離を転移する魔法、契約を交わした魔法生物を引き寄せる魔法にも、一歩近づく。


 だけど……、うん、難しいな。

 僕は肩のシャムを地に下ろしながら、内心で首を捻った。

 自分の身が瞬時に移動するイメージと、自分の身がそこに在って当然だと思い込む事が、僕の中で相反していて中々に纏まらない。

 移動しなきゃいけないのに、その先には既に自分がいる?

 でも詠唱の文言から考えると、単なる速い移動と転移をわけるのは、その、既に自分がそこに在るって確信なのだろう。


 地から見上げるシャムの視線に、僕は一つ頷いた。

 彼を下ろしたのは、念の為だ。

 僕は殆どの時間をシャムと一緒にいるから、短距離転移の魔法を実用しようと思うなら、彼ごと移動するのが必須となる。

 しかしそれでも、やっぱりまずは自分一人で転移ができるようになってからじゃないと、危なっかしくてシャムを練習には巻き込めない。


 ちらりと横目でガナムラを見ると、彼もイメージの構築には手間取ってる様子。

 別に先に習得した方が偉いって訳じゃないけれど、競う相手がいると何となくだが、気合も入った。


 もう少し、柔軟に考えてみるとしよう。

 これは何というか、あちらに向かって移動する魔法だって考えが囚われてるから、ややこしくなってる気がするのだ。

 既に自分がそこに在るって思う事が重要なら、まずはそれを軸とする。

 すると目的とする場所には自分が在って、だけど僕は今ここに居て、この矛盾を解決するには……、あちらに移動すれば良い。

 在るべき場所に引き寄せられるように、素早く、一瞬で。


 つまりこの短距離転移、いや或いは転移の魔法自体が、この場所からどこかに移動する魔法じゃなくて、在るべき場所に自分を引き寄せる魔法なんじゃないだろうか。

 もっと具体的に言うなら、目的の場所に無事に転移して立ってる自分を想起し、そのイメージに対して現実を近付けるように発動する。 

 既に成功してる自分をイメージする事は、他の場所に誤って転移してしまう可能性を排除するだろう。

 このイメージが正しいのかどうかはわからないが、しかしそう考えると僕の中での矛盾は解かれ、

「我が身よ、そこに在れ」

 口は淀みなく呪文を唱え、手は自然と杖を振ってた。



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