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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
七章 あまりに物騒な帰郷

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 ポータス王国からみて南西に広がる森林地帯、それがジェスタ大森林と呼ばれる場所だ。

 ジェスタ大森林は、ポータス王国やその周辺国家の領土内にも数多く存在する森とは、全く異なる場所だった。

 多くの森は、程度の差はもちろんあるけれど、幾らかは人の手が入り、管理がされているだろう。

 奥深くまでは立ち入れずとも、外周部では木々を切ったり、狩人が中ほどまで入って獣を狩ったりして、人は森から資源を得ている。


 しかしジェスタ大森林はそれらの森とは全く異なり、人の管理が及ばぬ場所とされていた。

 何しろ、まずあまりに規模が大きくて、それこそ面積は大きな国にだって匹敵するというか、上回るくらいだ。


 そこに棲む生き物は魔法生物が多く、並の人間が立ち入ろうものなら、生きて帰る事は難しい。

 いや、そもそもジェスタ大森林に踏み入る前に、出てきた魔法生物に襲われる可能性の方がずっと高いか。

 ジェスタ大森林に近い辺境と呼ばれる地域では、人里が魔法生物の襲撃で滅びるなんて話も、決して珍しい訳じゃなかった。


 故に辺境の領主は兵を揃えて町の防備を固めるし、村も自分達で自警団を組織したり、魔法生物との戦いに慣れた傭兵を雇ったりしてる。

 尤も魔法生物の襲撃は必ずしも悪い事ばかりではなくて、返り討ちにした魔法生物の素材は高く取引されるから、危険な場所に住むだけの見返りは十分にあるのだ。

 実際、傭兵の一部には襲撃を待たずにジェスタ大森林の近くで魔法生物を狩り、大金を稼ぐ者もいるらしい。

 欲をかいて、ジェスタ大森林にまで踏み込もうものなら、ベテランの傭兵でも戻っては来ないそうだけれども。


 そうしたジェスタ大森林の近くで魔法生物を狩る傭兵の事を、命知らずの冒険者なんて風にも呼ぶそうだ。

 魔法生物との戦いは、人間同士の争いに加わるよりも命を落とす危険性が高く、また遺体の末路も悲惨な物となる。


 さて、そんな危険の多いジェスタ大森林なのだけれど、二年生の魔法生物学の授業では、この場所で魔法生物と戦う訓練を行う。

 二年生の前期で最も大きな行事は、このジェスタ大森林の中を数日間、数人のグループで生き残る林間学校だ。

 しかし流石の魔法学校でも、生徒を何の準備もなくジェスタ大森林に突っ込ませたりはしない。

 まずは魔法生物学の授業で、ジェスタ大森林の付近、次に外周部と、まだしも危険度の低い場所を教師の引率で訪れて、魔法生物との実戦を学ぶ。


 ただ当たり前なんだけれど、流石に三十人のクラスメイト全員が、一度にジェスタ大森林の付近に来るのは目立ち過ぎる。

 人間相手なら、魔法でどうにだって誤魔化せるだろうけれど、魔法生物が相手の場合はそう簡単な話じゃない。

 数の多さを警戒して、弱い魔法生物は近付いて来なくなるし、逆に多数で一気に襲い掛かってくる危険もあった。


 故に教師が引率するのは、一度に五人ずつ。

 二年生の生徒は三十人いるから、二十五人は教室でタウセント先生の座学を受け、五人のみが戦闘学の教師であるギュネス先生の移動の魔法で、ジェスタ大森林の付近へと転移する。

 そして今日は、僕がそのジェスタ大森林の付近へと転移する五人に含まれる日だ。



 旅の扉の魔法を抜ければ、そこはジェスタ大森林の近くにあるという、秘密の泉。

 魔法で隠蔽と防護が施されていて、人や獣だけじゃなく、魔法生物も近付かないようにしてあるらしい。

 泉の周囲は石で固められていて、三つの石像に囲まれていた。

 魔法学校にある旅の扉の泉とよく似た光景に、ここが安全地帯である事は一目でわかる。

 尤も、この魔法の隠蔽と防護を潜り抜け、この場にやって来れる危険な相手を、僕は一人だけ知っているけれども。


「さて、最初に言っておく。魔法生物との戦いは、魔法使いでも負ければ死ぬ。戦闘学の授業でやってる模擬戦と違って怪我じゃ済まん。だから決して侮るな。ふざけるな。勝手な行動を取るな。何か気付いた事があれば、すぐに伝えて全員に共有しろ」

 引率のギュネス先生が、ここにやって来て真っ先に、そんな言葉を口にした。

 もちろん僕らもそれはわかっていたのだけれど、それでも魔法学校から屋外に、見知らぬ場所に連れて来られて、気分が浮き立っていなかったと言えば嘘になるだろう。

 ……特に僕は、シャムもそうなんだけれど、ここは故郷の近くでもあるし。


 しかし戦闘学という魔法学校でも特に怪我の多い危険な科目を受け持ってるギュネス先生が、ジェスタ大森林の近くは自分の授業よりも遥かに危険なんだと口にした事で、皆の顔色はハッキリと変わる。

 この泉の近くは安全地帯だとしても、少し離れればその隠蔽と防護の恩恵も消えてしまう。

 空を見上げれば、鳥にしては大きな影が、幾つも舞っているのが見えた。

 よくよく観察してみると、その影は鳥にも人にも見える。

 恐らくあれは、半人半鳥の魔法生物であるハーピーだ。


 タウセント先生に教わったけれど、ハーピーは上空から獲物を見付けると、急降下して鋭い蹴爪で引き裂いたり、掴んで持ち上げて、上空から落として獲物を仕留めるらしい。

 そしてその獲物には、もちろん人間も含まれる。

 人に近い姿をしてはいるけれど、多くの個体は言葉を理解する程の知能は持たず、交渉は不可能だ。

 けれども一部の個体は、突然変異なのか、それとも上位種なのかは不明だが、頭が賢く、人と意思の疎通が可能であり、また翼をはためかせる事で強風を起こす力を持つという。


 流石に突然変異や上位種がそこらにポンポン居たりはしないだろうから、上空を舞っているのは普通のハーピーだと思うけれども、僕らがこの安全地帯である泉から離れれば襲ってくる可能性は高かった。

 ジェスタ大森林の近くというのは、つまりそういう場所なのだ。


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