表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
五章 平穏ではない冬休み

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/186

54


 冬のある日に一年が終わり、そして新しい一年が始まる。

 これは不思議な事に、以前に生きた世界と全く同じだ。

 特に冬の真ん中に、新しい年を始める理由なんてないと思うのだけれど、……なんでだろう?

 一年の長さも変わらないみたいだし、何か知られていない繋がりが、この世界と星の世界にはあるのかもしれない。


 さて、この日は新しい年が始まる事以外にも、僕にとっては意味があった。

「キリク、誕生日、おめでとう」

 食堂で、クレイがそう言って、果汁水の入ったコップを掲げる。

 隣に並ぶシズゥも、同じように。


 そう、この日は、僕の誕生日という事になってる日だ。

 ……尤も、僕が本当にこの日に生まれたのかはわからない、というか、実際には生まれた日は全く別だろう。

 というのも、僕はケット・シー達が見付けてくれるまで、ジェスタ大森林に捨てられていたそうだから、本当に生まれた日なんて知りようがない。

 あぁ、別にその事に関しては、物心も付いてない時の話だし、そのお陰でケット・シー達の村で暮らせたのだから、特に何とも思っていないけれど。

 単に僕の本当に生まれた日はわからないってだけの話である。


 では何故この日が僕の誕生日になっているのかと言えば、その理由はちょっとややこしくて、ケット・シー達の村では個別に生まれた日を祝うような風習はなく、年が変われば一歳分、年を経たって扱いになるからだった。

 つまり正しくは別に誕生日でもなんでもないのだけれど、クラスメイト達に誕生日を問われれば、この日以外に相応しい日がなかったって訳である。


 コップを軽くぶつけあって、その中身を口に運ぶ。

 誕生日の祝いといっても、別に大仰なパーティをする訳じゃない。

 僕らは所詮、学生の身分だ。

 並ぶ食事は何時も食堂で出される物だけれど、そこに王都で買った菓子やドライフルーツを持ち寄り、ささやかな贈り物を貰う。

 それだけで十分に楽しいし、嬉しい。

 他の友人が誕生日の時は僕もそうしたし、今日は僕がそうして貰ってる。

 まぁ、冬期休暇の只中だから、実家に帰ってしまってる友人が多いのは残念だけれど、そればかりは仕方のない話であった。


「私達の中で、キリクの誕生日が一番遅いなんて、なんだかとても不思議ね」

 そう言って、シズゥが楽しそうに笑う。

 娯楽の少ないこの世界では、祝い事というのは娯楽でもある。

 魔法学校の生徒である僕らは、驚きや楽しさに満ちた生活を送れているけれど、この世界に生きる多くの人はそうじゃない。

 だからこそ、苦しい生活の中でほんの少しの贅沢をする理由、楽しい気分になれる理由を、祝い事に求めるのだ。


 しかし僕が、一つだけ残念に思うのは、シャムがこの娯楽に参加しにくい事だった。

 いや、参加自体はしている。

 僕が彼を置いてくるなんてあり得ないし、友人達もそれは十分にわかってるから、シャムの存在はちゃんと認知してくれているのだけれど……。

 でも、本当は、僕がこの日を誕生日とするならば、シャムだってこの日が誕生日なのだ。

 何故ならこれまで、ケット・シー達の村では、この日に、同じように彼と年を重ねて来たのだから。


 ただ、それを祝ってくれてる友人達に言う訳にはいかないから、シャムは単なる猫として、この場では食事を楽しむのみ。

 僕にはそれが、仕方ないとはわかっていても、どうしても残念に思えてしまう。

 恐らくシャムは、モムモムとローストされた牛肉を食んでいて、そんな事は全く気にしてないのだろうけれども。


 一応、僕はシャムへの贈り物として、少しお高い布地で作った、尻尾に付けられるリボンを用意したのだけれど、……喜んで貰えるかは、どうだろう?

 ケット・シーであるシャムは、人に比べると物に対しての執着が薄いし。

 でも今年送ったリボンを、来年は魔法が掛かった物に交換とか、できれば素敵だと思うのだ。

 もちろん自前で、僕自身が錬金術や魔法陣の技術を習得して、魔法を掛けて。

 ……二年生の終わりまでにそれができるようになるかは、まだちょっとわからないが。


 何時かは、僕の友人達にも、シャムがケット・シーである事は明かしたいし、一緒に誕生日を祝いたい。

 彼らなら、秘密を知っても黙っててくれるとは思うのだけれど、つい先日、学校の中であんな事があったばかりだから、もう暫くは様子見だ。

 シャムは単身で僕よりも強いから、いざって時は切り札にもなり得る。

 家族にして相棒を、そんな風には言いたくないが、僕らはまだ、魔法学校の全てを知った訳じゃないのだし。


 うん、まぁ、今日は難しい事は考えないでおこう。

 友人が僕の誕生日を祝ってくれて、僕はシャムの誕生日を祝う。

 今日は、そういう平穏で優しい一日で終わりたい。


 さっきも述べたけれど、僕らは所詮、学生の身分だから。

 難しく、物騒な事は、魔法使いである以上は避けられないにしても、なるべくは遠くに置いておきたいと、僕はそう思うのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] しっぽにリボン!どうやって固定されるんだろ。するっと抜けちゃうイメージなのだけど。
[良い点] 今回も面白かったです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ