表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
五章 平穏ではない冬休み

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/186

49


「……一年生、いや、もうすぐ二年生だな。どうした? こんな時間に屋上に来て」

 屋上に来た僕らに気付き、その上級生はこちらを振り向き、言葉を発する。

 髪は銀色の癖っ毛で、何というか独特な雰囲気のある、男子学生だ。

 身体は、随分と大きい。

 少なくとも、少し前までこの卵寮にいた二年生、冬期休暇が終われば高等部に上がる彼らではなかった。


 すると必然的に高等部になる訳だけれど、高等部の三年生は既に卒業してるから、一年生か二年生になるんだろうか。

 でも、後期の終わりに行われたパーティで、こんな先輩を見た覚えはなかった。

 目立つ風貌に纏う雰囲気、こんな人を見てれば、忘れないと思うのだが、……でもあの時は仮装してる上級生が多かったからなぁ。


「あっ、いえ、ちょっと探検をしてて。僕、この学校に来るのは皆よりも遅かったんで、タイミングを逃してて、人が少ない今がチャンスかなって」

 彼からの質問に対しては、元々用意していた、寮監にも使った言い訳を口にする。

 まさか、ハーダス先生の遺した何かを探してるなんて、言える筈もないし。


「お前、当たり枠か」

 だが僕の言葉に、彼の顔色が変わった。

 何だか妙な雰囲気だ。

 僕は後期の模擬戦で、上級生に勝ってるから、実は少しばかり顔は知られてる。

 当たり枠の存在を知ってる生徒なら、僕がそうだと推測するのは難しくないし、今更そんな事を言いはしない。


 ……何だ?

 この先輩、僕の自意識過剰かもしれないけれど、色々と腑に落ちない。

 見覚えがない事も、僕を知らないのも、一つ一つは些細な話なんだけれど、重なると妙に違和感があった。

 そもそも、高等部の生徒が、この卵寮で何をしてるんだろう?


 疑問を抱き、警戒した僕の表情を見て、その上級生は舌打ちを一つした。

 凄く、忌々しげな顔をして、

「……折角の当たり枠だ。攫っておきたかったが、その時間もないしな。放置して成長されても厄介だ。まぁ、会った以上は、殺しておくのが無難だな」

 なんて言葉を口にする。


 は?

 一瞬、僕は耳を疑う。

 確かに、その上級生は怪しい相手だ。

 でも、だからって、まさか、唐突に攫うだとか、殺すだとか、そんな物騒な言葉をこの魔法学校で耳にするなんて、思いもしなかったから。

 しかし彼の言葉には、口だけとは思えない、本気の凄味が、籠ってた。


 そしてその上級生が懐から抜いてこちらに向けたのは、杖ではなく、筒状の何か。

 見た覚えがある訳じゃないのに、記憶にはあるそれに似たその何かを見た瞬間、僕は咄嗟に盾の魔法を展開する。

 なのに、次の瞬間、僕の腹部から背中を、これまでに感じた事のない灼熱感が走って、膝から力が失われてしまう。


 痛みは、まだ感じない。

 けれど、頭の中は混乱で一杯だ。

 撃たれた事は、わかる。

 だけど、何故それがそこに在って、どうして盾の魔法が、展開した障壁がこんなにも容易に貫通されてしまったのか。


 シャーッと強く一声鳴いたシャムが、僕の肩を蹴って跳ぶ。

 だが既に、その上級生、もとい不審者はその筒をもう一度僕に向けていて……、そこにジェシーさんが、僕に覆い被さるように割って入る。

 発砲音は、聞こえなかった。

 ただ、僕を庇ったジェシーさんが、びくりと震えて、動きを止めて、シャムの爪が、ケット・シーである彼の本気の一撃が、謎の不審者が筒を持った右腕を、ズバッと切り落とす。


 恐らく、不審者にとっても、単なる猫に見えていたシャムの爪が、自分の腕を切り落とした事は、……当たり前だけれど予想外だったんだろう。

 か細い悲鳴を上げながら、よろよろと後ずさる。


 状況は相変わらず、何もわからなかった。

 でも、もうそんなの関係ない。

 僕を庇ってジェシーさんが撃たれた。

 それだけで、僕が殺意を抱くには十分過ぎる。


「死ね!」

 僕は生まれて初めて、いや、前世の記憶の中を探っても、やっぱり初めて、心の底から本気で、その言葉を口にして魔法を放つ。

 翳した右手、指輪を填めたその手から、炎の塊は飛び出した。

 詠唱は、省略。

 灯し、広がり、放つ、三つの繋がりを持った魔法は、人を葬り去るに十分過ぎる火力を持つ。

 彼が本当に上級生なら、それを防ぐ防御の魔法は当然ながら使えるだろうけれど、シャムに腕を切り落とさればかりの今、まともに魔法が使えるとは思えない。

 つまり僕は、そこまで理解した上で、やっぱり相手を殺す為に、加減なしで魔法を放った。


 そして炎は、狙い違わず、その謎の不審者を飲み込んで、……だが傷を負いながらも魔法を使ったせいか、或いは強く興奮し過ぎて血が激しく流れたからか、僕の視界はぐるりと回って、スッと暗闇に染まる。

 シャムの声が、聞こえた気がした。

 けれども僕は、もう自分の意識を保てなくて、……そこから先を、覚えていない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 続けて読む2話目で油断してました( ; ゜Д゜) やっと屋上で何かを見つけるんだなと思ってたら怖っ! 更に続きが気になります。 もちろん主人公だし命に別状ないはずですが。
[一言] うおっ急展開!? 一気にスリル&サスペンスに?
[一言] また新しい愉快な仲間かなぁと思ってたら急にバイオレンス 心温まるゆるふわ物語だと思ってたのに騙された! 悔しい‼︎でも好き
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ