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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
六章 二年生

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 魔法生物に関しては一年生の魔法学でも習ったのだけれど、二年生の魔法生物学では、それをより詳細に、実践的に学ぶ。

 いや、実践的というか、実戦的といった方が正しいだろうか。


 そう、魔法生物学の授業では、魔法生物の特徴、生態、脅威となる能力だけでなく、過去にその魔法生物が引き起こした事件や、更には具体的な戦い方も学ぶ。

 例えば、ラミアは洞窟や廃墟に棲み付く、上半身は人間の女で、下半身が蛇体の魔法生物だ。

 その姿の通りにメスしかおらず、人の生き血を好む。

 卵生であり、卵の孵化には人の精を必要とする為、人間の男性がラミアに捕まると、精と生き血を絞り啜られるという。


 女性を捕まえる事はせず、その場で血を啜って食い殺すらしい。

 また小さな子供に関しては餌とは見做さず、親身に育てる事があるそうだ。

 その場合、成長した子供を殺す事はなく、密かに人里に返すのだとか。


 基本的には人に害をなす魔法生物だが、知能は高く、交渉の余地はある。

 人の生き血を好みはしても、それがなければ生きていけぬという事もないそうで、縄張りに迷い込んだ人間はともかく、わざわざ人里近くまで襲いに来るケースは殆どない。

 要するに、ラミアは安易に人に害を成せば、集団で報復を受けると理解してる魔法生物だった。

 普段は兎等の小動物の血で、喉を潤し渇きを癒す。


 敵対した時の脅威度は高い。

 まず単純に膂力が強く、特に蛇体の下半身は牡牛も軽々と絞め殺す力と長さがあった。

 他には魅了の力も持っており、その外見と相俟って、特に異性である男性を自らに好意的にさせるそうだ。

 言葉を操り、人を騙せる高い知能がある事も、その魅了の力をより厄介なものとしている。

 また闇の中を見通す、熱を視覚として捉える能力も備えており、足音を立てる事なく移動するラミアは、まさに生来の暗殺者なんだとか。


 ラミアと敵対した際の対処は、近寄らない、近付かせない。

 遠距離攻撃の手段を持たないラミアに対しては、距離を保つ事が、最大の対処法だった。

 下半身が蛇体のラミアは、人が予測もしない動きを取るし、リーチも長く読み辛いが、それでも手や尾の届く範囲は限られている。

 相手の動きに惑わされず、常に距離を保ちさえすれば、魔法使いが有利に戦う事ができるだろう。

 故に不意打ちを受けず、言葉に惑わされず、魅了の力も無視すれば、ラミアも無理に魔法使いを襲おうとはしないそうだ。


 ……そんな内容を、魔法生物学の授業では教わっている。

 なんでも十分に座学を学べば、ジェスタ大森林の付近にまで遠征して、実際に襲ってくる魔法生物と戦う校外学習、林間学校なんかもやるらしい。

 まさかジェスタ大森林で、僕の故郷でそんな事が行われてたなんて、ちょっとびっくりだ。

 尤もケットシー達の村は、ジェスタ大森林の中でもかなり奥の方になるから、入り口近くで騒いだ程度では、気付けなくてもしかたないのだけれども。


 だけど、もしかしてエリンジ先生が僕の事を発見したのって、その林間学校の下準備に影靴が動いてたから、とかなんだろうか。


 

「さて、ラミアはこのように交渉が可能な魔法生物じゃが、その交渉は決して安全ではない。話をする事そのものに魅了の危険性があるからの」

 魔法生物学の担当であるタウセント先生は、ひとしきりラミアに関して教えてくれた後、そう言った。

 ちらりと、一瞬だけ僕の方に視線を向けてから。


 ……エリンジ先生に、僕とシャムで魔法生物との契約を目指すと伝えたのは、昨日の事だ。

 或いはエリンジ先生から、タウセント先生に、何らかの話を伝えてくれてるのかもしれない。

 何しろ、丁度ラミアの話をしてくれるくらいだし……。


「交渉可能であるという事と、安全かどうかは全くの別物じゃ。交渉が全く不可能でも、臆病で、決して人に手出しをしない魔法生物もいれば、交渉は可能でも、契約がなければ遠慮なしに人を害する魔法生物もおる」

 なるほど、それはそうだろう。

 人は交渉ができるとなると、安全な印象を抱きがちだが、それは全くの間違いだ。

 寧ろ会話が可能な高い知能は、敵対した時にはより深刻な脅威となる。


 言葉が通じるのと、話が通じるのは、全く違う。

 そもそもの話をする前に、圧倒的な力を見せる必要がある相手だって、当然ながらいる筈だった。

 人同士だって、力を背景にしなければ話が成り立たない事なんて、今の世界でも前に生きた世界でも、無数にあるのだから。


「もしも魔法生物との交渉、それから契約を望むなら、大切なのはその魔法生物を詳しく知る事と、その上で相手をよく観察する事だの」

 淀みなく、タウセント先生は説明を続けてくれている。

 今の時点で魔法生物との契約を望んでる二年生は、僕以外にいるのだろうか。


「人と魔法生物の価値観は違う。そして人の性格がそれぞれ違うように、同じ種の魔法生物でも個体ごとに性格は違う。ここを理解せぬと交渉にすらならんでな」

 この日の授業は、そんな言葉で締めくくられた。

 あぁ、人と魔法生物の価値観の違いは、確かに大きい。

 僕が共に暮らしたケット・シー達も、人とは全く違う価値観を持っている。

 シャムはできる限り僕に合わせてくれているけれど、それはあくまで例外だ。


 僕は席を立ち、一つ大きな息を吐く。

 学ぶべき事は、まだまだ多い。


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