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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
六章 二年生

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 冬の寒さは終わらぬが、冬期休暇は無情に終わり、二年生としての前期の授業が始まる。

 夏期休暇が終わった、一年生の前期から後期への移り変わりの時は、授業の変化は難易度だった。

 しかし冬期休暇が終わった、学年が二年生へと変わった今回は、授業の科目自体が変化する。

 幾つかの科目では、それを教える先生も。


「今日から君達に古代魔法の基礎、より正確には古代魔法とは何かを教える、カンター・ログジァーダという。諸君らの学年は実に優秀だと聞いている。以後、お見知りおきを」

 二年生になって初めて顔を見る先生の一人、カンター先生が壇上から、僕らに向かってそう言った。

 家名持ちという事は、貴族の出自なのだろうか?

 或いはサウスバッチ共和国からやって来てるなら、平民でも家名を持ってたりするけれど、あぁ、いや、あの国は、一人前の魔法使いとして認められれば、それで名前が増えるんだっけ。


 ウィルダージェスト魔法学校で、生徒を相手に教鞭をとる先生が、一人前の魔法使いとして認められないなんてありえない。

 そうなると仮にサウスバッチ共和国の出身だった場合は、家名を持たぬ流れ者が、魔法使いとなった事で名前が増えたってケースになるだろう。

 他の国の出身者なら貴族の出で、サウスバッチ共和国の出身者なら流れ者って、別に出自で人を区別する訳じゃないけれど、随分な違いだった。


 まぁ、そんな事は至極どうでもいいからさておいて、この基礎古代魔法は、二年生になって増えた科目の一つだ。

 実は二年生は、科目の数自体が、一年生よりも幾つか多い。


 一年生で習ってた科目は、基礎呪文学、戦闘学、錬金術、魔法学、一般教養の五つ。

 そしてこの五つの科目は二年生になって、基礎呪文学からは基礎の文字が取れて呪文学になり、魔法学は魔法生物学に、一般教養は魔法史へと名前が変わる。

 尤もこの三つの科目に関しては、名前は変われどそれを教える教師に変化はない。

 また戦闘学と錬金術に関しては、科目の名前も教える教師も変わってなかった。

 そこに新しい科目として三つ、基礎古代魔法、基礎魔法陣、治癒術が加わり、僕らは二年生で、合計八つの科目を学ぶ。


 ただこのうち、基礎古代魔法、基礎魔法陣に関しては、二年生で学べるのは、名前にもそうあるように、基礎の部分になるそうだ。

 僕らは高等部に上がる際、古代魔法を専攻する黄金科か、錬金術を専攻する水銀科か、戦闘学、或いは魔法陣を専攻する黒鉄科の何れかを選んだり、或いは適性次第では魔法学校側によって割り振られたりする。

 けれども、当たり前の話だけれど、それに触れてなければどれを専攻すべきか選べないし、適性だって判明しない。

 既に錬金術と戦闘学に関しては、一年間学んである程度は理解をしているけれど、古代魔法と魔法陣は魔法学でそういったものがあると教わっただけだ。

 故に基礎となる部分だけでも、二年生で古代魔法と魔法陣を学んでおく必要があるって訳だった。


 一年生で古代魔法や魔法陣を学ばない理由は、恐らく専門性が高いというか、単純に難しいからだろう。

 ある程度は魔法に対しての理解がなければ、古代魔法や魔法陣に触れたところで混乱するだけだ。

 もちろん錬金術も専門性は高い分野ではあるのだけれど、その中でも魔法薬に関しては、比較的とっつき易いとされているから、一年生から学んでる。

 それに魔法薬を使った回復は、高等部でどの科に進んだとしても、習得しておいて損はない。


 何故なら、魔法薬を使わぬ回復手段、二年生で教わる治癒術に関しては、あまり多用すべきものではないからだ。

 治癒術で主に教わるのは、人の身体の構造である。

 実際のところ、単純に傷を塞ぐ治癒の魔法が、火や水を出す事に比べて物凄く難しいって訳じゃない。

 しかし単純に傷を塞ぐ治癒の魔法で、それ以外の効果を出さない事が、実はとても難しいのだ。


 物凄く簡単な例を出すと、ある魔法使いが病人を相手に、元気の出る魔法を使ったとしよう。

 するとその病人は元気になるのだが、それは寿命を削って一時的に体力が増してるだけかもしれないし、脳内の成分が分泌された影響でハイテンションになって元気になってるだけかもしれないし、実際に病が治ったのかもしれない。

 魔法は、魂の力で理を書き換える。

 だが治癒の魔法で書き換えられる理とは、即ち人の身体なのだ。

 安易に用いれば、それがどんな影響を身体に齎すか、わかったものではなかった。


 魔法薬の場合は、素材の効能や手順等で、効果を限定する事ができる。

 比べて治癒の魔法を制御するのは、呪文と己のイメージのみ。

 故に人体に使うには、治癒の魔法ではなく、魔法薬が好ましい。

 けれども治癒すべき人がいる、あるいは自分が深い怪我を負った時、必ずしも手元に魔法薬がある訳ではないだろう。

 だからこそ治癒術の授業では、確実な治癒のイメージが持てるように、人体の構造を学び、動物や自分の身体を使って、魔法の練習をするそうだ。


 ……といった具合に、二年生の授業は一年生よりも、ずっと難しくなっていた。


「まず古代魔法を学ぶ上で大切なのは、古代とは一体どの時代を言うのかだ。古代魔法の探求とは、即ち失われた魔法の再発見だが、失われた魔法の全てが古代魔法という訳では、決してない」

 カンター先生の見た目は、五十代か六十代くらいだろうか。

 頭は真っ白で顔にも少し皴が多いが、声には張りと、程よい抑揚があって聞き取り易い。

 教師として、生徒に教える事に慣れ親しんでる、ベテランを越えた古強者の風格すらある。


「恐らく魔法史の授業でも習うと思うが、古代とは今より千二百年前、大破壊の魔法使いと呼ばれるウィルペーニストが、この世界を滅ぼし掛けた事により、多くの国が滅びて技術や歴史が失われた。これより前の時代を示す言葉だ」

 だがその聞き取り易い声で語られる授業内容は、かなり衝撃的な内容だ。

 ウィルペーニストは、以前に読んだ『星の世界』という本に記されてた名前だった。

 そう、僕と同じく前世の記憶、星の知識を持っていたとされる人物の一人。

 大破壊の魔法使いなんて二つ名が付いてる以上、それはとんでもない事をやらかしたのだろうとは思っていたけれども……、これは少し、想像を超えてる。


 世界を滅ぼし掛けた。

 それがどんな規模の話なのかは、わからない。

 多くの国が滅びたって事なのか、人の全てが死に絶えるところだったのか、人どころか、文字通りに世界を壊そうとしたのか。

 しかしいずれにしても、文明の伝達が一度途切れたくらいには、大きな破壊を齎したのだろう。

 そんな事、本当に一人の人間にできるなんて、とても思えないのだけれども。


「この世界が滅びかける前に使われていた魔法を、古代魔法と呼ぶ。幾つかの古代魔法は、世界が滅びかけた後も無事に残ったが、やはり多くは技術や歴史と同様に失われてしまった。古代魔法の研究は、この失われた魔法の再発見を目的としている」

 カンター先生の言葉は止まらず、どこか誇らしげに古代魔法の事を語る。

 つまり、古代魔法には二種類あるって話だった。

 一つは滅びを免れ、残った魔法。

 もう一つは一度は滅びてしまったけれど、再発見された魔法。


 なんとも、中々に面白い。

 曰く、高い知能を有する魔法生物との契約も、滅びを免れた古代魔法になるそうだ。

 失われた魔法の再発見は、古代の遺跡に遺された文献、魔法の力を秘めた、或いは秘めていた遺物を手掛かりにして、魔法の全体像を把握し、再現する方法を探るという。

 やる事としては、半分くらいは考古学に近いのだろうか。


 僕が進む道はもう既に定まってるが、……古代魔法も少し、いや、かなり面白そうに感じる。

 尤も、僕がどうしても古代魔法を学びたくなったら、錬金術に習熟してジェシーさんを修復した後で、改めて学べばいいだけだ。

 このウィルダージェスト魔法学校で学ぶ事はできなくとも、例えば黄金科に進んだ友人に、師事してやり方を学ぶのだっていいだろう。

 手段はきっと無数にある筈。


 二年生の授業は、一年生の時よりも格段に難易度は上がってるけれど、……あぁ、その分、より魔法の面白さに迫れそうだった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 『さわりの部分』の使い方、誤用では? 入り口の部分・基礎の部分ではなく、要点・一番大事な部分です。 >「さわり」は義太夫節の最大の聞かせどころ,聞きどころとされている箇所を指した言葉…
[一言] 更新ありがとうございます。 全部知りたくなりますね!
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