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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
五章 平穏ではない冬休み

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 マダム・グローゼルの話はその後も続いて、ベーゼルの狙いは、僕らと同じくハーダス先生の遺した何かなんじゃないかって言っていた。

 何でも今は、魔法学校の防衛機能には少なからずハーダス先生の手が加わっていて、それを無効化する為に侵入してたんじゃないかと、マダム・グローゼルは考えてるそうだ。

 恐らく、その、星の灯の執行者、ベーゼルの今の仲間を、魔法学校に侵入させ易くする為に。


 星の灯といえば、『星の世界』に名前が載っていた、グリースターが興した宗教である。

 グリースターも、同じく星の知識の持ち主だから……、やはりあの銃、魔法殺しもその知識で作られた物なんだろうか。

 ただ、マダム・グローゼル曰く、あの銃もまた、魔法の力で動く品だった。

 あの銃で撃たれる弾丸が、先端だけミスリルを被せられているのも、ミスリルという金属が貴重である事ももちろん無関係ではないが、総ミスリル製とすると、銃に掛けられた発射機構の魔法を壊してしまうからなんだそうだ。


 シャムがベーゼルの腕を切り落としたから、現場には彼の手と一緒に銃もまた残されてて、マダム・グローゼルが直々にそれを調べたから、まず間違いないという。 

 そして、これは僕にとって少し重要なんだけれど、現場には、その切り落とされた腕以外、ベーゼルの痕跡は残っていなかったらしい。

 僕の魔法は人を殺せる威力はあったが、跡形もなくしてしまう程の代物ではなかった。

 つまりベーゼルは、あの瞬間に移動の、それも長距離を転移する魔法で逃げたって事だ。


 なので僕はベーゼルを、人をまだ、殺していない。

 ……殺さずに済んだと、言うべきか。

 それとも殺せなかったというべきか。


 だがベーゼルは、恐らく僕やシャムを、ハッキリと敵として認識しただろう。

 もしも次に会う事があったなら……、改めて仲良くなんて訳には、行く筈もない。



 マダム・グローゼルは、もう暫くは医務室で休むようにと言い残して去ってしまった。

 僕は、確かに話に疲れを感じてもいたので、再びベッドに横たわる。

 でも、意識のなかった先程までとは違って、今度は何時もベッドでそうしてるように、シャムが入ってこれるスペースを作って。


「ねぇ、シャム、さっきの話、どう思う?」

 僕は顔の横、枕元で丸まったシャムに、そう問う。

 マダム・グローゼルは、ベーゼルの目的は魔法学校の防衛機能を弱め、星の灯の執行者を侵入させる事だと言ってたけれど、……いや、その事に間違いはないのだろうが、問題はその先だ。

 魔法学校に侵入した星の灯の執行者は、一体何をする心算なのか。


 星の灯が魔法使いを敵視する宗教ならば、当然ながら魔法使いを養成するこの学校も、敵対する対象だろう。

 その割に、あの銃は魔法の道具だっていうし、魔法使いであるベーゼルも執行者にしているし、ちょっとやる事に矛盾がある。

 毒を以て毒を制すって心算なんだろうか。

 いや、そもそも『星の世界』に載ってた記述が正しいなら、星の灯を創設したグリースターは、魔法使いだった筈なんだけれど……。


「何でもいいよ。次に会ったら、あの首を落とすだけ」

 だけど僕の問い掛けに、シャムは素っ気なく、物騒に、そう返す。

 あぁ、まだちょっと、ご機嫌斜めらしい。


 僕がふと思ったのは、ベーゼルが星の灯の執行者を侵入させようとしたのは、魔法学校全体じゃなくて、卵寮なんじゃないかって事。

 この魔法学校には、ハーダス先生の手が加わってない防衛機能だって、そりゃあ存在するだろう。

 何しろウィルダージェスト魔法学校の最大の強みは、長く積み重ねた魔法の力だ。

 幾らハーダス先生が偉大だといっても、遺したものはその積み重ねの一部に過ぎない。


 しかしハーダス先生の手が加わってない防衛機能が、恐らく殆ど存在しない場所もある。

 そう、それが卵寮だ。

 ハーダス先生が校長をしてる時に建てられたのだから、積み重ねた歴史も、他に比べれば圧倒的に薄い。


 では卵寮に侵入したとして、一体何を企むのか。

 それは……、卵寮で暮らす生徒を攫う事だと、僕は思う。

 あの時、ベーゼルも、時間があれば僕を攫う心算だったみたいな言葉を、口にしていた。


 ならばそれは、何の為に?

 その答えは、他ならぬベーゼル自身だ。

 彼がそうなってしまったように、星の灯の執行者とする為に、魔法学校が集めた、魔法の才のある子供を攫う。

 それが、星の灯って宗教組織の狙いなんじゃないだろうか。


 未熟な間に攫って執行者に仕立てられるなら良し、それができずに成長を許し、一人前の魔法使いが誕生するくらいなら殺してしまえ。

 そんな心算で、ベーゼルは僕を殺そうとしたんだと思う。

 実に嫌な想像だけれど。


 ……もし僕の予想が当たってたら、或いは僕の友人達にも、危険が及ぶ事があるのかもしれない。

 そういえば、以前から少し気になってのだけれど、貴族の子弟が魔法使いの才を持っていれば、その子は当主への道を閉ざされる。

 ジャックスはフィルトリアータ伯爵家の三男だから、元より当主は遠かっただろうけれど、以前に僕と模擬戦をした上級生のグランドリアは、ヴィーガスト侯爵家の嫡子だったという。

 でもグランドリアは、当主への道を閉ざされて、魔法学校に来る事になったそうだ。


 一体何故なのか。

 それは恐らく、魔法使いは普通の貴族よりも、多くの危険に見舞われるからではなかろうか。

 魔法使いとしての力を発揮する為に前線に赴いたり、星の灯なんて組織に狙われたりするから、魔法使いの才を持った子は、当主への道を閉ざされるんじゃないかと、僕はそんな風に予想する。

 貴族家の当主の死は、どうしたって家を混乱させるだろうし。


 そう考えると、この魔法学校が、戦いを苦手とする生徒にも、くどいくらいに戦い方を教えているのも、そしてその戦い方が魔法使いを想定したものである事も、……幾らかは納得がいく。

 魔法使いは戦えなければ、自らの身は自分で守れなければ、危険だというのなら。


 これまで、あまり興味を持たなかったけれど、魔法学校を卒業した後の、一人前になった魔法使い達は、一体どんな風に生きてるんだろう?

 調べてみた方が、いいかもしれない。

 貴族に仕えたり、軍に入ったりするとは聞いたんだけれど、全員が全員、そういう訳ではないだろうし。

 進路か。

 考えてみれば当たり前の話なのに、僕は目先の、興味のある事ばかりを追い掛け過ぎてて、その辺りを全く気にしてなかった。


 いずれにしても……、力が欲しい。

 もっと戦い方が上手くなりたいし、もっと多くの魔法が使えるようになりたいし、錬金術に習熟して、ジェシーさんを直したい。


「……頑張らないとなぁ」

 ただ、今日のところは、もう少し休もう。

 僕はそう呟いてから、ゆっくりと目を閉じる。

 シャムは、僕の声に身じろぎしたけれど、結局は何も言わなくて、だけどずっと、枕元に居てくれた。



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