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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
五章 平穏ではない冬休み

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 ふと気付けば、どこかのベッドに寝かされていた。

 身を起こし、ぐるりと辺りを見回せば……、ベッドの横に置かれた椅子の上に、シャムが丸くなって寝ている。

 あぁ、ここは医務室か。


 何時の間にか着替えさせられていた、患者衣のような薄手の服の前を開け、お腹を確認するけれど……、穴はどこにも開いていない。

 自分じゃ確認できないけれど、きっと背中も同じだろう。

 あの、撃たれた時の感覚的に、弾が貫通したとは思うんだけど、治療で痕まで消えたらしい。

 身をよじっても痛くはないが、ほんの少しだけ、身体の中の方で引き攣るような違和感はあった。


 ……あの時、僕を撃った物は、間違いなく銃である。

 ただ、発砲音はしなかったし、威力や、僕が負った怪我もおかしい。

 僕が知ってる銃、少なくとも手に持つタイプの拳銃だったら、あんなにも簡単に盾の魔法を貫通はしない筈だ。

 いや、しないと思う。


 実際の拳銃がどれ程の威力なのか、触った事もない僕は詳しくわからないんだけれど、銃の威力は口径が大きい程に上がるってくらいは知ってる。

 もしも僕を撃った銃が、盾の魔法を貫通するくらいの威力だったら、僕のお腹が消し飛ぶような大きな傷を負った筈だし、そもそも即死してたかもしれない。

 弾丸を受けた衝撃で、吹き飛びもしただろう。

 しかし実際には、僕のお腹に穴は開いたが、即死もせず、吹き飛びもしなかった。

 ならあれは、僕の知ってる銃じゃない。


 ジェシーさんはどうなったんだろうか。

 僕が生きてるくらいだから、魔法人形であるジェシーさんなら、あの銃の弾を一発や二発受けても平気だとは思うが、あまり沢山撃たれればどうなるかはわからない。


 あぁ、でも、あの不審者の腕は、シャムが切り落としたんだっけ?

 ……それから、僕の魔法が、燃やし尽くしたような、気もする。

 殺して、しまっただろうか。

 いいや、間違いなくあの魔法を、僕は殺す気で放ったのだけれども。


 命を奪った事は、これまでにもある。

 ケット・シーの村にいた時は、鹿を仕留めたり、罠で捕らえた鳥を絞めたりしてた。

 ただ、それは食べる為の行為だったから、ただ殺意のままに、他者を殺したのは初めてだ。

 食べるのは命を繋ぐ為、殺されそうになって、相手を殺すのも、命を繋ぐ為、そう考えれば、行為に矛盾はないんだけれど……。


 落ち着いた状況で考えてみると、少しだけ、割り切れない。


「シャム」

 小声で、呼んでみた。

 するとシャムは、すぐにパチリと目を開けて、大きな欠伸を一つした後、椅子を蹴ってベッドの方に飛び移る。


「寝坊助。馬鹿。鈍間」

 それから、僕を見上げて口にしたのは、幾つもの罵倒の言葉。

 これは、うん、結構本気で怒ってる。

 心配を掛けたってのは、もちろんあるけれど、それ以上にこれは、

「キリクがどうしてあれを見て、危険を察したかはわからないけれど、察したなら避けられたよね。なんで守りに入って、しかも守り切れてないのさ」

 無様に傷を負った僕と、それから一緒にいたにも拘らず、僕の怪我を防げなかったシャム自身への、不甲斐なさへの怒りだった。


 そう、実際、そうだ。

 僕は、あの不審者が出した銃を見て、僕が星の知識で知る銃と同じ物だと思い込み、それなら盾の魔法で防げると考えた。

 異なる世界に、全く同じ物がある筈がないのに。

 例えば包丁だって、こちらの世界の包丁は鉄が多いけれど、以前に生きた世界ではステンレス製の物が多かったように思う。

 いや、そもそも僕が鉄と認識する物だって、こちらと以前に生きた世界では、実は別物かもしれない。


 つまり僕が怪我を負ったのは、完全な思い込みによる、油断だった。

 障壁を展開しながらでも動ける、回避行動を取れるのが、盾の魔法のメリットなのに。

 もしもシャムが言うようにちゃんと避けようともしてれば、完全に回避できたかは、ちょっと自信はないけれど、腹ではなく腕とか足とか、もう少し別の場所に怪我をずらす事は、可能だったかもしれない。


「……そうだね、ごめん。シャム、あれから何があったか、教えてくれる?」

 まずは自分の間違いを認めよう。

 それから、状況の確認だ。

 僕が素直に謝罪して、問いの言葉を発すると、シャムは一つ溜息を吐いてから、口を開く。


「いえ、それは私から話しましょうか」

 しかしその時、スッと現れてそう言ったのは、マダム・グローゼルだった。

 まるで僕らの話に聞き耳を立てていたかのようなタイミングに、思わず僕は眉根を寄せる。


「えぇ、申し訳ありません。二人の話は聞かせて貰っていました。キリクさんの具合も気になりましたし、何よりこれは魔法学校の安全に大きく関わる事でしたので」

 だが、マダム・グローゼルがあっさりとそう認めてしまうと、僕が口にする文句の言葉はなくなってしまう。

 まぁ、確かにそうだ。

 怪我人が起きたかどうかの確認は、できるならそうするだろうし、あの不審者は、間違いなくこの魔法学校の安全を脅かす何かだった。


 単にあの後起きた事の確認ならともかく、どうしてあんな人が卵寮に、魔法学校の敷地内にいたのかも含めて話して貰うなら、マダム・グローゼル以上にそれを説明できる人はいない。

 僕が納得し、頷いたのを確認してから、マダム・グローゼルは言葉を続ける。


「まずキリクさんを襲った彼が誰なのかを説明しましょう。シャムさんに聞いた特徴から判断して、彼の名前はベーゼル。本来なら高等部の二年生で、キリクさんの知り合いのシールロットさんの一学年上の、当たり枠だった生徒でした」

 それからマダム・グローゼルが語った話は、僕にとって全てが驚きで、そして酷く物騒だった。


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