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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
一章 ウィルダージェスト魔法学校
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 授業が終わった後、クラスメイトに囲まれて質問攻めにされそうになったけれど、やって来たエリンジ先生に助け出されて、寮へと向かう。

 クラスメイトも、僕が新入生だからって色々と気遣ってくれたんだとは思うけれど、やっぱり一度には覚えられないから、少しずつ仲良くなっていきたいところだ。

 まずは、席の前後や隣の生徒辺りから。


 ウィルダージェスト魔法学校には、寮が四つ存在してる。

 一つは初等部の生徒が寝泊まりする、卵寮。

 他の三つはそれぞれ黄金科、水銀科、黒鉄科の生徒が寝泊まりする、黄金寮、水銀寮、黒鉄寮だ。

 どの寮も食堂や浴場等の設備があって、更に生徒の身の回りの世話は、魔法人形がしてくれるという、至れり尽くせりの環境だった。


 僕は初等部なので、向かう先は当然ながら、卵寮。

 初等部の間は、皆が魔法使いの卵だからと、こんな名前になってるのだろうか。


 そしてエリンジ先生に案内されたのは、卵寮の食堂だった。

 あぁ、そういえば朝にパンを少し食べたきりだから、随分とお腹は空いている。

「ここでの注文の方法は独特でね。馴染みがなかろうから、今日は私と一緒に食べようか。他の事はゆっくり覚えれば良いが、食事だけは欠かせないからね」

 なんて言って、エリンジ先生は笑う。

 僕はエリンジ先生の、こういった考え方は大好きだ。


 ただ、確かにケット・シーの村では食事を注文する事なんてなかったが、この食堂の使い方は見れば何となくわかる。

 だって入り口に置かれているのが、紛れもなく券売機なんだもの。

 電気もないこの場所で、どうやって動いてるのかと考えたら、そりゃあ魔法の力なんだろうけれど、……違和感が凄い。


 ときにこの魔法学校に来て、少し疑問に思った事がある。

 魔法は、魂の力で理を塗り替えて望む現象を引き出すと教わったが、この魔法学校には、あまりに魔法に由来する何かが多かった。

 この券売機もそうだけれど、生徒の身の回りの世話をするという魔法人形や、勝手に開くドア、警備を担う生きた彫像……等々。

 あれらは一体、誰の魂の力で動いているのか。


 僕はエリンジ先生に倣って券売機を使い、出てきた木札を取ってテーブルに着き、その事を問うてみた。

 あ、券売機とは言ったが、別に食券を買った訳じゃなくて、食堂での食事は、魔法学校の生徒は無料だ。

 ケット・シーの村での生活はお金とは無縁だったから、無一文の僕には正直助かる。


「ふむ、なかなか良いところに気付くね。この魔法学校を維持してるのは、誰の魂の力でもないよ。ここはずっと昔から魔法の学び舎として存在してて、魔法の力を積み重ねていったんだ」

 暫くすると魔法人形が湯気の立つ料理を運んで来て、代わりに木札を回収していく。

 メニューは、パンと鶏のクリーム煮と、サラダにフルーツだ。

 お替りもできるらしい。


 僕はシャムの為に鶏肉を解して別の皿に移しながら、エリンジ先生の言葉に耳を傾ける。

「魔法学校の歴史の力、というべきかね。例えばさっき食事を運んでくれた魔法人形は、もう三百年は動いてる働き者だ。機嫌を損ねないように気を付けたまえよ。魔法人形の機嫌を損ねれば、魔法学校での暮らしは酷く劣悪な物になる」

 エリンジ先生の本気とも冗談ともつかぬ言葉に、視線を給仕の魔法人形にやると、彼、或いは彼女は、こちらに向かって手を振った。

 あぁ、どうやら冗談ではなさそうだ。

 この忠言は肝に銘じて、魔法人形には丁寧に接しよう。


「また異界と化したこの場所で、長く頻繁に魔法が使われ、魔法の品も多く生み出されてきた結果、ウィルダージェスト魔法学校がある空間は、世界の理が揺らぎ易くなっているんだ。だから魔法の修練にはより適してるという訳だね」

 食事を口に運びながら、エリンジ先生は楽しそうに語ってくれた。

 この先生は、ケット・シーの村で教わってた時もそうだったけれど、魔法の話をしている時が、何時も一番楽しそうだ。

 

 でも、話してくれた内容は随分と怖い物に思える。

 世界の理が揺らぎ易いって、……危ないんじゃないだろうか?

 いや、そりゃあ優秀な魔法使いの先生が沢山いて、問題ないと判断してるなら問題はないんだろうけれども。

 もしかしたら、既に何か対策はしてるのかもしれないし。

 僕も魔法に関して学んで行けば、やがてはその辺りもわかるようになるだろうか。



 食事の後、エリンジ先生に連れられて寮監に挨拶し、部屋の鍵を受け取った。

 これから先に必要な教科書の類は、既に部屋に運んであるらしい。

 あぁ、でも、寮監はちゃんと普通の人間である。

 少なくとも、見た限りではその筈だ。


 部屋に入り荷を下ろすと、大きなため息が漏れる。

 今日は、もう結構色々とあったから、まだ日も暮れてないけれども、妙に疲れた。


 部屋にはベッドが二つあるけれど、僕だけで使うらしい。

 いや、もちろん、シャムも一緒ではある。

 何でも今年の初等部の一年生は、男子と女子が丁度十五人ずつなので、男女ともに、誰かは一人部屋になるそうだ。

 尤も僕の場合は、シャムの存在があるから、マダム・グローゼルやエリンジ先生が気遣ってくれたのだろうけれども。


「なかなかいい部屋じゃないか。食事も美味かったし、村にいるより全然いいな」

 空いたベッドに飛び乗って、シャムがそんな事を言う。

 暢気でいいなぁ。

 確かに食事は美味しかったけれど、僕は結構大変だった。

 でもそんなシャムは隙だらけで、僕はサッと彼を抱え上げると、背中に自分の顔をうずめて大きく息を吸う。

 つまりは、そう、癒しの猫吸いだ。


「わっ、馬鹿! それはやめろ! くすぐったいって!!」

 シャムは口では嫌がるが、全力で抵抗するような事はない。

 多分、今日は僕が本当に疲れてて、癒しを求めてるんだって、わかってくれているのだ。

 まぁ、それでもあんまりしつこく吸い続けると、へそを曲げられるから程々にはするけれど。


 これから先も、このウィルダージェスト魔法学校での生活は色々あるだろうが、シャムも一緒に居てくれるから、きっと乗り越えて行けると思う。


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― 新着の感想 ―
[一言] 必ず1人は居るやんちゃな子が、先生の言うことが本当かどうか確かめる為に給仕の人形にイタズラを仕掛けて→無謀くん伝説になってそうw
[一言] 猫を吸うことでしか得られない栄養素がある
[良い点] とても面白かったです 程よいファンタジー味がありながら、しっかりと理解しやすい描写で作品の雰囲気に没入することができました
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