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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
七章 あまりに物騒な帰郷

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 しかし魔法生物と戦う訓練に来たのだから、ハーピーに襲われそうで危ないからって、避けて通ろうとか、帰りましょうとは当然だけれどならなかった。

 むしろ相手が襲ってきてくれるなら好都合とばかりに、

「よし、最初の相手は、あのハーピーになる可能性が高い。幸いにもこの場所でなら対処法を相談できるから、お前達で考えろ。方針が決まったらここを離れるぞ」

 ギュネス先生は僕達にハーピーと戦うようにと指示を出す。

 どうやらハーピーくらいの脅威では、戦い方の指示をしたり、手本を見せてくれたりはしないらしい。


 今回は自分達で考えて、相談する時間が十分にある。

 これはとても恵まれた状況だ。

 戦い方を決められるのもそうだけれど、事前に心構えを作れるところが大きい。


「ハーピーの厄介な所は空を自在に飛ぶ事だ。単純に撃ち落とすのは難しいと思う。だから何らかの方法で落とすか、向こうが攻撃の為に降りてきたところを狙い撃ちにするかだと思うんだけれど、どうだろう?」

 真っ先に意見を口に出したのは、僕の友人でもあるクレイだった。

 今回の五人の中には、僕の友人が二人いる。

 一人は先程も名前を挙げたクレイで、残る一人はパトラだ。


 三十人の中から選んだ五人に、友人が二人も入っているのは、恐らく偶然ではないだろう。

 一年生の時、上級生との模擬戦に出た五人はバラバラに組分けされた事から考えて、グループの戦闘学の成績が平均的になるようにされていた。

 その上で連携も取り易いよう、相性の良い、仲の良い生徒を集めてるんだと思う。


 ちなみにクレイは代表に選ばれる程ではなかったけれど、戦闘学も成績は上位の部類だ。

 逆にあまり戦いが得意ではないパトラと組み合わせると、丁度クラスの平均くらいになる。

 残る二人は、ミラクとシーラという名前の女子で、ミラクの成績は大体クラスの真ん中辺りだが……、シーラに関しては戦闘学はクラスメイトの中でも断トツで苦手としていた。

 今の二年生で最も戦闘を得意とするのは僕だから、シーラと組になるのは当然だ。

 パトラが戦闘学を苦手とするのは、相手を傷付ける事を躊躇うからだが、シーラに関してはそれに加えて気も弱いし、運動神経もかなり鈍い。


 僕は、別にそれが悪いとは思わないが、今、この場においては、彼女に任せられる役割は非常に限られている。

 とはいえ授業で、魔法生物と戦う訓練に来ているのに、戦いを得意とする僕やクレイだけで片付けてしまうのは、非常によろしくないだろう。

 ……戦いを苦手とする生徒にまでそれを強いるのは、僕はあまり好まないけれど、魔法使いが戦う力を必要としてる状況は、もう何となく察しが付く。


「直接落とすのは難しいし、失敗した時の反撃が怖いね。だから、ちょっと役割分担しようか。えっと、具体的にはね……」

 だから僕は、パトラはもちろん、ミラクとシーラにだって今回の授業で戦いの経験を積んで欲しい。

 彼女達が本心から乗り気ではなかったとしても、それでもだ。

 経験を切っ掛けに、戦う力の成長が起きれば、それはやがて皆の身を護る事に繋がるかもしれないから。

 余計なお節介かもしれないけれど、この初戦はできるだけ良い形の、成功体験にしたいと思う。


 僕の提案に、ミラクとシーラはとても驚いていたけれど、クレイとパトラは僕がそう言い出すとわかっていたのか、特に反対はせずに受け入れてくれた。

 さて、では方針も定まったところで、ハーピー狩りといってみようか。



 安全地帯を出た僕は、呼吸を整え、空を見据える。

 空を飛ぶハーピーの数は全部で五匹で、向こうも既に僕らを見付けているだろうけれど、すぐに襲い掛かって来ないのは、こちらを推し量っている心算なのかもしれない。

 交渉は不可能だと聞いていたから、勝手に知能は低いと思い込んでいたけれど、それでも並の獣と同等か、それ以上の頭は持っているのだろう。


「火よ、灯れ。更に広がり、炎となって放たれよ。そして我が敵を撃て!」

 杖を翳して放つのは、繋がりを持たせた炎の魔法。

 戦いの場では僕が多用しがちな魔法だが、手っ取り早く火力を出すには、やはりこれが適してた。

 尤も空を自在に飛ぶハーピーに放った炎が命中するかといえば、それはちょっと難しいんだけれど……、

「炎よ、弾けろ!」

 放った後も繋がりを維持したままにしておいた炎を爆発させれば、熱と衝撃と爆風が、避けた心算だったハーピーを二匹飲み込む。


 すると僕の存在に脅威を感じたハーピー達が、次の魔法の準備が整う前にと四方八方、……もとい残りは三匹だから、三方から蹴爪を翳して急降下して来る。

 しかし当然、そうなる事は予測済みだ。

 幾ら僕が魔法が得意だからって、一発の魔法で全てのハーピーを落とせるとは、幾らなんでも思っちゃいない。

 そもそも、僕が一人で全てを片付ける心算なんてなかったし。


 急降下してきたハーピーの蹴爪が僕、或いは肩のシャムに突き刺さる前に、展開された魔法の障壁がそれを受け止めた。

 だがその障壁を展開したのは僕じゃなく、後ろにこっそりと潜んでたクレイである。

 僕を含むように周囲に展開された障壁、貝の魔法は、ハーピーが三匹でかかったところでびくともしない。

 一緒に囮をする事になったクレイの表情はちょっと引き攣っているけれど、魔法の効果は確かだ。


 後は、そう、空から地に降りて来てた、途端に的となってしまったハーピーを、離れた場所で伏せていたパトラ、ミラク、シーラの三人が魔法で仕留めるのみ。

 彼女達も、僕とクレイが襲われてるこの状況では、流石に攻撃を躊躇いはしない。

 いや、躊躇ってる暇がない状況に敢えて追い込んだというべきか。

 三人の放った魔法の矢は狙い違わず、……まぁ、仮に外したとしても僕らは貝の魔法で守られてたから誤射も怖くはないけれど、そんな事にもならずに、それぞれ一匹ずつのハーピーを貫き葬った。


 初めての魔法生物との戦闘にしては、上手くいった方じゃないだろうか。

 もちろん今日の授業はまだ始まったばかりで、僕らはもう幾度かは、魔法生物と戦う事になるのだろうけれども、良いスタートは切れたと思う。



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