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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
六章 二年生

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 魔法史とは、人が紡いできた歴史に、魔法がどう関わってきたのかを学ぶ科目だ。

 一年生の一般教養では、算術や筆記の授業もあったけれど、歴史を教える事に対して多くの時間が割かれてた。

 それは恐らく、魔法史を学ぶ為の下準備だったのだろう。


 人は過去に学び、顧みて、己の視座を高くする。

 故に歴史を知る事はとても重要だ。

 例えば、多くの小国を攻め、力で征服した大国が、相次ぐ反乱に国力を低下させ、滅亡した。

 これは何故か。

 支配した地の民に対して圧政を敷いて反感を買ったからか。

 それとも支配した地の民に対する支配が緩く、反乱する余力を残してしまった為か。


 当時に生きる人々には、一部を除いて、それを知る事はできなかっただろう。

 しかしその当時から先の未来、今を生きる僕らは、過去に何が起きたかを知れる。

 そして、それが何故、どうしてそうなったのかを考察すれば、同じ過ちを避けられるかもしれない。


 いや、まぁ、僕が国主となって他国を支配する事なんて、多分ないとは思うんだけれど、今暮らしてる自分の国の未来を予想すれば、不幸に備え、避けられる可能性は、間違いなく高まる筈だ。

 僕は歴史を、そういうものだと思ってる。


 ただこの世界では、そういった人が紡ぐ歴史、生活の積み重ねを、簡単に揺るがし、壊してしまう強い力が存在していた。

 そう、魔法である。

 これは別に、魔法使いが世界を陰から動かそうとしてるとかって話じゃない。

 あぁ、いや、そういうケースも確かにある。

 先の例に挙げた大国が滅亡したのは、実は王を傀儡としていた邪悪な魔法使いとその一党を、他の強い魔法使い達が力を合わせて排除したからだったなんてオチだ。

 その大国があった地域では、未だに魔法使いへの嫌悪感が強いらしい。


 だが強力な魔法生物がある日、突然、国を亡ぼしたり、逆にそうした魔法生物が打ち倒される事でその地が人の手に戻ったりって、実に理不尽でファンタジーな話も、魔法史では学ぶ。

 そしてその一つに、特別な剣を手に、単身で敵軍に立ち向かい、それを殲滅して自らの国を興した建国の王の話がある。


 建国の王は魔法使いではなかったが、魔法生物の一種、ドラゴンの牙から研ぎ出した剣を手に、魔法を使う事ができたそうだ。

 尤もその魔法は、僕らが使うような技術化、体系化されたものじゃない。

 一振りでより大勢の敵を切り倒す事を望み、斬撃の範囲を拡大させた。

 より素早く敵軍の只中に切り込める事を望み、馬よりも早く地を駆けた。

 僕らが知り、使う魔法よりも、ずっと洗練されず、荒々しい魔法である。

 その王はドラゴンの牙を発動体に、魂の力で強引に理を塗り潰して、魔法使いというよりも、むしろ魔法生物のように戦ったという。


 なんでも、魔法を使う人は、魔法使いだけじゃないらしい。

 例えばなんだけれど、遥か東に存在する国は、トレントという動く樹の魔法生物の枝から削り出した木刀を使い、鉄をも容易く切り裂くサムライと呼ばれる集団が守護してる。

 他にも、各地に似たような存在は、数が多い訳じゃないが、存在してる。


 僕は、意味合い的には、魔法を使う人は全て魔法使いでいいと思うのだけれど、違うそうだ。

 魔法を最も上手く、多彩に扱えるのはやはり魔法使いで、他とは違うって自負が、魔法使いにはあるらしい。

 またサムライも、自分達の扱う技は研ぎ澄ました剣技の果てにあるものだからと、魔法使いと呼ばれる事を嫌うのだとか。

 魔法生物の肉体を発動体とし、魂の力で世界の理を書き換えるって理屈は、何も変わらない筈なのだけれども。


 まぁ、そのように、この世界の歴史には、魔法生物、魔法使い、魔法使いではないが魔法を使う人々が、幾度も大きな影響を与えていた。


「もちろんそれは、魔法に縁も所縁もない人々にとっては、たまった話ではないだろう。目を閉じ、耳を塞ぎ、認識を拒みさえするかもしれない」

 魔法史を教えてくれる、去年は一般教養の教師だったヴォード先生は、そんな言葉を口にする。

 一般的に知られる歴史と、魔法使いが知る歴史は、ほんの少しの違いがあった。

 それは、魔法使いが世間への影響を考えて真実を伏せたり、或いはそれに関わってしまった、魔法に縁のない人々が、思い出したくもないからと口を閉ざしたりしたからだ。


「けれども私達、魔法使いは、それが許されない当事者だ。故に過去に学び、これからの私達の振る舞いに、反映させる責務がある」

 去年は淡々と、非常にドライな態度で一般教養を教えてくれていたヴォード先生だけれど、魔法史の授業では声に時々熱を帯びさせる事があった。

 一般教養で習った歴史はともかく、魔法史の当事者は、確かに僕達魔法使いである。

 過去の魔法使いの行いが、いかに傲慢で、凄惨でも、逆に直視し難い程に清廉でも、目を閉じて、耳を塞ぐ事は許されない。


 学ぶ歴史は、千二百年分。

 何故ならそれ以前の文明は、大破壊の魔法使い、ウィルペーニストが破壊し尽くしてしまったから。

 今となってはそれより昔の事はわからない。

 つまり今わかってる歴史は一ページ目から、魔法使いの引き起こした、魔法に関わる事件で始まる。


 いや、古代魔法を研究してる魔法使いがいるのだから、幾らかは判明してはいると思う。

 しかし今の僕らには、まだ明かされるような話じゃなかった。


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